31.在庫の内の一本
「ふう……甘くて美味しい」
私の特製ポーションを飲み、ほうっと息を吐く、見た目エルフな師匠。
色っぽい。目の保養だ。
「でも……物足りない……もう在庫もないのよね……激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロ風味のポーション」
物憂げに目線を下にやり、しょぼんとする師匠。これはこれで可愛らしい。ご馳走様だ。
「リビア様すっげえ……俺が飲まされたポーションと同じの飲んだんだよな? この世の汚物を詰めこんだような味と凶悪粘着質な喉越しだったのに……味音痴すぎ……」
そんな師匠にドン引きした視線を送る、見た目獣人のゼル。失礼な私の護衛だ。
「激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンクは、私の恨み辛みの感情がマックスレベルに到達しないと作れないから……」
「すっげえ……ある意味呪いのドリンクじゃねえか」
師匠に申し訳ない気持ちで言えば、失礼発言しまくりのゼルが、私から一歩遠ざかる。
「失礼ね。そもそも激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンクをゼルに強制的に飲ませたのは、バードが私を連れてこの邸に戻った途端、襲ってきたからじゃない」
「うっ、それは……」
言葉に詰まったゼルを見て苦笑した。
バードとはこの魔国の王にして、回帰前は私の可愛いケモックであり、回帰後はケモック二世と呼んでいるザケルバードの愛称。
回帰前、私の愛しい家族だったケモックは、バードが獣化した姿だった。
「残ってた二本の在庫は、本当はこっそりバードとガーゴイルやってたゴルに飲んでもらおうと思ってたのよ」
「今ならわかる……フィリ様のこっそりは、絶対バレてたっすよ。あの時、ザケルバード陛下とゴル兄が過去一必死に、つうか目を血走らせて俺を追いかけて、生け捕りにしたんすよ。今までどんだけ攻撃しても追い払うだけだった、あの二人がっすよ。しかも俺を捕まえた途端、フィリ様に『今すぐポーションで解呪しよう!』って鬼気迫る勢いで言うし、何ならフィリ様から二本目も奪って、追加で飲ませようとまでしてたし」
「確かあの時、ゼルは戦闘力だけならバードに次ぐ力の持ち主だから、さっさと解呪して理性を取り戻してもらうのが一番だって、バードもゴルも言ってたのよね」
ちなみにゴルはゼルとは血の繋がったお兄さんだ。バードのお友達兼、今はバードの最側近として常に側にいる。
ゼルと同じ髪色で、赤い瞳をしていて、弟のゼルのせいで気苦労が絶えなかったからだろう。どことなく陰を感じさせる儚げ美丈夫だ。更に左の目元にホクロがあり、儚さに色気をプラスしている。
ガーゴイルだった頃の翼が背中に残っていて、色気と相まって伝記に登場する吸血鬼のような外見だ。もちろん色白である。
一本飲み干したゼルは、私から二本目を奪おうとしたバードとゼルを見て、私にうるうるとした目を向けた。言外に助けてくれと言わんばかりのウルウルな目、そして解呪前の名残で残っていたお耳と尻尾。
とっても可愛かった。なので残り一本はバードとゴルから死守。
この事もあり、解呪後にゼルは自ら志願して私の護衛になった。
「ふぐっ、それを言われると言い返せないっす……」
ガクリと項垂れたゼルを見て……くっ、やっぱり可愛い! ゼルの見た目はその昔存在していたという獣人そのもの。犬耳にフサフサ尻尾がトレードマークだ。
呪いが解けるまでは針金みたいな鈍色の毛だったけど、今は艶のある灰色で柔らかい。モフりたい。
けれどお触り禁止令が出ている。もちろんバードの命令、というか哀願だ。
というのも一度だけゼルをモフり倒した事がある。その際、バードがケモック姿で乱入した。ちなみにモフモフ子山羊姿の方。
解呪前に獣化できていた人達は、解呪後も獣化できる。
もっともガーゴイルだったゴルは、何故か可愛らしい蝙蝠姿だったりと、獣化に多少変化が加わった人達もいる。
あの時は二人共モフモフした。が、バードはそれが気に入らなかったらしい。
自分以外の毛モフ禁止令が出されてしまった……酷い。子山羊には子山羊の、それ以外の毛にはそれ以外の魅力があるのに……。
回帰前はカリエルの呪いを肩代わりしたせいで、体が弱っていた。それもあり、ケモック以外の動物と接していなかったからわからなかった。どうやら私の愛魔獣ケモック二世は、嫉妬深くて独占欲も強いらしい。
それはさておき、好戦的でバードと一方的な派閥争いを仕掛けていたゼルは、今では私に従順なワンちゃんだ。
バードいわく、元々こういう性格だったらしい。性格が変わっていったのは、呪いの影響を受けたせいとのこと。
私は回帰前のケモックに、どうして角が一本しかなかったのか気づいた。
きっとゼルが折ったのではないかと思っている。今となっては真相は闇の中だけど。




