緋色の眼を持つ少年第三十九話
ほぼ…
四百年の昔に我が身に降りかかった業を振りかえり、僕へ伝えようとする初さんの表情は重く…
なれど…僕へ伝える事が使命の様に口を開き続ける。
『のう…和美…
俺の父、忠太郎は、悩んでおった。
何を今さら悩む事があろう。
代官の野村銀之丞に返事はしたのだからのう。』
『近藤但馬を呪詛する事に躊躇する何かがあったのかも知れない。』
と僕が尋ねると…
『そうじゃ…それは身の毛もよだつ呪法じゃった。
オレは父から何も告げられず…手を引かれ納屋へと連れて行かれた。
そこで…オレは納屋の柱に縛り付けられた。
何で縛り付けられたかも理解出来ず…
理解など出来る訳はない…例え…呪詛だと聞かされておっても、納得すらしないだろうな。
弟の太一は自分も縛り付けられる。
その思いがあったのか?
納屋に近寄りもしなかった。
のう…和美…
訳も解らず我が身を拘束されると、その心情とはどんなものか解るか?』
『僕は酒を呑んだ芳典に、虐待された…
でも…助けてくれるべき人は居なかった。
僕の心を占めたのは
《恐怖》と《絶望》だった…』
『そうじゃ…何時まで続くか解らぬ不安から、恐怖に陥る。
そして…救いの手が伸ばされぬ…
その事に気付き絶望を覚える。
オレは七日七晩命乞いを忠太郎に訴え続けた。
父…忠太郎は、僅かな塩と水を与へはするが…
一言も発する事無く帰って行く。
のう…和美…人は塩と水があると、体はもつものだ。
最初の頃には憐れみを誘う哀願の鳴き声じゃったのが七日七晩を過ぎると
恨みの言葉に変わる。
して…それを過ぎると言葉では無くなる。
まるで…獣が吠えるが如くただ…喚き散らすだけだ。
これが信頼して居ない奴に拘束されたなら
ただ…ただ哀願の言葉を吐けばよい。
しかし…オレを縛り付けたのは、最も信頼する父の忠太郎だ。
その恨みの程は…凄まじい。
そのままならば…
オレの生き霊が、忠太郎をとり殺す。
そこで…
忠太郎は、オレの目の前に一枚の半紙を置いた。
その半紙には
《近藤但馬》と書いてあった。




