講義
数日がたち、私たちは何の変哲もない毎日を過ごしていた。
この世界では主に夜、その相貌を見せるとのことなので、あれ以来探索は夜をメインに行っている。
かといって夜にばかり歩き回っても抵抗する術のほとんどない私とオルグは死ぬのが目に見えているので、昼間にもそこらの建物などに何かしらの手掛かりがないかを探したりはしている。……実際は拠点で寝ていることも多かったりするのだが。
この世界では朝になれば自分の状態が元に戻る。なので、徹夜で活動した後に昼活動しても、あまり支障はきたさない。
それには夜活動し始めたここ最近に気づき始めたのだが、そもそもこの辺りは以前に探索しきっているので、建物などを漁る必要性が小さい。というわけで、暇をすることの多い昼間は拠点でダラダラ、夜は真新しい発見がないかと歩き回る、ということが最近の傾向となっていた。
そんな折々のある昼下がり。いつも通り、というのもなんだが、普段の過ごし方通りにダラダラしていた時だった。
「だーんざーいちゃーんっ!」
廃墟の中にかろうじて残っているソファ。中身がところどころ飛び出ているが、まだまだ柔らかい現役でいけるソファだ。その上でうつぶせに寝転がっていた私の背中の上を狙う者がいた。
「へぶっ!」
その乗っかってきた者は特別重い奴でもなかったが、こうもいきなり乗っかられるとその勢いには結構威力がある。思わず変なうめき声が漏れてしまった。
「……なに」
少し不機嫌な顔をしつつも、そいつに話しかける。
そこにいたのは、紅い眼をしたあの少女だった。
少女は、あの日に自分で言ったとおりに私についてきていた。それに加えてもう一つ。
「……あと私は断罪なんて言う大層な名前じゃない」
なぜかこの少女は、私のことを「断罪」などと大仰な名前で呼んでいた。
「いいのいいのぉー、大丈夫大丈夫ぅー。あたしがそうだと思えばそれでいいんだよぉー?だからあんたは断罪ちゃん。誰がどう言おうと断罪ちゃん。それでいいのいいのぉー。だからねぇー、断罪ちゃん?」
「……なに?」
「なんかお話ししようよぉー?」
急に何なのか。
といっても、これもいつも通りの光景ではあるのだが。この少女はなぜかいつも私にべったりとくっついてきて、いちいち構ってくるのだ。
理由などを聞いてみても、「何でもいいんじゃなぁーい?」等と言ってはぐらかされ、明確な理由を知ることはまだできていない。今すぐ知るべき事柄でもないだろう。ぼちぼち知っていけばいい。
というわけで。
「……私としては、ギロチンに真っ先にしてほしいことは背中からどいてくれることなんだけど」
とりあえず私はこの少女――ギロチンに、背中からどいてくれるよう頼みこむ。いくらギロチンの体が小さく体重が軽いからって、いつまでも乗っかられ続けるのにはなかなか辛いところがある。
「えぇー?ここにいるのとぉーっても居心地がいいのにぃー。暖かいし、柔らかいしぃー、それに、ねぇー?」
ギロチンはさらに私の上に乗っかるだけには飽き足らず、今度は背中から抱き着いてきやがった。
「……ひゃいっ」
ギロチンの身体はひんやりと冷たくて、小さく悲鳴を上げてしまう。その冷たさは人間的な冷たさではなく、金属的な無機質な冷たさだ。
先程彼女は、私が「暖かい」等と言ったが、実際のところはギロチンの体温が低いだけではないだろうか。
「断罪ちゃんはぁー、いちいち反応が面白くっていじり甲斐があるからんだもーん。だからぁー……」
ギロチンの腕がさらに強く私を抱きしめ、より身体が密着するように身体を動かし――。
「……邪魔。あと冷たい」
流石にこれ以上抱き着かれたままでいるのもいい加減疲れてきた上に冷たくて若干寒いくらいなので、多少強引にでも引き剥がすことにした。
「……そろそろいい加減にして離れて」
そう言いながら、自分からソファを転がり落ちる。もちろん背中のギロチンが下で落ちて、彼女が私の下敷きになるように。
「……ぐぇ」
そのはずだったのだが。
いつの間に離れたのか。ギロチンはソファの傍に立っており、私は受け身もまともに取れないままに背中を床に打ち付けてしまった。
「あっははぁー。断罪ちゃん、いったそぉー?大丈夫かなぁー?」
「……痛い……」
予想外の衝撃に、若干涙目になりながらギロチンを睨む。
こいつ、性格悪いな。絶対。
