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ギロチンの話

「おいしかっっったぁーーー!!ふぅー」

 ギロチンが机の上に突っ伏す。

 食器はすでに片付けられ、水責めさんは今それらを洗っている。そういえば水も汚染水しか見えなかったが、どこから調達しているのだろうか。

 まあ、いいか。

「……おいしかったね」

 ギロチンほど緩みきって態度には出さないが、初めての食事はとても良いものだった。それはただ初めてだったから、というだけではなく、皆で一緒に食べたから、ということもあるのだろう。

 一緒、というのはいいものだ。

「あなたたち、朝から結構食べるのね……」

 私たちが食後で緩んでいると、呆れた様子で水責めさんがやって来た。

「だぁーってねぇー?」

 それだけ言って、ギロチンは私に目配せする。なんだ、続きは私が言えということか。

「……おいしかったから」

 本日何度目の「おいしかった」だろうか。まだ朝起きて間もないというのに、私の人生経験は非常に濃いものになった気がする。

「ねぇー?」

 ギロチンが同意する。

「さてと」

 水責めさんが席に着く。だがその時には、そのまなざしは幾ばくか鋭いものとなっていた。

「これからの話なんだけど」

 そうだ、いつまでも緩んではいられない。幸い、この世界では朝になるとすべてが、いや、今となってはほとんど、が元に戻る。ならばゆっくり休養などと言っていられない。体調は万全なのだ。今からでも行動を始める必要がある。

「そうだねぇー?」

 ギロチンも体を起こし、すっと目を細める。

「じゃ、まずは状況整理から始めようかぁー?あたしと水責めちゃんは共有しているけど、断罪ちゃんはお寝坊さんだからねぇー?それに……」

 彼女はここで言葉を区切り、

「あなたにもきっと関係があることだと思うしね。少なくとも聞いておいて損のあることではないんじゃないかしら」

 続きを水責めさんが引き継ぐ。

「……そう」

 この世界において私は新参だ。仕組みや法則について、彼女らの方がずっと詳しい。そんな彼女らが私の、私たちの現状を鑑みてどう思うか。一聞の価値はある。ギロチンだけではなく、水責めさんとも考察した結果だろう。ならば聞く以外の選択肢は存在しない。

「……じゃあ、お願い」

「わかっ……」

「わかったぁー、じゃ、はなすよぉー?」

 頷いて返そうとした水責めさんの言葉をまたも遮り、ギロチンの少しあどけなく、どこか間延びした言葉が響く。水責めさんは恨めしそうにギロチンを睨んでいる。

「そうだねぇー、まず何から話そうかぁー?あ、そうだ。そういえば食事前にあたしの腕のこと話してたねぇー。じゃあ、そこから話そうかぁー。

 見てのとおり、あたしの腕は元には戻ってないよねぇー。それはあいつの、“処刑人”の持つあの剣、あたしは“斬首の剣”って勝手に呼んでるけど、ま、水責めちゃんは別の呼び方してたかもねぇー?なんにせよ、あの剣があたしたちイリヤの存在そのものを断っているのは間違いないかなぁー。

 ここまではさっき一応話したと思うけど、復習だと思って聞いてねぇー?

 で、ちなみになんであの剣にその力が宿っているのか、ということを断定するのかというとねぇー、あたしが斬られたから、というのも一つありはするけど、もう一つ。

 ……あたしは、見たんだよ」

 最後の一言。

 それには、いつものふざけた調子はなく、浮かんでいる表情以上の何かをその裏に孕んでいる気がした。

「……何を?」

 それでも私は聞いてみる。今聞かないと、二度と聞きけない気がしたから。

 ギロチンも語りだす。

「そうだねぇー、あたしが断罪ちゃんと出会う前の話だねぇー?ほんとに最初、あたしが断罪ちゃんの首を刎ねるちょっと前のことだよぉー?

