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終末

 間違いなく、殺した。断罪ちゃんも殺した。ただ、それらはもっと近くで確かめなければ。

 あたしは壇上に足をかける。壁際には、首元を両断された二つの無残な死体が転がっている。

 注意深く観察しながら、近づいていく。

「……ねぇ」

 生者はあたししかいないと思っていたが、突然の声に若干驚く。しかし、すぐに平静に戻り、声がした方を向く。

「断罪ちゃん」

 見ると、彼女は両断されたのは首元ではなく、肩甲骨の下あたりから、腹にかけてだった。照準をあいつに合わせていたため、断罪ちゃんは違うところに当たってしまったのあろう。おそらくうつぶせだったのだろうが、いま、身をよじって仰向けになっている。証拠に下半身と上半身の向いている方向が反対だ。

「……来た……んだ」

 確かに外したとはいえ、未だ生きていることが不思議なくらいだ。しゃべるのも辛そうだ。

「来たよぉー?あいつを殺すのは、あたしって言ったでしょぉー?」

「……そう……」

 その口からは、既にかすれ声程度の小さな声しか聴きとれない。口から空気よりも血液の方が大量に出ていると言ってもいい。

「ねぇー?あたしにウソついたり、急に襲ったりぃー、目覚めたら、こっぴどく叱ってやるから覚悟しなよぉー?」

 冗談交じりに明るくそう話しかける。何はともあれ、あいつがいないのであれば万事解決なのだ。

「……フフッ……」

 断罪ちゃんは、何が面白かったのか、一瞬笑みを浮かべて、すぐに血を吐き出す。べちゃり、と床に血塊が飛び散る。

「……ごめ、ん」

「そうだねぇー?一回謝ったくらいじゃあたしは許さないよぉー?」

 なんだか、雰囲気が今生の別れみたいだ。こういうのは嫌いである。

「目覚めたら何しよ……」

「……ねぇ」

 あたしの話を少し強い語調で遮って、再び血を吐きだす。ただ、それから何かを話したいという意思は確かにくみ取ったので、静かに待つ。

 なんだか、今ここで聞かなければならない気がしたから。

「……目覚めた私とも……仲良く……してね?」

 なにを言っているのだろうか。

「当然じゃない。仲良くするに決まってるよぉー?」

 なんだか、本当にこれで最期みたいで、いつも通りを振舞おうとするのに。でも、なんで。

「あ、れ?なんでだろう?水が?目から?は、はひゃはは♪なんでだろうね?」

 なんで、涙が止まらないんだ。

 これからが、これからが楽しみのはずなのに。

 なんで、あたしの胸はこんなにも痛いのだろう。

「ねぇ、ねえ!」

 強く呼びかけるが、断罪ちゃんの返事はもうなかった。

「ねぇってば!起きてよ!ちゃんと!起きるよね!!朝になれば!ね!」

 わずかな期待を込めて、あたしは断罪ちゃんに縋りつく。今は冷たくとも、明日になればきっと。

 なのに、なんでか、あたしはきっと、彼女はもう目覚めない。そんな確信がどこかにあった。

 涙が止まらない。理由もわからないのに。

「ねぇ、断罪ちゃん。あんたの方が、あたしよりもよっぽど冷たいよ」

 彼女の血に濡れた頬に触れる。

 冷たい。

 もう。

 次の瞬間。

 さぁっと、どこからか風でも吹いたのだろうか。断罪ちゃんの身体がボロボロと朽ちて、塵となっていく。彼女だけではない。下にある男の身体もだ。

 同じタイミングで、同じところに向かって。不思議な風に乗って。あっという間に、そこには何もなくなってしまった。

 そこに何かがあったという、証は、ただ、あたしの記憶の中だけに。

 消えた、消えた、消えた。

「あ、あああ、あ」

 嗚咽が漏れる。

「あ、あああああーーーーーー―――――――!」

 それはすぐに慟哭に。

 誰もいない教会の壇上で、あたしはむせび泣くことしかできなかった。

 ただ一つ、小さなナイフだけが、転がっていた。


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