といってもよほど痛かったわけでもなく、どちらかというと驚きがほとんどを占めるので、背中を軽くさすりながらも普通に起き上がる。
「そんなに睨まないでよぉー?流石に下敷きにされるとか、あたしそんな趣味は無いよぉー?むしろ下敷きにしたいしねぇー?だからぁー、そんな攻撃はさっさと避けるに限るよねぇー?」
「……その前にさっさと離れるとかの思考はなかった?」
「だからさっさと離れたんだよぉー。ま、ちょぉーっと意地悪が過ぎたかなぁー?とか思ったり思わなかったり、やっぱり思ってたりぃー?」
絶対に思ってないな。
ジトー、としばらく無言でギロチンを見る。
「…………」
「……ちゃ、ちゃんと反省し、て、ます、よぉー?」
私と視線を合わせ続けることが気まずくなったのか、ギロチンの視線が宙をさまよう。
「……はぁ、まあいいけど」
おそらく、というかほぼ確実にいや、百パーセント絶対に反省していないが、これ以上責めるのも無意味なのでそろそろギロチンへのジト目は中断し、ソファに腰掛ける。
「うんうん、と、いうわけでぇー!なんかお話ししよぉー?」
「……切り替え早いね」
私にもう責める気がない、ということが分かった途端、すぐにギロチンは先ほどの話題に返った。
「……それで、どうしたの?暇を持て余したの?」
これ以上話を先送りにするのも難しくなってきたので、若干鬱陶しいものの話に乗ることにした。
「お、よくよく分かったねぇー?感心感心―」
ちょっと皮肉も込めていたのだが、どうやらそれは伝わっていなかったようだ。もしかしたら伝わったうえでこの反応の可能性も十分あるが。
「それでねぇー?あたしはこれまであんたたちの行動に興味があったんだよぉー?」
「……うん、知ってる」
それは初対面、というか死闘を終えた後の対面時にはすでに分かり切っていたことだったので、いまさら言われるようなことでもない。むしろあんな質問攻めをした後で「興味なんて微塵もない」と言われる方が嘘だと思う。
「まあまあ、それはさておき。あんたたちが、どぉーしてこの世界のことを知らないのか、そもそもそれは嘘なのか、ほんとなのか。ホントだったらそれは何でなのか。あたしは興味があったんだよぉー」
「……そうなんだ。まあ、一応言っておくと少なくとも私は本当だよ」
「うんうん、それで、あたしはこの数日ずっとあんたたちを観察していた。何か面白いことでもするんじゃないかなぁーとか、なにかボロでも出さないかなぁーとか。いろいろ考えてたんだよぉー!でもでもぉー……」
彼女は言葉をここでいったん区切った。なぜかギロチンはうつむいて、しばらく沈黙する。
「……でも、何?」
その続きが気になって、私がそれを聞き終わるや否や。
「でもあんたたち、ほんとに何も知らない感じじゃん!ここがどんな世界なのか、何をするところなのか、何一つわかってないじゃん!いやいや、ううん、それならまだいいんだよぉー!それは仕方がないことなんだしねぇー、うん!でも!それでもだよぉー!あんたたちここのことについて知る気ないじゃん!やる気ないじゃん!最低限頑張ってる雰囲気あるけどぉー!それでも最低限じゃん!冒険しよーって感じにもならないし、スリルを楽しもーっていう風にもならないし!初めあたしがわざわざこの世界のことについて少し話したのに!それで終わりじゃん!現状に満足しちゃってるじゃん!もぉー!つまんないつまんないつまんないよぉー!もっと面白いことしてよぉー!せっかくあんたたちが“普通じゃない”っていうのにさぁー!」
「……と、とりあえず落ち着いて……」
突然、子供が癇癪を起したかのような怒涛の勢いで話し始めるギロチン。それに驚きつつも、とにかくなだめようと声をかける。
「……まあ、確かに現状に甘んじていたようなところは結構あるけど。確かにそれはあんまりよくないなと思ってはいたけど。……と、とにかく落ち着いて話そう?ね?」
だが、彼女の言い分が割と的確であることも確かなのだ。この辺りはもう調べ切った。そう思って日頃ダラダラしていたのは、他ならぬ私たちだ。
かといって、正直今の状態のギロチンと言われるのはなんとなくちょっとなぁ……。
「だからぁー!あたしがぁー!情報提供をぉー!しまぁーす!だからそれを基にこれからしっかり働いてもらいますぅー!」
「……うん……?」
どういう話の流れ?
