また、出会い
次に目覚めた時、状況はなかなか愉快なことになっていた。
「ねえねぇー?あんたは何なのかなぁー?そもそもあんたはあたしたちと同じものなのかなぁー?だったらなんでそんな姿なのかなぁー?」
目覚めたばかりで、うまく働かない頭の中でそれを認識する。
「いやぁー?もしかしてここに来たばっかりとかぁー?だったらとってもとってもレアなんだけどねぇー?特に最近はねぇー?実際のとこはどうなのかなぁー?」
眠気眼を擦りながら、声がする方を見る。しばらくして頭がだんだんはっきりとしてくると、オルグが昨日のあの少女から質問攻めになっているのをようやっと理解できた。
「おやおやぁー?もしかしてお目覚めかなぁー?」
少女がこちらに気づいて声をかけてくる。
その姿は昨夜と同じで、紅い目に黒い外套、それからその下にはゴシック調のドレス。私が斬り裂いたはずの首筋は白く、血の跡などは微塵もない。
「さてさてぇー、じゃああんたにも聞きたいことがたぁくさんあるんだよねぇー?聞かしてもらえるかなぁー?」
ある程度頭もはっきりしてきたとはいえ、突然のこの状況にうまく受け答えができるほど、まだ柔軟性は高くない。
「……まー、いいよ」
よくわからんが頷くことにする。だが、そのすぐあと、私はそれを若干後悔することになった。
「いいねいいね、じゃあ聞くねぇー?あんたの名前はぁー?いつからここにいるのぉー?もしかしてここに来たばかりとかだったり?それならいいないいなぁーレアもんだよぉー?あとあとぉー、あの男は何もんかなぁー?あんたは知ってたりするー?後はー……」
機関銃のように少女の口から放たれる怒涛の質問はとどまることを知らず、延々と続いていく。
「……ぉおう……」
突然の少女の勢いに押され何も答えられない、というか完全に置いてきぼりだ。何を聞いてるのか全くついていけない。
ああ、そういえばさっきオルグが質問攻めにあってたな。その様子を私は愉快気にぼけっと眺めていただけだったが、自分がその立場になったら彼の気持ちがすごい分かった。
これ、どうしようもないわ。
どうにかならないかとオルグの方に視線を投げかけてみるものの、
「…………頑張れ」
いや、今私が欲しいのは励ましの言葉じゃなくてこの状況を何とかする救いの手なんだよ……!!
その言葉を何とか喉元に呑み込み、少女の質問をどうにか聞き取って満足のいく答えを出そうと努めてみる。が、
「もしかしてやっぱりまだなんも知らないとか?だったらレアものの「産まれたて」の可能性が高いよねぇー?あたし初めて出会うかも!?でもでも、やっぱり一番気になるのはぁー……」
やっぱりその怒涛の質問攻めは、とどまることを知らなかった。
しばらく少女は話し続けると、だんだんと疑問も尽きてきたのか、それとも私が答えないのを(実際は訳も分からず目を白黒させていただけだが)つまらなく思ってきたのか、徐々に静かになっていった。
「……ごめん、ちょっと質問が多すぎて何言ってるのか全然わからなかった」
頃合いを見計らって、素直に答える。
「えぇー、疑問はたっくさんあるのになぁー?一つぐらい答えられないのぉー?」
「……たぶん答えられなくもないけど、正直何の質問があったのか覚えてない」
うん、正直が一番。まあ、嘘つくときは躊躇いなくつくけど。
そもそも私たちの方がここのことについて知りたいぐらいなのだ。質問に答えられるほど情報は多くない。
なので。
「……ねえ」
「なあ、俺たちはここについてほとんど何も知らないんだ。数日ここにいるけど、ここがどこなのかも、お前が一体なんなのかもわからないんだ」
私が言おうと思ったことを、先を越されてオルグに言われてしまった。おそらく聞きたいことは同じなので、私はおとなしく引っ込むことにする。二人同時に尋ねたところで困るだけだろう。
「だから、何でもいいから教えてくれないか?」
