逃亡
息切れが、静寂の中に響く。
「はぁはぁ……ここまで、くれば……」
すでに辺りは廃墟すら見えなくなり、荒れた地面と汚れた河川、そして時たま見える壊れた民家が建っているだけだった。
どれだけ走っただろうか。背中にはすでに息絶えている小柄な少女。半身と左腕を失い、肌も血色を失っている。
「だい、じょうぶ、だよね……」
走り続けてわき腹が痛いし、靴下しかつけていない足は血だらけで、ところどころ石の破片や釘が刺さっていて、これも痛い。身体中が傷だらけで、今にも気を失ってしまいそうだ。きっと幾分経てば、私も一度死ぬことだろう。
道端で寝転がってもいいが、できればもっとちゃんとしたところで体を休めたい。例え朝になればすべて元通りになるとしても。
それに、ギロチンが元に戻るかは未だ不明瞭だ。オルグは「創造主に対して憤ったが、それではなにも救えない、救うために殺すことにした」と言っていた。それはつまり、殺すことが可能だから、その手段をとったということだ。殺しても朝には元通りになるのであれば、それは本当に殺したとは言えないだろう。
つまりである。
方法は何であるにしろ、オルグはイリヤを殺せる。ならば今のギロチンもすでに“殺された”後の可能性があるのだ。そればかりは朝にならなければわからない。そんな心配事を抱えたままで、野ざらしで眠りたくない。そもそも眠れるかどうかすら、定かではないけど。
「……あと……ちょっと……」
せめて、向こうに見える崩れた民家まで。
せめて、屋根があるところまで。
しかし、ひとまずの目的地が見えたことで、緊張の糸がほつれてしまったのか。それとも、思ったより自らの身体が傷ついており、もう限界だったのか。あるいはその両方か。
前のめりに私は倒れこんだ。背負っていたギロチンを支える力も失い、小さな少女が投げ出される。離れまいと手を伸ばす。
「……だ……め…………」
その手もすぐに力を失い、視界が暗くなる。
そんな私たちの上に、かかる黒い影。
――誰?
そんな問いは言葉には結ばれず、私は深い眠りに呑み込まれたのであった。




