30.伝記
「師匠、お待たせ!」
言いながら研究室のドアを開ける。
ここは魔国。ザケルバードが住んでいるお城の一角に作ってもらった私の研究室だ。
祖国の王城に奇襲をかけ、手当たり次第に激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンクを飲ませ、呪いを受けた人達を解呪した日から一ヶ月経った。
「フィリ」
中にいたのは女性。私を見るなり愛称を呼んで優しく微笑む。
女性は長い銀髪にマゼンダピンクの瞳が映え、同じ女性の私から見ても、とっても見目麗しい。
「その師匠というのは……解呪ポーションで救ってもらったのは私の方だし、何も教えていないわ」
確かに師匠――リビアが苦笑して、そう言ってしまうのも無理はない。
けれど私ことフィデリカ=カミュリッチ、現在12歳は実は回帰者だ。20歳で殺され、誕生直後へと回帰した。
余談だけど回帰した途端、産婆にお尻をペチンペチンぶっ叩かれてパニックになったのは、今では良い思い出だ。
そんな私の回帰前、私には呪いに侵された夫がいた。夫の名はカリエル。臣籍降下した元第二王子だ。
回帰前の私は、カリエルを愛していた。
どんどん衰弱していく夫を救うべく奮闘する私を見て、気の毒に思ったのだろう。
愛獣ならぬ愛魔獣のケモックが、私を魔国へと連れて行き、師匠と会わせた。
後から知った事だけど、その頃の師匠も含め、魔国の人間は呪いに侵された末に外見が異形へと変化していた。
師匠は伝記などで出てくる鬼のような姿をしており、両こめかみ近くから軽く前にせり出した角を生やし、赤黒い肌をしていた。
ちなみに――。
「……フィリ様……リビア様が来たって聞いた途端、護衛の俺を置いて駆け出さないで下さいよぉ」
私の後ろから情けない声で現れた大男――ゼルの解呪前の姿は、伝記などで出てきそうな狼男そのものな外見をしていた。
筋骨隆々で灰色の毛皮に覆われた狼男が、牙を剥いて殺意を振り撒きつつ襲ってきた時は正直、死んだと思った。
とにかくそんな感じで、結界に囲まれた魔国の外で住んでいる人間からは、魔族などと不名誉な呼び方をされるくらいには、異形な見た目をしていた。
とはいえ解呪した今も、異形の名残はあるけど……。
師匠とゼルを軽く見やる。
二人して肌の色艶は私と同じ。
けど師匠は未だに耳が尖っているし、ゼルは焦茶色の瞳は解呪前そのままに、髪色と同じ灰色の犬耳とフサフサな尻尾が生えている。
この二人のみならず、解呪した魔国の住人達は皆、伝記などで出てきそうなエルフや獣人と酷似した姿となっている。
もしかすると伝記は、呪いに侵された人達の解呪前と解呪後の姿を後世に残し、後世ではそれら伝記を元にファンタジー小説等々に登場するようになったのかもしれない。
初めて師匠と会った時、師匠はケモックとどこかへ消え、暫くすると再びケモックと現れた。
回帰後の今だから察せたけど、きっとケモックは師匠に私へ手を貸すよう頼んでくれたんだと思う。
師匠は私からカリエルの症状を聞くと、カリエルが呪われていると示唆した。
その後、師匠は私の手を握り、私の体に自分の魔力を流したり、逆に私の魔力を師匠の体に流させ、まずは魔力のコントロール方法を教えてくれた。
そうして私がカリエルの呪いを肩代わりする方法と、自分の中に移した呪いを自分の魔力を使って分離し、ゆっくりと打ち消す方法を教えてくれたのだ。
あの時、師匠は一気に大量の呪いを引き受けたり、呪いに侵されて苦しいからと、早く呪いを解呪しようと無理する事はけっしてするな、禁忌だと伝えた。
そして今、私は祖国の神殿に仕える教皇と国王から、祖国の隠された歴史について話を聞いた。
だからこそ思う。
呪いを解呪や浄化するには解呪向きの魔力が必要で、異形となった魔国の住人達は皆、呪いに対抗する魔力を持っていた。
そんな彼らこそが、神官や聖女だったに違いない。
師匠の話では神官の力は呪いに干渉できる程度。呪いが進行しないよう抑える事はできても、呪いそのものを解呪する事はできないらしい。そして治癒魔法は必ず扱える。
聖女は呪いに干渉できるし、人に巣くった呪いを解呪したり、呪いそのものを浄化もできる存在。ただし必ずしも治癒魔法が扱えるわけではない。
聖女の力の程度は個人差が大きく、かつては神官に含まれていたのだとか。
つまり今、祖国で神官と呼ばれる人達とは根本的に異なる魔力の質を持っていたという事になる。
だって祖国の神官達は、治癒魔法が使えても呪いには干渉するどころか、呪いを視る事すらできない。
そんな祖国の大昔、祖国には呪いを扱う……伝記的な表現をするなら、呪術師とか黒魔法師的な人間がいて、ある日呪いを大量に撒き散らし始めたのだとか。
神官や聖女達は対抗するも、人間に負の感情がある限り根絶するのは難しく、やがてキャパを超え始める。
その当時、初代聖女として神殿が地位を認めるくらい、呪いの浄化力に最も長けていた師匠も例外ではなく、ある特殊な石に封じつつ、なるべく多くの呪いを解呪していたという。
結果、神官と聖女達は呪い殺される事はなくとも、前に異形の姿へと変化してしまう。一度変化すると解呪も浄化もできず、呪いの影響からか凶暴化してしまう者も出るようになった。
神殿と王家が手を組み、呪いを撒き散らす者達を見つけ出し、粛清し、なんとか呪いの広がりは抑えたものの、異形な姿の人間や凶暴化が表沙汰になると、異形の姿となった神官や聖女達は迫害の憂き目に遭い始める。
やがて彼らはケルバード領近くの森に移り住み、結界を張って自分達を閉じこめた。
時が経ち、いつしか結界外の人達は結界内を魔国と呼ぶようになる。
魔国に住む直前、祖国の国王達から聞いた話と、師匠から聞いた話。卵が先か鶏が先かな事象はあるだろう。
けど、私が二つの話を繋ぎ合わせて推測した魔国の成り立ちは、当たらずとも遠からずじゃないだろうか。
お待たせしました!
2章開幕です(*^_^*)
現在、ラノベとは全く違うジャンルの公募に応募する小説と平行作業しており、恐らく週二投稿になるかなと思います(;・∀・)
※現代ミステリーむずい…ラノベと書き方全然ちゃう(;´Д`)
○お知らせ○
無駄に10分以内DIY動画をYouTubeに投稿してたのがちょっとまとまってきたので、お暇な方はそちらも暇つぶしにご覧下さい(*´∀`*)ノ
うちの汚庭と汚部屋が見れますよ~( ´艸`)
汚いのはきっと年内限定……来年には整理整頓された部屋に、花と野菜まみれの美庭になるはず(つд`)
https://youtube.com/@ashika.arahana-diy?si=AKhrfpm2f9vWwgcZ