 あの時ねぇー、あたしはいつも通り殺しあっていたんだよぉー。楽しく愉しく、やっていたのに。そんなときに、あいつが来た。顔は見えなかったけどねぇー?あいつはあたしの相手をまずは斬ろうとした。あの子も精一杯に戦っていたんだけどねぇー?あの時は普通にイリヤだと思っていたから、あたしは獲物を取られることに悔しさこそ覚えたけどぉー、ま、機会などいくらでもあるし、今日くらいは譲ってやろぉーって寛大な心持だったんだよ?それであの子は殺された。その時は何も思わなかった。死体は首をはねられていたけれど、その他にも打撲なんかの傷跡もあった。

 それで翌日。死体はとっても綺麗だったよぉー?とっても、とぉーってもね。ところどころに切り傷はあったけどねぇー?それ以外の傷はすべて消えてた。まあ、悲しいことに首はなかったけどぉー?」

「……その切り傷が、オルグの剣に斬られたところだったってこと?」

 すでに分かり切っていたことだったが、一応確認する。

「そういうことぉー。ま、その子は別に親しい関係ってわけでもなかったけど?だから大して残念な気持ちはちょっとくらいしかわかないけどぉー」

 そう言いながらも、その顔はいつになく陰っている。

「……それで、ギロチンは仇討に“処刑人”を殺しに行ったのよね?」

 沈黙が続いてしまいそうになったところで、今まで黙っていた水責めさんが入ってきた。

「……そうだねぇー。後日、不意をついて思い切り断頭刃を四枚くらい墜としてやったんだけどねぇー?」

「……失敗したの?」

 あの時、ギロチンと相対したときの口ぶり的には、ほぼ成功したような感じだった気がするのだが。確かに生存していたということは、最終的には失敗した、ということになるであろうが。

「失敗、したのかなぁー?」

 その口ぶりには、疑問もあったが、どちらかというと、後悔のようなものが滲んで見えた。

「首を刎ねることには完全に失敗したねぇー?でも、両手を切断することには成功したんだぁー。両手切断されて確かに死んだと思ったんだけど、やっぱり復活したのかなぁー?あいつはこちらを殺せるのに、こちらはあいつを殺せないとかぁー、ずるくないぃー?」

 その言葉に含まれるのは、額面通りにただ駄々をこねているだけなのだろうか。私には、それがどことなく泣き言、弱音であるようにも思えた。

「まあ結局、一時的な記憶喪失にでもなって、断罪ちゃんとしばらくは行動を共にしてたっぽいんだけどねぇー」

 これで、ギロチンがオルグを殺した話はおしまいのようだ。

「で、あたしの腕の話、というか、“処刑人”の剣の話に戻るけどぉー、これ、一度見てもらえるかなぁー?」

 そういうや否や、ギロチンはいつもの外套を脱ぎ、下のドレスを露にする。初めてまともに見るその白黒のドレスは、所々に紅く輝く小粒の宝石があしらっており、非常に可愛らしいものだった。全体で見てみても、ギロチンの容姿によく似合っており、見た目に頓着のない私から見ても、きっと素晴らしいものなのだろう、という感想を抱かせる。

 そのはずだった。

 その左腕はすっぱりと切断されており、その目立つ綺麗な切断面が彼女の景観を乱していた。

 もう一度言おう。

 切断された左腕は、「綺麗な切断面」を見せていたのだ。

 つまり。

 そこにあった綺麗な切断面、それは、その先にもう腕が存在しないということを忘れたかのように、拍動とともにどくどくと脈打ち、赤い血を流す動脈と、酸素を放出して黒くなった血を通す静脈と、身体の動きに合わせて収縮するいくつもの筋繊維と、その中に通る一本の白っぽい上腕骨。その先の腕は確かに無いはずなのに、血液はなぜか噴き出ず、赤色のその断面は、本当に「綺麗な」様を見せつけていた。

「……これは……?」

 一言で言うと不気味だ。

 私は驚いて周りの様子を見てみるが、もうすでに見た後なのか、水責めさんの顔に動揺の色は見えなかった。

「いやぁー、ほんと、これすごいよねぇー?まさかこんな方法であたしたちを“殺し”に来るなんてさぁー?」

「……どういう、こと……?」

 未だ動揺隠せず、震えた声でそう尋ねる。

 流石にソレをそのまま露出させておくことは嫌なのか、ギロチンはそそくさと外套を着なおし、

「はい、水責めちゃん、答えて!わかりやすく!断罪ちゃんだけでなくあたしにもわかるように!」

 水責めさんにその答えを求めた。

「はあ?私の予測はさっきあなたには説明したでしょう?それを言えばいいじゃない」

 見るからに水責めさんは面倒くさそうだ。

「だってぇー、全然わからなかったんだもんー。水責めちゃんの言葉はいちいち回りくどくて全然わからないよぉー?それはたぶんあたしだけじゃなくて断罪ちゃんも一緒なんじゃないかなぁー?」

