見学
「ひゃはふひひはは♪そんなんじゃあっさり殺しちゃうよぉー?ひははははふひゅは♪」
あどけない少女の奇妙な嗤いが、高らかに荒野に響く。
その声が引き金となったかのように、上空にいくつもの刃が創り出される。
「……こんなものでわたしの全力を全て見切ったと本気で思っているのかしら?」
すでに何度か同じような攻防が繰り返され、土煙舞う戦地に、女性が立っている。
再び現れた刃にも全く動ぜず、女性は数歩前へ出る。その足元には水が滴っており、その水は少女の足元まで続いている。
「墜ちろ」
「溺れろ」
二人同時に呟き、空からは女性の首を断たんと刃が落下し、少女の足元からは窒息させんと水の柱が立ち上がる。
数刻が立ち、土煙の中からは再び無傷の女性が、一方には未だ陸で溺れた状態の少女が立っている。
「こんばぼぼでばびなばいぼぉー?」
少女が何を言っているのかはわからないが、その表情が嗤っていることだけは分かった。
「それはそうよ。わたしの水による溺死はただの結果に過ぎないもの。本来の目的は苦しめること。ふふっ、あなたはどれだけ耐えられるかしらね……!」
女性も嗤う。
そして、再びぶつかる二人。
今やっていることは確かに殺し合いなのだが。それでも二人は楽しそうだった。
そんな二人を遠巻きに眺めている私。
たぶんすごいことをしているのだろうが、何がすごいのかは私にはわからない。
結局今日やったこととしては、昼間はやることなしに散歩したり、家になぜかあったトランプをしたりしたのだが。夜の帳が落ちると、一瞬で和やかな雰囲気は消え、血で血を洗う戦場と化した。
ギロチンも水責めさんも、それはいつも通りのことらしいので、二人にとってはリハビリ代わりだとは思うし、どうせ翌朝には全部戻るからいいとは思うのだが。
「……はぁ」
私の懸念は別のところだ。
あまりに弱すぎた。それだけ。
先ほど、記憶のない私でもなんとかなるかと思って参加したのだが。
「……一瞬で捕まるし、すぐに首刎ねられそうになるしなぁ……」
記憶がないからなのか、それとも元からなのか。なんにせよ、始まった瞬間に別に狙ったわけでもない、二人からすれば挨拶代りとでも言えるような攻撃にあっけなくはまってしまい、二人が別ベクトルで唖然としているところを、死ぬ前に降参してきたところだ。
馴染みのポーチもどっか行ってしまっていて、武器らしい武器もなかった。本当にどうしようもない。
開始早々殺されて、翌朝まで放置とかあまりに無残すぎるし。
「……ギロチンとの二回戦時とかは結構できていた気がするのだけど……」
それにしても、まさかこれほどとは。確かに一対一はほとんどしてきてないけど。
なんにせよ、私は弱すぎた。それだけである。
遠巻きに二人の様子を見学する。
間断なく墜ちるギロチンの刃に、辺りは土煙が立ち込めていて、その中で何が起こっているのかまではよくわからない。しかし、未だ刃の落下音が聞こえるということは、戦闘がまだ続いていることを意味している。
「……二人ともすごいなぁ」
そんな、人並みの感想しか出てこない。
別にものすごくはやく動いているわけでもないし、特別人外めいた動きをしているわけでもない。見えていないのは、土煙のせいもあるし、墜ちてくる刃は全然目には見えないけれども。
彼女らの所作はどこまでも自然なものだ。普通に歩いて、時々走って、たまに立ち止まる。そこは当たり前のような動作の積み重ねがあるだけで、一見私でもすぐにできそうな錯覚を覚える。
だからこそ、全然わからないのだ。何を意識して、何を見て、彼女らがそのように動くのかが全然わからない。
何もわからないから、人並みの感想しか出てこないのだ。
私はしばらくの間、そのままボケっと観戦を続けた。
しばらく戦いは続いたが、そのうち刃の落下音は静まっていき、最後にひと際大きく、ダンッ!!と音が鳴った後、辺りは静まり返った。
土煙のせいで何も見えなかったが、それが収まった後、そこには水たまりの中心に立っているギロチンと、断頭されて倒れ伏した水責めさんが転がっていた。
ギロチンの勝利。
「ひゃひはひゃはは♪今回もあたしの勝ちぃー!」
そう言って笑うギロチン。それは無慈悲に首を断ったとは思えないほど、無邪気な笑顔だった。
ギロチンは歩いて傍に寄ってきた。そして、私の傍に座った。ちなみに水責めさんの首と身体は引きずってきてその辺りに放っている。
「どうだったぁー?あたしの戦いはぁー?」
「……いや、正直よくわかんなかった」
素直に答える。
「あぁー、まぁ、断罪ちゃん、すぐにリタイアしてたしねぇー?」
私の一言でいろいろ察したギロチンは、それ以上の感想を求めようとはしなかった。
「そんなことよりぃー、本当にこれからどうする気なのぉー?流石にあの弱さは自分でも予想外過ぎたんじゃないー?いやあたしも予想外だったけどさぁー?」
つまり、その弱さでそもそもどうやってこの世界を生き延びていくのかということを聞いているのだろうか。
確かに、ギロチンの言う通りだ。
今の弱さでは、オルグの前に立つことはおろか、そこに辿り着くことさえ間違いなく不可能だろう。
「本当に、今でもあいつに会うだなんて思ってるぅー?」
ふざけた口調の割に、わたしを見つめるその視線はいたって真面目だ。むしろその中には、私を気遣うような温かさまである気さえする。
それでも私は。
「……会う」
その決意は微塵も揺るいではいなかった。
これは私の今の存在意義だ。己のほとんどを忘れた私の、数少ない生存方針だ。それを曲げる気はない。
「そっかぁー、ま、あたしには頑張ってねぇーとしか言いようがないけどぉー?死ぬほど頑張ってねぇー?」
それはギロチンの精一杯の激励の言葉なのだろう。素直じゃない彼女の、内心はとても優しいギロチンの応援。
「……うん、頑張る」
それは私の胸の中に大切にしまわれて、きっと空っぽな心の糧となるのだろう。