「なんと言っても聞きませぇーん!話すといったら話すんですぅー!文句は聞かないよぉー!」
よくわからないが、ギロチンがこの世界について話してくれるようだ。
「……あ、ああ、うん、その前にいったん落ち着こう?」
その前に私は、ギロチンがまともな状態になるまでなだめなければならなかった。
「……えーっと、それで、何を話してくれるの?」
ギロチンが落ち着いた後、改めて話しかける。
「あぁーうん、取り乱しちゃったごめんねぇー?あんまりに断罪ちゃんたちが不甲斐ないからさぁー?」
謝りつつも彼女は、仕方ない仕方ないとても言うかのように腕組をして一人頷く。私たちが腑抜けてたのは全くその通りではあるのだが、なんだか腑に落ちない。
「……それで、なにか情報をくれるって話だったよね?」
「うんうんそおそぉー。あたしが断罪ちゃんのためにぃー!この世界についてお教えして差しあげよぉーと思います!」
また気持ちが高ぶってきたのか、話し方に熱が入ってくる。
「……あー、うん。ありがとう」
もう宥めるのも無駄な気がしてきたので、彼女を落ち着けることを放棄して話を聞くことにする。
「……でも、それならオルグも呼んできた方がいいかな?」
今、ダラダラしている私とは対照的に、オルグは一人でどこか行っている。何か情報を与えてくれるならば彼が戻ってくるのを待ってからの方がいいのではないだろうか。
そう思って言ったのだが、
「……ダメ、あいつには言わない」
思いのほか冷たい声が返ってきた。その時のギロチンの顔は、いつものような少しにやにやと笑っている感じではなく。その紅い眼はどこまでも冷淡で。
意外な反応に、思わずたじろぐ。
「……ちなみに、なんで?」
聞かない方がいいのかもしれない。もしかしたら意味など無いのかもしれない。それでも、彼女のその表情が何かを語っていた。
だから問うたのだが、
「さぁー?なんでかなぁー?単にあたしがあいつのことを嫌いだからかなぁー?うん、きっとそうだねぇー?でもぉー?もしかしたら深い意味があったりなかったりぃー?」
ギロチンはすぐにいつもの調子に戻り、その真意は煙に巻かれてしまった。
「……何、それ?」
変なやつだ。いつものことだけど。
「でもぉー?これから話すことはあいつには秘密によろしくねぇー?」
やっぱりオルグには何も話したくないし、なにかが伝わるのも嫌であるらしい。
「……まあ、別にいいけど」
特に話さなくてはいけない理由などはまだないし、話したくないというならば無理に伝える必要はないだろう。その理由は教えてくれなさそうだし、強引に聞き出す必要性も特に思い浮かばない。
だから、ギロチンの言うことに素直にうなずく。
「よし、ならばよかろぉー。これからあたしが教えてしんぜよぉー」
「……はいはい」
若干子供をあやしているかのような錯覚を覚える。
そんな私のことはさておき、やっとギロチンから本題に入った。
「この前も言ったけどねぇー、この世界ではもともと処刑具か拷問具だった奴らが人化して、毎夜殺し合いをしているんだよぉー」
「……ここでちょっと気になるところがあったんだけど」
話が始まったばかりのところで割り込む。
「なぁにぃー?先に言っておくけどつまんないことは聞かないでよぉー?」
そのつまんないことが何かは知らないが。
「……さっきからギロチンがこの世界この世界って何回か言ってるし、オルグもここじゃない世界からきた、とかって聞いてるけど、そもそもこの世界じゃない世界って何?」
私にこの世界以外の知識はない。なので、「ここじゃない世界」だとか「この世界」だとか聞いても、あんまりぴんと来ないのだ。
「えぇー?そこからぁー?この世界はこの世界、ここじゃないところはここじゃないんだけどぉー」
「……そこをなんとか」
「まぁいいけどねぇー?他でもない断罪ちゃんの質問だしぃー?別につまらない質問ってわけでもないしねぇー?
