緋色の眼を持つ少年第十七話
『うわぁ!!』
と、机にうつ伏せていた顔を弾けるように起こして叫んだ。
心配し…気遣いの言葉を掛けてくれていた女子も、聞こえよがしに悪口を言っていた男子も、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情で…
驚く…
一瞬の沈黙…が、教室を占領した。
僕は恐る恐る美由紀さんが、ささやいた右側に眼を向ける。
誰も居ない。
僕の右目の端には…美由紀さんの姿は映らない。
多少の安堵が僕の心を占領し…
つい今しがたまで、心を占領した恐怖を排除した。
そのまま…ユックリと…
顔を右に向け進める。
右目には映らなかった美由紀さんの姿が…
左目が僕の右側に焦点が…
チラリと…
細く艶やかな…黒髪が…
焦点があってきた左目に写りこむ。
ユックリとユックリと右を向くと…
そこに…微笑み掛ける美由紀さんがいた。
今度こそ…
大声で叫ぶ…
気が付くと僕は教室を飛び出していた。
教室を飛び出したとして、何の解決にもならない。
周りに助けを求めようにも誰にも美由紀さんは見えない。
何せ…
僕の右目にさえ見えなかったものが…
普通の人には見える筈がない。
職員室に駆け込んでも…
先生たちの中には…
僕の左目の様に赤く…
現の住人以外の者を見る眼をした人は居ない。
助けを求めるならば…
透さんしか居ない。
僕は迷わず…
ランドセルも何も持たずに学校を飛び出し、永井の家に走った。校門を出て振り返っても、美由紀さんは追って来ない。
もしかすると…
美由紀さんは、早くは移動出来ないのかも知れない。
今度こそ安堵感が僕の心を満たす。
だけど…足を緩める事は無い。
美由紀さんの家の前を通り過ぎるのは、やめた方がいい気がする。
ここは、少し遠回りして帰ろう。
やがて…田んぼを鋤き終わり、蓮華の種を蒔いている透さんの姿が見えてきた。
『とおるさ~ん!!』
と手を振りながら駆け寄ると…
『どうした?早いじゃないか?』と、尋ねてくる。
『美由紀さんが…美由紀さんが…教室に迄来た!』
それを汲み取る様に
『怖かったな…
もう…大丈夫だ。』
と、蓮華の種蒔きをやめて…
『取り敢えず家に帰ろう』と、僕を誘い…
家に向かう。
門の前まで来ると…
一台の乗用車が、家の前に止まっていた。