「あなたは理解できないんじゃなくて、理解しようとしてないだけでしょうが……」

 ひときわ大きくため息をつき、しかしこれ以上文句を言うことには疲れたのか、自らの口で説明し始めた。

「そうね、その傷跡、まるで“生きて”いるみたいよね」

 言わんとしていることはわからなくもないため、頷いて肯定の意を示す。

「そう、その断面はその先にまだ腕が存在しているかのように動いている。けれど、ギロチン、あなたは別に腕の存在を感じていないんでしょう?」

「うーん、普通に腕はないかんじだよねぇー。重さもいつもと全然違うしぃー?今日だけで何度転びそうになったことかなぁー。あたしは頭身が低めだからただでさえ転びやすいっていうのにねぇー?」

 私にはギロチンが転ぶようなドジっ子属性を持っているように微塵も思わなかったが、それを想像してみると……。

「あ、いま失礼なこと想像したでしょぉー?」

 バレてた。

「……いや別に。ドジっ子なギロチンはマスコットみたいで可愛いなとか全然全く微塵も霞ほどもこれっぽっちも思ってないよほんとほんと」

「めっちゃ早口じゃん!絶対思ってたやつじゃん!」

 思わず自分の心中を大体吐露してしまった気もしなくもないが、きっと気のせいだろう。そんなわかりやすく反応する奴なんかいるわけないじゃんか。

 私を問い詰めるギロチンを軽く誤魔化していたら、ごほんと水責めちゃんが咳払いした。

「夫婦漫才はそんなもんでいいかしらね」

 そうだった。今は情報共有中だった。ふざけている場合とかないんだった。

「ハハハ、これは失敬失敬、でも聞き捨てならないことを聞いたもんでしてねぇー?しょうがないしょうがない」

 なにがしょうがないのか。まあ、私にも悪いところはあったけど。

「それで、何だったかしら……」

「あたしの腕の感覚はないけど、なんか生きてるみたいに動いている感じのところぉー」

「あなたに言われると釈然としないのはなぜかしら……。まあいいや、いまは。

 それで、確かに腕は存在しないのに、なぜまだ生きているかのように動き続けるのかしら?答えは簡単。“そもそも傷ついてなどいないから”よ」

「……そもそも傷ついてなどいない……?」

 現にギロチンの腕は傷ついている。あったはずの腕が斬り落とされている。では「そもそも傷ついていない」とは……?

 何かをひらめく寸前、すぐに水責めさんが話始めた。

「そう、ギロチンの腕は斬り落とされたんではないの。あの剣が断ったのは現実に表出している腕じゃない。あの剣は“断った”のではなく“絶った”。彼女というイリヤを形作る根源の概念を斬ったの」

「……えぇと……つまり……」

 ギロチンがいちいち回りくどくてわかりにくいと言った意味が解ってきた。ふとギロチンに目をやると、ほらね、とでも言いたげにこちらに視線を送っていた。だが先ほど喉元まで引っ掛かってきたことだ。理解できないわけではない。

「……あの剣はギロチンの存在の源を斬って、そもそもその腕が“存在していない”ことにした、ということ?」

「あ、わかったわかったぁー!あたしたちが朝になれば元に戻るって言うことはあたしたちを造っている元となる情報がどこかにストックされてるってことだよねぇー?それがどこにあるのかはわからないけどぉー、アレはその情報源にアクセスして、その情報源を改変、あたしの腕が“そもそもない”ことにしたってことだよねぇー?」

