34.壁の補修と直談判した妹~ガルヴァウside
「あれからひと月半か……」
カリエルは生徒会長の執務机に両肘をつき、ため息を吐く。
最近よくやる物憂げな表情だ。
本人は気づいてねえが、カリエルはこのひと月ちょいの間で、学校の女子生徒達ばかりか、淑女や一部の男子生徒の恋心を無意識に刺激、いや、ドツボに落としまくっている。
回帰前の記憶とやらが蘇り、精神年齢が二十ウン年足されたせいだと、俺は考えている。
カリエルは元々、どこか庇護欲を感じさせる優しげな美少年的外見だ。
そこに二十ウン年物の大人の余裕、そして色気というエキスが注入された。挙げ句、気づけば物憂げな表情をしていれば、自然と目を引く。
そして理由を尋ねても、困ったように笑って『なんでもない、ありがとう』と言うのだから、周りの奴らは余計に気になる。
そんな悪循環により、カリエルは周りの人間を魅了し続けていた。
「そうだな。ここの壁の補修もやっと終わって良かったじゃねえか」
そんなカリエルに軽口を叩くのは、俺――ガルヴァウ=カミュリッチ。
最近できた【カリエルにかまわれ隊】に所属する一部の男子生徒達からは嫉妬の視線を、女子生徒達からは何故か見守り慈しむような、ねっとりした視線を受ける事が増えた。
ねっとりした視線を送ってくる女子生徒は、決まって頬を赤らめてる。
一体、俺とカリエルのツーショットを見て、何を想像してんだ?
そんな風に思うものの、俺の本能が知らない方がいいと警告するので、あえて考えないようにして?。
回帰に関しては、カリエルの完全なる自己申告。回帰を証明する物質的な証拠はねえ。
普通は信じられねえような話だが、俺は信じてる。いや、信じざるを得なかった。
理由はひと月前、この壁が木っ端に吹き飛んだ事故に起因する。
この件は原因不明の事故として処理されたが、実はガーゴイルに乗った俺の妹、フィデリカが壁を木っ端にした犯人だ。
この時のカリエルと妹のやり取りを直接見て、回帰を信じた。
多分、いや、絶対に妹はカリエルと同様、回帰前の記憶を持ち合わせている。
「体の具合はどうだ? もう呪いの影響は何もねえのか?」
ひと月前までカリエルは呪われ、そのせいで体調に異変を生じさせていた。
「ああ。私はもちろん、父上も政務に復帰できたくらいには体調が回復した。兄上も精神的に安定したから、来月あたりからは王太子教育を再会できる。今までは母上も国王代理として政務優先だったけど、王妃として城内の内政の見直しに取りかかったよ」
カリエルの言う通り、呪われていたのは我が国の第二王子であるカリエルだけじゃなかった。直系の王族が皆、呪われてた。
「そっか。直系の王族が全員呪われてたなんてな。念の為ってので陛下に確認されたんだが、カミュリッチ家に解呪ポーションの在庫はねえ。だから次に誰かが呪われたら、どうにかして魔国の周りの結界を突破して、解呪ポーションを作れるフィデリカを探し出さねえといけなくなる」
「その時は、私が魔国に行くよ。フィー私の妻だからね」
「回帰前はな。結局、フィデリカがカリエルとの婚約を心底拒否って、国王に直談判して婚約もなかった事にしちまっただろう」
そう、王族を蝕んでいた呪いは妹が輩的に飲ませた解呪ポーション【激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク】と腹パンで解呪された。
正直、殺意あふれる、というか殺意しかこもってねえ、ヤベエ味の激マズポーションを、カリエルだけでなく国王にまで『オラオラァ!』と輩モードを発動させ、強制的に飲ませた挙げ句に腹パンしたと聞いた時には、カミュリッチ家終わったと思った。
それも国王を含めた王族だけじゃねえ。我が国に唯一存在する神殿のトップとなる、神官長にまでやらかしてた。
それを並んで目の前に座ってた国王と神官長から聞かされた日にゃ……領民引き連れて魔国に亡命すべきかと、話を聞きながらわりかし本気で計画を立ててた。
「ふぐっ……痛いところを突かないでよ」
現実を指摘する俺の言葉を聞き、カリエルが机に突っ伏する。
回帰前のカリエルは、呪いのせいで妻である妹を冷遇し、俺と父上を斬首刑に処し、カミュリッチ家を断絶させた。
俺は覚えてない。
回帰前の記憶を持っていた妹は、死に際に呪いに使う媒体となった首飾りを壊したらしい。
正気を取り戻したカリエルと、妹のペットになってたケモックという名の魔国の王により、妹とカリエルは回帰した。
この回帰前の記憶を、少なくとも妹は物心つく頃には思い出してたようだ。
カリエルが強制的に婚約を結んだ事に猛反発し、国王達の呪いを解く対価として婚約を解消させた。




