砂時間
東京での出来事を引きずって、どん底状態で長野に帰ってきた亜子。
そんな亜子は宏樹の錯覚現象を見て崖に落ちそうになる。そんな亜子を雅矢が助けた。その時、亜子は雅矢の存在を強く感じた瞬間だった。また強い磁場からのエネルギーを受け入れる感性まで亜子は研ぎ澄まされようとしていた。
いつもどうして雅矢は、わたしが困っていると現るのだろうか。
そしてわたしの危機的回避を何度もしてくれた。けど雅矢のことを知ってるようで、わたしは、なにも知らない。知ろうとすればするほど離れていきそうだ。
それでも今日は雅矢と会う予定だ。わたしは、なにから聞こうと考えながら玄関を出た。
「やあ!」
考える余裕もなく雅矢が立っていた。
「また駄菓子、食べたくなったから」
雅矢は、ほんとに駄菓子が好きだ。しかも同じ商品ばかり買う。
「今日は、うまい棒とビッグカツとクッピーラムネにする」
雅矢が選んだ商品は意外だった。
「いま、意外だと思ってるでしょ」
「••••••」
「もしかして図星?」
わたしが考えてることを雅矢には、お見通しだ。
「今日は、何時まで大丈夫?」
今、おばあちゃんが体調のいい時は店番してくれる。ある意味亡くなる前の意地かもしれない。わたしもおばあちゃんを見習いたい。
「今日は、おばあちゃんとママが店番してくれるからずっと大丈夫よ。雅矢は?」
「そうなんだ。じゃあ、連れて行きたい場所があるんだ」
わたしの質問には答えずに雅矢は先を歩いた。
行先は山と山の盆地に広がった草原だった。ちょっと待ってて、雅矢はその場で、なにかを始めた。わたしはスマホを握り今日こそは、LINE交換しようと決めていた。
「ちょっと目をつむって」
わたしは雅矢の言葉に素直に従った。頭になにかが、のった感覚があった。
「なに?」
「シロツメグサで作った花冠だよ」
わたしは一度、手元で確認した。一瞬、古い丸型の蛍光灯を思い出した。でも雅矢は上手にシロツメグサを編んで花冠を数分で作った。
「次はこれ」
同じくシロツメグサを編んで首飾りまで作った。まるで小学生低学年がする行動で、お世辞にも十七才のわたしがもらってもうれしくない。
けど雅矢の疑いもなく幼心で向かってくる気持ちは、少女時代の心をわたしには失っていたが、蘇させられる。
「わあーー気持ちいいなぁ」
雅矢が大の字で、その場で寝転んだ。わたしも真似して隣で大の字で寝転んだ。見上げる空の積乱雲が早く左から右に流れていた。山並みが流れる積乱雲でかすんだ。
寝転んだ視線に、チョウチョやトンボが飛び交っている。 そのトンボが状態を起こしたわたしの差し出す指先に止まった。
近くで田んぼの畦を刈った生々しい草の匂いが鼻を敏感にさせる生臭い匂いだ。東京では、こんなに五感を使うことなどない。
「そのトンボ、もう少ししたら赤トンボになって街に降りてくるんだよ」
「へーぇ、赤トンボって、最初山の上ではこんな色してたんだ」
全て東京では体験したことのない夏をわたしは過ごしていた。
「ちょっと次に行こう」
雅矢が急に立ち止がり草原を下った。わたしも雅矢の進む方向に慌てて進んだ。
「わぁーー、なにここーー!」
それはひまわりが丘一面に広がり、鮮やかなイエローで丘を染めていた。それはエモい光景だった。
こんなに沢山のひまわり、テレビでしか見たことない。しかもひまわりは背が高く太陽の方向を向き迫力がすごい。
「どうしてこんなエモい場所をわたしに?」
「ぼくにとって大事な人だから」
わたしは、その言葉が恥ずかしくて目の前に植えられたひまわり周辺の砂を握った。握った手のひらから砂がこぼれ風に吹かれ散った。その砂は跡形もなくなった。(雅矢、どこにも行かないで)握った砂と同じく今の時間も儚く消えていきそうで不安だ。
雅矢と一緒だと雅矢は、わたしを全て受け入れてくれる。 そんな優しさが、余計に自分の心を自分で、引きちぎりそうで雅矢を失うのが怖かった。
「一緒にひまわりの写真撮ろうよ」
わたしは初めて雅矢と写真を撮った。シロツメグサの花冠と首飾りをして。まるで姫になった気分だった。どうして、雅矢の前だとこんなに純粋になるんだろう。
「明日の盆踊り祭りと花火大会楽しみだね」
「そうだね」
「連絡交換しようよ」
わたしは思い切って雅矢に聞いた。
「いいけど、明日でいいかなぁ? また迎えてに行くよ」
「うん。わかった」
「それより明日ピアノ演奏頑張って」
そうだった盆祭りのイベントステージで、げんさんに頼まれてピアノ演奏するのだった。しかも2曲も。
「帰って練習しなきゃ」
「ただいま、あれっママは?」
「亜子ちゃんおかえり。急な仕事で東京に戻らないと行けなくなったみたいよ。LINEメール入ってない?」
「そうなんだ」
確かにママからLINEが入ってた。わたしは、ふと今日撮った雅矢との写真を見た。その写真を見ながら、これから雅矢との写真が増えることを望んだ。
わたしは、そんな気持ちも込めてピアノ練習をした。おばあちゃんは店番しながら聴いてくれた。
「亜子ちゃんの弾くピアノ演奏素敵だねぇ。今まで弾いてなかったのが嘘みたいに上手だわね」
おばあちゃんにほめられるとクスグラてる感覚で、妙に照れてしまう。
「亜子ちゃんたまには、おばあちゃんと一緒に寝ようかぁ」
おばあちゃんの屈託ない笑顔は、相変わらずわたしの弱い部分に染み込んでくる。
結局布団を二枚敷いて二人で寝ることになった。
「亜子ちゃん今、好きな人がいるでしょう」
「えっ?」
「亜子ちゃん見ていると分かるわよ」
「うん」
おばあちゃんは気を使ってそれ以上聞いてこなかった。わたしは長野に、きてから不思議な体験をおばあちゃんに話した。けどパニック症候群や雅矢に助けられた話しはするのをやめた。
「この場所は昔から、そんないい伝えはあるわよ。特に千年に一度の今年は強いエネルギーがあるらしいわよ」
「それって南海トラフなみの地震とか?」
「それって違うエネルギーだわよ。明日そのエネルギーがあつまるかもね」
「明日?」
「神社の建て替えも終わったし、明日は盆祭りだし。オホオホオ。冗談よ」
ゆっくりした時間が過ぎていく。
何だかおばあちゃんと、こんな時を過ごすのも砂のような、形がない淡い一瞬に感じた。
今日は握った砂時間をこぼさないようにとわたしは願った。
今回も閲覧していただきありがとうございます。
次第に亜子は雅矢を通して、無防備な自分から、もがきながら前に進もうとしてます。そしていよいよ、この街の最大イベントがあります。今後二人は、どう進んでいくのでしょうか。