「あなた、絶対元からわかっていたけど、断罪の言葉に乗っかって初めてそれで分かった、みたいにしてるだけよね……」

 何はともあれ、なんとなくわかってきた。

 なるほど、ギロチンの言葉はそれなりに分かりやすい。

 構成情報にアクセスしてそれを斬る。存在の元を絶つ。根源を絶ったから、朝になっても元通りになりようがないし、むしろ元通りになった結果がこれなのだ。

「……なんとなくわかった」

「あくまで予測の範疇を出ないし、わたしたちの在り方とわたしたちの消失する可能性から出しただけの可能性だから、なんとなく分かっていれば充分よ。

 とにかく、今わかっていることは繰り返すようだけど、“処刑人”はこの世界において唯一「本当の意味」で殺すことができる存在ということね」

 水責めさんが今までの総括をする。

「“死なない”世界で、殺し合いを続けてきたあたしたちにとっては、まさに脅威だねぇー?」

 そう言うギロチンの口ぶりは、そんなに脅威だとは思ってはいないように見える。

「それで、ここまでが現状の把握だったんだけど、どっちかというとここからが本題なのかしらね」

「……本題?」

「そぉー、“処刑人”という明確な敵が存在してしまって、あたしたちを狙っているということが分かった、もっと正確に言うならイリヤ全員をきっと狙っているのだろうけど、それが分かった時点であたしたちそれぞれはどうしようかぁー、って話ぃー?」

 つまり、これからの話をするらしい。

「じゃぁー、まずは水責めちゃんからぁー!」

「ええ、わたし?」

 まず初めに指名された水責めさんは、突然のご指名に非常に困惑気味だ。それでもギロチンは話すよう目で語りかける。

 何度も思うが、この二人はとても仲がいいな。まさに以心伝心である。

「はあ、まあ別にかまわないけど。そうね、わたしは特に何もしない。それが答えよ」

「ほぉほぉー、傍観を決め込むとぉー?」

 ギロチンはおちょくりながらも、その真意を確認する。

「そう、わたしは積極的には関わらない。もちろん降りかかる火の粉であれば払うけれど、直接降りかかってくるまでは何もしない。わたしにとって、誰が死のうが、誰が殺そうが知ったことではない。それはあなたたちでも同じことよ。

 とにかく、わたしはこの状況を静観する」

 強く言い切った。水責めさんの決意は固いようだ。

「よぉーし!では次ぃー」

 流れ的に指名されるか、と身構える。

「じゃぁー、次はあたしがいうねぇー」

 が、次はギロチン自身が言いたいらしい。肩透かしを食らった。

「あたしはねぇー?…………あたしが殺す」

 しん、と一瞬で空気が冷たくなる。

「あの子を殺したあいつが許せないし、一度殺し損なったことも許せないし、あたしの腕を奪ったことも許せないし、あたしが敗走したことも許せない。

 あとなによりも。

 あたしたちを“救う”ために殺すというその性根が許せない。その存在が許せない。あたしたちを理解しているかのようなあの面が許せない。

 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。絶対に、許せない」

 口ぶりはある程度落ち着いているが、その口から飛び出る言葉の内容は、この場にいる中の誰よりも苛烈で、感情的で、誰よりも強い意志を帯びていた。

「だから、あたしは―――あいつを殺す」

 私はギロチンを見つめなおす。

 その小柄な体の中にはどれほどの感情を詰め込んでいるのだろう。どれほどの光景を見てきたのだろう。その小柄な背中には、一体何を背負っているのだろうか。

 私にはそれはわからない。きっとそれは、記憶がないからだけではなく、仮に記憶が戻っても、これから一緒に歩いて行っても、分かることはないかもしれない。

「……ま、今のはぁー、きっとイリヤなら誰でも思うことだと思うよぉー?あたしだけじゃなくて、そこでだんまり決め込んでる水責めちゃんとかもねぇー?驚いたぁー?あたしの突然のえ、ん、ぎ♪ひゃははひは♪」

