32.メタルスライム
「ゼルが二本目を飲まなくて良かったわ。あの日、フィリの作ったポーションに含まれていた特有の魔力を感知して、たまたま邸を訪れた私を褒めてあげたい」
ほんわかと微笑む師匠。
あの時――ポーションを飲んだゼルに身体強化した私が腹パンし、スライムっぽい何かを吐かせた時――タイミング良く師匠が、ゼルの壊した外壁からひょこっと顔を出したのだ。
余談だが、回帰前にお世話になった師匠を見つけた私は、歓喜したのは言うまでもない。
そしてゼルが吐いたのは黒いスライムではないし、初めにゼルに腹パンしたのはバードとゴルだ。
まずはスライム。これは光沢のある鈍色をしたスライムっぽいやつで、なんかウゴウゴっと蠢いていた。
師匠の見解では黒スライムは呪いの芽、鈍色のメタルちっくなスライム――メタルスライムと名づけよう――は、長い間体に留まった呪いの塊らしい。
そしてバードとゴルのそれぞれが腹パンしても、嘔吐くだけで出てこなかったメタルスライム。
コイツは身体強化した私が腹パンすると、デュロロロンと出てきた。
どうやら私が魔法で身体強化した状態で腹パンすると、ゼルの体内に留まるポーションに含まれている私の魔力が共鳴し、出てくる仕様らしい。
この件は私のポーションを飲んだ師匠が、実体験と共に明らかにした。
もちろん私は自ら【激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク】と名づけた、あの時点では最後の一本だった方の解呪ポーションを飲ませるつもりなど、毛頭なかった。
けれど師匠を見つけるなり、バードが私からポーションを奪い取り、ゴルと共に鬼気迫る顔で師匠に詰め寄り、すぐさま解呪すべきだと師匠を誘惑したのだ。
ゼルもそうだが、バードとゴルも師匠との付き合いが長いらしい。師匠の味音痴、んんっ、ポンコツ舌、んんっ、まあ、言うなれば食の好みを熟知していたのだろう。
師匠は解呪ポーションなる液体そのものではなく、【激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク】の名に反応。名前を聞いた瞬間、嬉々とした顔になり、バードが手にしたポーションを奪い取る勢いで手にすると、ためらいもなく飲み干した。
弁明するなら、私は師匠の弟子を名乗っている。当然、師匠にこんな激マズ品を飲ませるつもりなどあるはずもない。
突き抜ける辛さか、胃もたれする甘ったるさかの二択にはなるが、自分の心が平静を取り戻した後で新規に解呪ポーションを作り、師匠に持って行くつもりだった。
ちなみにポーションの原料は、魔国の結界内にはたくさん自生し、結界外では魔国の結界脇にだけ、ちょこちょこ生えている。
見た目はどこにでも生えてそうな、タンポポみたいな植物だ。
けど花の色は黒い。今のところ結界の外で生えているのは、魔国の結界脇でしか見た事がない。
図鑑でも調べてみたものの、黒いタンポポは存在していないようだ。
この黒タンポポと疲労魔力回復に良いとされる幾つかの薬草を煮込み、私の魔力を注いで作るのが、【フィデリカ特性解呪ポーション】である。
解呪ポーションを飲んだ師匠は、やはりゼルと同じように吐き出せず、私が腹パンした。
バードとゼルは初めから、戦闘中でもないのに女性を殴るなどできないと主張し、私に白羽の矢が立った。
師匠もゼルも吐くだけ吐くと、スッキリしたのか、丸一日眠っていた。
二人が目を覚ます直前、ゼルは獣人、師匠はエルフの姿へと変態を遂げた。
これはその後、新たに私が作った解呪ポーションを飲んだ、バードとゴルも同じだ。
この時の解呪ポーションは、突き抜ける辛さ味だったと聞く。
このタイプの解呪ポーションでも、やっぱり身体強化した私の腹パンがないとメタルスライムを吐き出せなかった。きっと私の解呪ポーションは、そういう仕様なのだろう。
ただし魔国には小さな子供もいる。もちろん呪いの影響を受けていて、いわゆる異形な姿だ。
魔国の住人達の大半は頑丈な肉体を持っているし、私は十二歳の子供だ。十歳を超えた子供なら、私も気にせず腹パンできる。
けれど大半から外れる人達や、見た目からして幼子と称せる子供達への腹パンは、私もしたくない。
そこで結界の外でも未だに有名人である初代聖女の出番だ。
「そうね。フィリの解呪ポーションが効いてる内に、子供達の解呪に行ってくるわ」
「はい! 私もお供します!」
「フィリ様行くなら、俺も行くっす!」
師匠の言葉を聞き、私はすぐさま手を上げる。
続いて、私の護衛であるゼルも手を上げた。




