緋色の眼を持つ少年…
東の空に飛び立って行った首だけの犬は何処に向かったのか?
僕には直ぐに見当がついた。
間違いない。透さんは、江崎さんに狗神を放ったのだ。
江崎さんはこれを恐れて狼狽えたに違いない。
今頃首だけの犬が江崎さんの喉笛に食らい付いている事だろう。
僕はあの芳典と、祖母の最後を思い出し背中に寒気が走った。
次の日学校の帰り道大きな交差点に、葬祭場の張り紙が目についた。
そこには、江崎家の文字と達也儀の文字が書いてあった。
嫌な人だったが…透さんが狗神を飛ばす様を見てしまった僕の心は深く落ち込んだ。
そして…家に帰りつくと玄関に知らない女物の靴がある。
チラリと応接室を覗くと、ソファーに窶れた姿で座る清水靖子さんが居た。
僕は驚きはしたが…
応接室に顔を出し清水靖子さんに挨拶をした。
その挨拶に対し清水靖子さんの心はここに無いかの如く、弱々しかった。
人は、人を呪うと、こんなにも、反動が来るんだ?
初さんが、言った通りに彼女は修羅道に堕ち…
その結果…
福島陽子さんは焼死した。
一旦逃げ出したにも関わらず。清水靖子さんの怨念が業火へと引き摺り込んだ。
あの火事は、福島陽子さんの部屋が火元で、灯油が巻き散らかされて居たらしい。
人の怨念とは、そんなにも恐ろしいものか?
怨みを買うなんて、絶対にするもんじゃない。
僕は固く心に誓いはしたが、何処かにいまだ、おぞましさを感じずにはいられなかった。
その日の夕食で透さんが清水靖子さんの話をした。
なんでも…残された福島陽子さんの三人の子供を旦那のたくみさんが引き取り靖子さんとは、離縁すると言う。
確かに透さんはあの時、清水靖子さんに、伝えた。
狗神を飛ばしたとしても、たくみさんは、貴女の元へは帰って来ないと…
それでも、なお…清水靖子さんは
『あのメス豚が許せない。』と、僕らの前でハッキリと、言った。
一人部屋で考えてみても、答えなんて出てこない。
いつまでも…いつまでも…
靖子さんの
『あのメス豚が許せない。』
の、一言が僕の頭の中を駆け巡っていた。