 まばたきをした一瞬で、ギロチンの様子は一転、いつもの調子に戻っていた。しかし、水責めさんの方を見てみると、そこには少し心配そうにギロチンを見つめる彼女がいた。

「さぁさ、次々ぃー、いよいよ断罪ちゃん、さ、どうぞぉー!今までのあたしたちの意見を聞いて、ちょっと時間もありましたぁー!そろそろ決められたかなぁー?」

 どうやら、この世界では後輩である私のことを気遣って、わざと後の方にしてくれていたようだ。まあ、逆にあとの方にすることで、自分の意見を聞かせてプレッシャーを与えていた、という見方もできるけど。

 その気遣いは、有難かったが、実際のところそれは不要だった。

 なぜなら、私の答えは初めから決まっていたから。

「……私は、もう一度オルグに会う」

 それだけ。

「なんでぇー?」

 そこから何をするべきかなどはわからない。

 ただ。

「……なんとなく、会わないといけない様な気がするから」

 漠然とした理由。

「もう一度会ってどうする気ぃー?」

 目的もないけど。

「……会って決める」

 他人とは思えなかった彼は、それ故に私の孤独を癒してはくれなかったけど。それ故に彼は、私にとって特別だった。

 だから。

「……彼に会う。それ自体が目的」

 伽藍洞な私は何一つ決められないけれど。

 この世界で変わっていくためには、もう一度会って、今はわからぬ何かを彼に確かめなければならない様な気がした。

「……ダメかな?」

 一応確認してみる。

「ダメって言ったらやめるつもりぃー?」

 首を振る。ダメと言われても私にその気はない。

「ま、そんなのでやめるくらいなら、元からやるなって話だけどねぇー?」

「……そう」

「だ、か、ら、あたしは何も言わないよぉー?断罪ちゃんは断罪ちゃんのやりたいようにやるだけ。あたしと同じ。ただそれだけ。でも、目的は途中まで同じだから、せめてそれまでは一緒に行こう?」

 そして、ギロチンの口が歪む。その笑みは、いつもなら不快感すらも与えたかもしれないけれど。今はなぜか、誰よりも優しく、何よりも頼もしい感じがした。

 だから。

「……うん、一緒に行こう」

 それ以外の返答はなかった。


「さ、皆のやるべきことも決まったしぃー?今日は何をしよっかぁー?」

 切り替え早く、ギロチンはもう次の話に進んでいる。

「そうね、わたしとしては今日にも出ていってもらっても構わないのだけれど」

「えぇー?水責めちゃん辛辣ぅー!ひどぉーい!」

 ギロチンの言葉を聞く限り、どうやら今日出発とかはしないらしい。

「……あれ?今日にも出発するもんだと思ってた」

 その疑問を素直に口にする。朝になって体力は元に戻っているんだし、出発は早い方がいいのではないだろうか。

「えぇー?そんなことするわけないじゃぁーん」

 けれども、ギロチンはその疑問を一蹴する。それでも納得がいかない私の顔を見かねたのか、やはり面倒見のいい水責めさんが口をはさんできた。

「よくよく考えてみて。ギロチンは左腕を失くしているの。昨日までは当たり前にあったものが無いの。表面上何でもない事みたいに振舞っているけど、実際それはかなり無理してるんじゃないかしら?その辺りを鑑みると、すぐに行動するよりも休んだ方がいいのではないかしら」

「……そう、だね」

 言われてみるとその通りである。本来あるものが無いという状況は多大なストレスを感じるはずだ。

 ギロチンのことを考えていなかった自分が悔やまれる。

「それに、あなたもね」

「……?」

 最後に付け加えられた言葉の意味を聞き返す前に。

「あたしの気持ちとしては別に行くのはアリだよぉー?でもねぇー?腕って結構重いんだねぇー?片方ないだけで身体の重心が取りづらいよぉー?それもあって今すぐ行くのは流石に勘弁願いたいかなぁー?それに、ねぇー?」

 ちらりとギロチンの目だけがこちらを見る。

 みんなしっかりそれぞれのことを考えてくれている。周りをしっかりとみられている。考えが回っていなかったのは自分の方だった。

 やはり自分はまだまだだ。反省すべきところばかり。そういったところも含めて、成長していかなければ。

 そのために、少しくらいゆっくりしていってもいいだろう。その報いがあるのであれば、それはいつか受けるから。

 私も、しばらくはここにお世話になることを決めて、席を立った。


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