緋色の眼を持つ少年第四十八話
えっ?狗神は犬の怨念を利用して…
相手に狗神を飛ばし呪術を掛ける呪法じゃないの?
それを解き明かす様に初さんが答えた。
『和美…透は犬を殺した事はない。
今まで呪殺に使われた哀しい犬達は…
ほれ、そこの犬塚に埋めてある。
透が小学生でこの家に引き取られた時、この家には跡取り息子がおった。
名は良美と言う…浩子の弟じゃ…
だがのう…この跡取りの良美には才能が備わっては居なかった。
オレの姿さえ見えぬ位才能の欠片もなかった。
そこで…浩子と良美の父親である忠は、施設に預けられていた透を引き取った。
認知すらしていない他所の女に産ませた子を我が永井の生業を絶やさぬ為だけに引き取った。
その時忠は、七十を越え…呪術を行うには年を取りすぎていた。
当時我が家には三匹の犬が飼われておった。
良美に才能があろうが無かろうが、忠が年を取って居ようが…
依頼は舞い込む。
才能がありません。
年を取りすぎて、体力が続きません。等の理由で依頼を断るなど呪術を生業とする永井の名に傷がつく。
そこで良美が…呪術を行った。
才能が無い良美が手順を踏み一番若いプレスと言う犬の首をはねた。
プレスの首は相手に飛ばず良美の首に食らい付き
良美は命を落とした。
才能無き者が見よう見まねで行う呪法など我が身に帰って来る…
良美も馬鹿な事をした。
と、オレは思っていた。
忠は直ぐ様自分で老犬のチロを使い呪術を行った。
これは…成功した。
そして…依頼者からの報酬を貰い
居間でくつろいで居るとき…
忠の首に犬が食らい付いた。その食らい付いた首だけの犬は、数年前に呪術に使ったリキじゃった。
最初はオレも訳がわからなかった。
じゃが…
透がここに来るたびに犬塚に眠る犬達が騒ぐ…
そして…
犬塚から出てきた犬達が透にじゃれつくのだ…
透はネクロマンサーの力を持っておった。』
『ネクロマンサーって?』
『死霊使いじゃ…
最初は良美が呪術に失敗したと思っておったが
透が死んだプレスを使い
良美に喰らいつかせたのではないのか?
そして…自分勝手に女に自分を産ませ、幼い頃に地獄を見させた忠に復讐をしたのじゃ
しかし…
気が付いたのはオレだけだ浩子にはオレの声は届かぬ。
冷酷じゃぞ…
透は…この永井の家を絶やすつもりじゃ。…
和美…
お前にもいつかネクロマンサーの力が出てくるやも知れん…十分気を付ける事だ』
『もう…そこまでにしときなよ初さん…』
透さんが初さんを制止した。
『和美には僕と半分同じ血が流れてる。
いずれネクロマンサーの力も目覚めるかも知れない。
だから…その力の恐ろしさおぞましさを教えなければ何故…瑞枝に呪われた子と捨てられた事が解らないだろ?
知らない事を知れば、思考の方向も変わる。
同じ境遇を生き…
地獄を味わった和美には、僕みたいにはなって欲しくない。
それと…永井の家までは潰さない…
永井の血は絶えるけど名は残る…
これは、僕の情けだよ…
あくまでも跡取りは和美だ。』
僕は既に、ある疑問に取り付かれて居た。
もしかして…
もしかしなくても…
芳典や祖母に食らい付いた首だけの犬は、透さんが飛ばしたんじゃないのか?
そんな事を考えているうちに犬塚から…
首だけの犬達がワラワラと出てきた。
これほどの犬達が呪術の犠牲になったのか?
犬達は僕の驚きなど気にも止めずに透さんにじゃれつく
顔を舐め体にまとわりつく。
その中の一匹に、何か耳打ちをした。
耳打ちをされた犬は
一目散に東の空へ飛び立って行った。




