29.寝物語~ガルヴァウside
「そっかあ。一安心だね」
俺の話を聞いて、ほっとした顔で呟いた父上。
「いや、慰謝料云々は一安心だけど、神殿がフィデリカを聖女認定したい、つってただろ? 安心できる状況じゃねえよ」
「神官長すら、呪いに気づいてなかったんだってね? 気づいてたとしても、簡単に解呪できないくらい、えげつない呪いだったんでしょ? そんなのを簡単に解呪するって、フィデリカは凄いね!」
ニパッと、無邪気に笑う父上。ダメだ……単に娘を褒められて嬉しいってだけの感情しか、持ち合わせてねえ。
父上は、外面で騙しがちだが、基本的に俺と同じく脳筋。あんまり物事を、深く考えない。
ついでに母上も、いわゆる天然だ。
夫婦そろって領地経営も、実はからっきし。そのせいで妹が物心つくまでは、実は領収が傾きつつあった。
傾く速さが緩やかだったのは、領の場所が魔国との境にあったから。国防費っていう名の国からの支給金で、緩やかに傾いてただけだ。
ちなみに俺も領地経営の才能はからっきしで、生活を質素倹約に努める以外、特にできる事もないと思ってた。
妹が物心ついたあたりで、領に転機が訪れる。
頭の回転が速くて機転も利く妹が、五歳で父上の補佐をすると宣言。僅か数年で領収を上向かせるまでに至った。
「いや、確かにフィデリカは凄えよ。そもそも呪いに気づけるスキルっつうの? そのスキル持ってると、まずは聖女の素養ありって認定されるらしい。神官長が言ってた。その上で呪いを解呪できれば、治癒魔法も含めて目立った魔法が使えなくても聖女に認められるらしい」
なお、解呪のやり方は何でも良しとされている。歴代の聖女達は、治癒魔法のように対象へ手をかざして解呪してきてたらしいが……。
妹が使った激マズポーションを本当に妹が作り、対象の体から吐き出させた事が確認できれば、神殿は正式かつ大々的に妹を聖女に認定し、神殿に取りこむつもりだ。
「だけどフィデリカは魔国に行っちまった。暫く……いや、年単位で帰って来ねえだろ」
それもあって神殿は魔国入りに猛反発。
まあ連中が反対したところで、妹は既に魔国へ旅立っちまってんだが。
ただ国としちゃ、神殿に取りこまれるより前に、何としても妹と連絡を取り、魔国と自国を仲介して欲しいと言われている。
このあたりは神殿と意見が異なるらしい。俺が城に滞在して二日目の事だ。国王が自ら秘密の通路を使い、内々に俺の部屋を訪ねてそう頼まれた。
「父上、魔国の成り立ちなんだが……」
「五百年前に即位した国王の弟王子が、神殿の初代聖女と一部の神官、国民達と一緒に呪いを引き受けて、異形の姿になったんだよね。確か聖女がピンク色の宝石に呪いを封じてたんだけど、間に合わなくなったんでしょう? カミュリッチ家では、そうなってるけど、本当かな? 大昔からの当主の間の口伝えだから、嘘か本当かわからないよね」
「……」
父上が当然のように話し始めた内容に、絶句する。
テレヌ公爵令嬢が呪いに使ってた首飾り。そこにはめこまれてた宝石がピンク色だった。
テレヌ公爵令嬢は第一王子の婚約者として城を出入りする内に、城の保管庫で首飾りを見つけたと言う。
テレヌ公爵令嬢は、首飾りが「我を使って栄誉を得ろ」と唆したと主張している。
初代聖女がピンクの宝石に呪いを封じただと?
「それで弟王子は、姿が変わった人達を連れて移動して、結界を張って引きこもった。だから呪いに気づけるのも、呪いのせいで異形姿に変わった魔国の人間なら、気づけるみたいだよ。異形姿になった人は、自分で解呪できないみたいだけど」
「……はあ!? 何で国と神殿とで秘匿してた事を、父上が知ってんだよ!?」
「ええ? だってカミュリッチ家の初代当主は、弟王子の忠臣だったって話だよ? 余計な争いが起きないよう、見守る役目を負ってるよね? 弟王子は、初代カミュリッチ家当主に役目を命じて去ったんだよ?」
「当然知ってるよね、みたいな口調になってんのは何でだ……」
「何を言ってるのかな? ガルヴァウが当主教育を始めた初めの初めに、教えたでしょう?」
「……そう、だったか?」
「えー、わかりやすく絵本を読み聞かせして教えたよー」
「……そういえ、ば?」
思い出すのは、父上が寝物語で聞かせてくれた……。
「おとぎ話じゃなかったのかよ……」
ガクリと項垂れてしまった。
「だから、うちの領の隣が魔国なんだよ。国王と教皇は知ってるけど、呪いを解除できるのは聖女……えっと、浄化魔法を使える人は何故か代々女性しかいなかったから、聖女って言われるんだけど、聖女だけなんだ。でも滅多に生まれないし、魔国の住人を助けられるだけの力を持った聖女も、ずっと現れてなかったみたいなんだよ。ただ、もし聖女が現れると、政治利用される場合もあるでしょう? だから呪いの話や、呪いの絡む魔国の情報は秘匿扱いにされたんだ」
駄目だ、父上の言葉を聞いてしまったら、もう何も言えねえ。何なら父上は、国王や神官長より詳しいな。
つうか今だからこそ俺も、小さい時に父上がベッド脇で話してたのを思い出した。
「……まあ、そんな訳だから、フィデリカは暫く帰ってこねえけど、心配はいらねえ。ただフィデリカから何か連絡が来ても、国王や神殿の奴らには絶対、秘密にしてくれ。俺も父上も、今回の一件でフィデリカからの信頼に傷をつけてる」
「うぐっ……フィデリカの為になるって思ったんだよぉ……エリシアにバレたら、口を利いてもらえなくなるよぉ……」
「なるべく早く母上の怒りを解除してもらう為にも、フィデリカを最優先にしよう」
ちなみにエリシアは母上の名前だ。
「うぅ……わかったよ……」
情けない顔で了承する父上を宥めてから、ひとまず俺達は城を出た。
帰り際、カリエルが駆けてきた。妹から連絡がきたら、すぐに連絡して欲しいと言われた。
だけど多分、望みを叶えてやれないだろう。そう思ったのは秘密だ。
一年後、正式な手続きによりテレヌ公爵家は取り潰しになった。元テレヌ公爵令嬢は、それから数日後に斬首刑となる。
そうして次に俺が妹と再会したのは、妹が輩となってやらかしてから五年の歳月が流れるとは、その時は考えもしなかった。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
これにて1章は終わりです。
2章からはフィデリカの魔国編となります。
来週のどこかから2章を開始する予定なので、よろしければブックマークしてお待ち下さい。
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