この世界が処刑具や拷問具が人化して殺しあってるってことは何度も話したねぇー?断罪ちゃんも知ってると思うけどぉー、処刑具拷問具ってのは“道具”だよねぇー?だったら誰かに使われるのが当然だよねぇー?」
「……ふんふん」
「でもこの世界で“道具”たちは使われるのではなく、自ら動いてるよねぇー?」
「……つまりこの世界ではないところでは、っていうこと?」
ちょっとだけわかってきた。
「そうそう、そうだよぉー!つまりぃー、この世界じゃない世界ってのはぁー、“あたしたち”がちゃんと道具として使われている世界のことだよぉー。ちゃんと人間がいてぇー、“道具”はちゃんと道具として使われていてぇー?それがここじゃない世界。そこが、あたしたちが最初にいた世界」
なるほど。ギロチンたちが道具として存在していた世界。それがここではない別の世界なのか。……もしかしたら、オルグもそこから来たのだろうか。
「まぁ、ここでは人間もいないしぃー?いないはずだしぃー?すでに道具が道具じゃなくなってるからねぇー?あたしたちを使役するのはあたしたちだけだよぉー?」
「……なるほど」
「よしよし、ここじゃない世界については分かってくれたねぇー?じゃ、話を戻そうかぁー?……どこまで話したっけぇー?」
ギロチンは私が理解したのを見て元の話に戻ろうとする。
「……まだまだ最初。毎夜貴女たちが殺しあってるってところだけ」
「そうだったそうだったぁー。まだ全然話してなかったねぇー?
それで、あたしたちはいつもいつも殺しあってるんだけどねぇー?あたしたちは処刑具とか拷問具とかから人のカタチになったけどねぇー?でもぉー、あくまで道具である“あたしたち”のことを人間って呼ぶのはおかしい気がしないかなぁー?」
「……?」
そうなのだろうか。人のカタチをしているのであれば“人間”と呼んでもあまり相違ない気がするのだが。
首をかしげる私をみて、ギロチンは不満げな表情を覗かせる。
「えぇー?わからないかなぁー?ま、いいかぁー、記憶がないからってだけかもだしねぇー?
で、少なくともあたしたちはそう考えたのだよぉー?だからねぇー?あたしたちは自らのことを“イリヤ”と呼ぶことにしたのだよぉー」
「……イリヤ?」
それはいわゆる民族の名前だとか、なにかしらの組織の名前だとかのような雰囲気の名称なのだろうか。
「そう!この世界で殺し合いをするあたしたち処刑具や拷問具は人間ではなく、ただの道具でもなく“イリヤ”っていう存在であると自らで定めたのだぁー!
さてさてぇー?この“イリヤ”という名前。どんな理由からこの名前にしたと思うかなぁー?」
「……え、理由?」
突然の振りに戸惑う。
「そぉー、理由―」
「………うーん……」
私が考え始めて間もなく。
「ま、今はいいやぁー。すぐにはわからないと思うしぃ―?わかっちゃっても困るしなぁー?これは宿題ってことでぇー。この理由について考えておいてねぇー?」
なんだ、もとから答えさせる気なかったのか。
「……その理由を考えることに何か意味があるの?」
「さぁねぇー?でもこれだけは言えるよぉー?この理由を知ることはねぇー?断罪ちゃんの根幹にきっと関わる。断罪ちゃんがどのようにこれから進んでいくか、それを決めるために必須なことになると思うよぉー?うんうんたぶんきっと恐らくねぇー?」
途中、何やらギロチンがとても真剣な話し方をした気がした。だが、結局最後はいつも通りの変に間延びした言い方になってしまっていたので、その真意は計り知れなかった。
「……結局何が言いたいの?」
「うーん?簡単なことだよぉー?単にちゃんと真面目に考えてねぇーってだけぇー。考えたふり、というのは無しだよぉー?」
「…わかった」
ここまで念を押すということはきっと本当に何か大切なことなのだろう。私はソレを心に刻み込む。
「……それで、他に話は?」
流石にこれで話が終わり、ということはあるまい。まだこの世界の住人の名称ぐらいしか聞いてない。さらに聞き出そうと問いだす。
「あたしが言いたかったのはほとんどこれだけだしなぁー?他に他にぃー、うーん?何があったかなぁ?」
これで終わりだったらしい。
「……えーっと、じゃあ、貴女もイリヤなんだよね?」
「そりゃぁ、もちのろんよぉー。それでぇー?」
「……上空に刃を作ってそれを落とす、ってことをやっていたけど、アレはイリヤみんなができることなの?」
あの攻撃手段をイリヤ全員ができる、となればこれからどんな困難が待ち受けているのか計り知れない。だが、
「フッフッフ、アレはあたし独自の能力なのだよぉー。そうだねぇー、何も知らなかったからそういう考えもできるのかなぁー?
