緋色の眼を持つ少年第四十四話
『今はうちに居ない』と答えると…
『さては…何処か他所の奴に渡したな?』
と、今度は僕の胸ぐらを掴む。
こういう時は眼をそらし…されるがままで居ることだ。
決して挑発をしてはいけない。
逆上している相手は自分の逆上している様に酔ってる。
その逆上に油を注ぐと逆上が更に加速して、自分を抑えきれなくなる。
経験で知っているのだ。
力なき者が暴力に対して取りうる事は…
大人しくしておく事だと…
一発や二発殴られた所で歯さえ食いしばっていれば
大した事はない…
江崎さんは、襟首を掴まれても反応の少ない僕に不審げな表情を浮かべた。
さては…逆上して襟首を掴んだは良いが…
危害は加える気など無いようだ。
江崎さんの怒りはやがて収まる。
僕はこのままで良い…
と…
その時誤算が生まれた。
マルが江崎さんの足に噛みついた。
犬との結び付きが強いと犬は我が身を棄ててまでも飼い主を守ろうとする。
江崎さんはマルを蹴りあげ僕を殴り付け、逆上は加速し…
止まらなくなった。
うずくまり、頭を守り、攻撃を背中で受ける。
その間にもマルは、江崎さんに飛び掛かり必死に僕を守って居る。
暫くの間暴力は続いたが
幾分収まったのか?
『次は子犬を渡さないと
これくらいじゃ済まさないからな!!』
と、捨て台詞を吐き、車に乗り帰って行った。
マルに…怪我はない…
頭をさすり…
『ありがとう、庇ってくれて。』と労った。
家に帰り…誰にも見られずに部屋に籠ろうと思っていたが…
透さんに見つかってしまった。
顔が腫れて居たみたいで
透さんはあれこれ聞いて来たが
何も答えず俯く僕に…
気を使ったのか?愛想をつかしたのか?
透さんは僕への質問をやめて居間に入って行った。
食事の時間…
僕は何事も無かった様にご飯を食べた。
歯を食いしばって居たおかかげで、口の中は切れず、味噌汁も、滲みない。
そこに…
固定電話が鳴った。
浩子さんが電話の受話器を取る。
電話なのに頭を下げてことわりの言葉を述べる。
暫くして受話器を置くと
忌々しげな表情で僕に向かい…
『和美!!…マルが江崎さんの足に噛みついたそうじゃないの!!
治療費の請求をしてきたわ!!
一体どう言う事なの』
訳が解らない…
第一暴力を振るう素振りを見せたのは、江崎さんのほうだ…
『姉さん…江崎さんの言い分だけを聞くわけにも行かない…
現に和美の顔は腫れてる。
いくら問い唯しても答えない。
男の子だ…
喧嘩の一つくらいなら、何も口出す事は無いと思って居たけど
相手が大人なら話は別だ…
和美!!
詳しく話なさい。』
と、厳しい口調で問い唯された。
仕方なく、有りのままを話した。
浩子さんは、
『理不尽は江崎さんの方じゃないの!!』
と、憤り…
透さんへ顔を向けると…
透さんの背後から…
清水靖子さんの背後から吹き出して居た。
あの光に似た光が吹き出していた。