オルグは、そのように少女に尋ねた。
「うん?何も知らない?数日も滞在して?なんでかなぁー?そんなことはないはずだよぉー?そもそもこの世界にいるなら、誰でも知ってるはずだけどなぁー?」
といっても知らないものは知らないのだ。どうしようもない。
「うーん、もしかしたら、そもそも俺が元々この世界の人間ではないっていうことが原因かもしれないな」
「この世界の人間ではない……?おかしいねぇー?そんなことはないはずだけどなぁー?」
少女はあまり信用していないようだ。それも当然だろう。素性を確かめるものなど何一つないのだ。普通はこんな怪しいことばかり言う奴を信じないに限る。
「……じゃあ、それは置いといて、貴女は何で私を殺しに来たの?別に生き返るわけだし、特に減るもんもないけど気になる。それは教えて」
「えぇー?それも知らないって言い張るのぉー?まあ別にいいけどさぁー?それこそ減るものでもないしぃー?あんたらが何を考えてるのかわからんけどさぁー?」
「……ん、とりあえずよろしく」
そうして、この世界についての一部が少女の口から語られ始めた。
「この世界はねぇー、処刑具や拷問具だった者たちがヒトのカタチになって、毎夜殺しあっているんだよぉー。簡潔に言うとそれだけなんだけどねぇー?なんか他に聞きたいことあるぅー?」
思ったよりも話は早く終わった。別に壮大で深い物語を期待していたわけでもないが、もっと長く話すのかと勝手に思っていた。
ここで、黙って話を聞いていたオルグが入ってきた。
「なんで君たちは殺しあっているんだ?」
それは簡単で素朴な疑問。あまりにそれが普通であるかのように語られていたから、私は自分で質問したにもかかわらず見落としていた。いや、実際普通のことであるのだろう。私もそれが異常であるとは感じなかった。ただそれは常識に照らし合わせて普通のことではない。
そして、その質問に対し少女は。
「え、暇だから?」
あまりに平然と、それがごく当たり前であるように答えていた。
「え?ごめん、ちょっと意味が分からない。なんで暇だと殺しあうんだ?もっと別の、こう、なにか生産的、とまではいかずともほかのことをするわけにはいかないのか?」
オルグはその理由がどうにも理解できないようで、さらに質問を繰り返す。
「あぁー、あんた、ほんとにそうなんだぁー。うんうん、よくわかったよくわかったぁー、うん、これならむしろあんたの言ってたことがもしかすると信じるに値するかもしれないねぇー?」
しかし、少女はそれにまともに答えはしなかった。その代わりによくわからない解答を口にする。それと同時に、彼女の目つきが鋭くなったのが、確かに私の目に映った。
そして、
「あんたはそういう疑問はあるのかなぁー?コイツみたいな、なんで殺すのか、なんていうツマラナイくだらない価値のない質問はぁー?」
その鋭い視線を私に向けて、こちらに話を振ってきた。
急に話を振られて、少し考えこむ。
私は。私はどうなのか。
それを尋ねる少女の顔は確かににこやかだったけれども。それは笑うというより、嗤っていて。その紅い鮮血の眼はまるで私を見定めているようで。
自分に問いてみる。
私は暇だから殺すということをどう思うか。
解答。
特に何も。
私はその行為に対して何も思わなかった。思えなかった。それが異常であるとも普通であるとも。そもそもそれが特別なことであるとも。
なにも思わなかった。だが一つだけ。少なくとも、確実に狂っているようには感じなかった。
だから。
「……そんなことは、別にどうでもいいかな」
これが私の解答だった。
それを聞いた少女は少し目つきが柔らかくなり、満足げにうなずいた後、
「いいねいいねぇー、あんたは合格だよぉー?うんうん」
いや、合格って何?そんなことを思う間もなく、
「だからあたしはこれからあんたについてくよぉー。いいよねぇー?」
こんなことを言い始めた。