じゃあ、次は能力についての話をしようかぁー?」
まだ話せることはあったようだ。本当に終わりだったらどうしようか、とひそかに心配していた私はほっと安堵する。
「そうだねぇー?あたしのあの刃を落とす能力はあたしだけのもの。でもねぇー?確かにイリヤみんなが持っている能力もあるんだよぉー?なんだと思うぅー?」
「……さあ?」
ていうかそれが初めからわかっていたらこんな質問しないと思う。
にやにやとこちらを見るギロチンの顔を見返しながら首をかしげる。
「じゃあ教えてしんぜよぉー」
関係ないけど何かを教えるときのギロチンは妙に生き生きしている。本来この世界のみんなが知っていることだから、誰かにそれを教えるという行為ができるのが嬉しいのだろうか。
「えぇーとねぇー?教えるよりも実際に感じてもらった方がわっかりやすいかなぁー?じゃあ、ちょぉーっと我慢してねぇー……?」
ギロチンがそう言った瞬間。
身体にかかる重圧。まるで重りをかけたかのような、身体が鉛にでもなったかのような、そんな感覚。身体の動きが遅くなる。試しに手を上げてみる。その動きはとても緩慢で思ったように動かない。
「どぉー?わかったかなぁー?」
ゆっくりと動く私とは対照的に、ギロチンが通常の速度で話しかける。
「……なるほど、そういえば前もこんな感じのことしてたね」
動きは遅くなっていても、感覚や話す速度は変わらないようだ。
「お、よぉく気づいたねぇー?そうそうそうだよぉー?あたしが二回目に断罪ちゃんを殺そうとしたときぃー、これを使ってたんだよねぇー?」
「……それで、この能力はイリヤみんなが使えるってこと?」
確認する。
「そうだよぉー?処刑や拷問の基本はまず縛ることぉー。ひっとらえて縛って繋いで括って磔て締め付けて束縛して拘束して動けなくしてぇー?それからがあたしたちの出番だからねぇー?この能力をイリヤ全体が持っていても不思議ではないよねぇー?」
確かにそんな気もする。そしてもう一つ、今の彼女の言葉で予想がついたことがある。
「この辺りでさすがにわかったと思うけどぉー?あたしたちの能力は何に起因することだと思うぅー?」
「……元の“道具”の性質、というか役割?」
「正解ぃー!」
機嫌よくギロチンが答える。
「この拘束能力も処刑具拷問具の“拘束する”という性質に起因するしぃー?あたしの刃を落とす能力も同じぃー。もとの処刑具である「ギロチン」が持ってる“高いところから重たい刃を落として断頭する”という機構を具現化したものなんだよぉー?」
「……つまり、元の“道具”が何かわかればその能力を予測することもできるし、その逆も可能ということ?」
「うぅーん、そうだねぇー?」
ならば私は。
「あとそれからねぇー?さっきの拘束能力に戻るけどねぇー?アレはイリヤの元の道具によって力の強弱があるんだよぉー」
「……ギロチンの拘束力はどれくらいなの?」
「え、あ、あたしぃー?さ、さぁー?どうだと思うぅー?」
今までベラベラとしゃべっていたギロチンが、ここにきて初めて言いよどんだ。
「……どんななの?」
今までさんざん遊ばれた分、ここが好機と攻め返すことに決めた。
「さ、さてねぇー?そ、そんなことよりもさぁー……」
「……強弱があるならその基準が分かっていた方がいいんじゃない?せめて強い方か弱い方かだけでも」
「い、いや、別にわからなくても問題ないんじゃないかなぁー?」
「……単純に私が知りたい」
「じゃぁ、知る必要ないじゃん!教えてあげなぁーい!ぜっったいに教えないもんねぇー!」
とうとう拗ねてしまった。
「……ごめんごめん」
私の嗜虐心は十分に満たされたし。
「謝られたってあたしの心は癒されないですぅー。もういいもんねぇー?もう話してあげなぁーい!」
そう言い放ち、ギロチンは拠点である廃墟の家から出て行こうとする。その去り際。
「……まぁー?断罪ちゃんの記憶を取り戻したいなら、他のイリヤを探し出してみるのが一番じゃないかなぁー?」
それだけ言い残して、どこかへ消えた。
「……まあ、そのうち戻ってくる、たぶん」
うるさい彼女がいなくなったことで、部屋に再び沈黙が戻ってくる。
その沈黙は少し寂しくも感じる。だが、ギロチンはなんだかんだですぐに帰ってくるだろうし、オルグもいる。この寂しさはきっと、一時的なもので。
だから私の心には、どこにも不安などはなかった。




