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鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~  作者: 鳳翔雨月


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8話 素敵な国(3)

お読みいただきありがとうございます!


 異世界の夜とは興味深い。ここはスラムらしいが、そこそこに活気があった。

 屋台が並ぶ光景はグルメフェスに雰囲気が似ている気がする。行ったことはないが。

「キョロキョロすんな」

「元の世界でも世間知らずなの。大目に見て欲しいわね」

 盛大なため息と共に肩を落とすエルマ。

「勝手にしろ……」

 複数の屋台が囲む様にテーブルもかなりの数が設置されている。屋台でテイクアウトしてここで食べられるということだろう。

 広場には、継ぎはぎだらけのテントがひしめき合い、煮えたぎる鍋の蒸気が夜空を白く濁らせている。

 並べられたテーブルと椅子も、どこからか拾ってきたような代物ばかり。高さも色もバラバラだ。

 鉄板で何かを炒める音と肉の焼ける匂いに油っぽい空気。大きな声で笑い合う男達。

 そんな中の一つへエルマが腰を下ろすので私も対面に座る。そこで懐かしい記憶が蘇る匂いが鼻に届いた。昔一度父に連れて行ってもらったラーメン屋台の匂いである。

 視線をずらして他の席に目をやれば、やはりラーメンだった。この匂いはしょうゆ系だろうか……。

「ラーメン?」

「ん? あぁ、これって異邦人が伝えた食いもんなんだっけ……。異邦人が伝えた物って結構あるらしいからな」

 エルマが私の呟きを拾って屋台を指さす。やはりラーメンで正解だったようだ。しかし変なところもある。再び他のテーブルへ目を向けると何故かフォークで食べいた。異邦人……私と同じ世界から来た人間が伝えたとしても伝わっていく過程で色々変化したのかもしれない。

「……あのさ……」

 頬杖を突きながらこの世界と元の世界について考えていると、目の前に座ったエルマが言いにくそうに指先を遊ばせている。

 私は首を傾げる。

「奢って……」

 思わず、がっくりと頬杖から滑った。

「ちょっと……ねぇ! 貴女いままでどうやって暮らしてきたのよ……」

「しょうがねぇだろ! 家賃を払ったばっかりなんだ! そんで軽く稼ごうと思ったら、お前だよ! これ!」

 エルマは自分の顔を指さす。ガーゼが当てられた顔は痛々しいが……。

「それは私も同じよ! 言いがかりも甚だしい……。この辺では殺されなかっただけありがたいんじゃなかった!?」

「そうだよ! だから色々面倒みてるだろ! クソっ」

 最期は投げやりに言うと屋台の一つにズカズカと歩いて行く。

 あり得ない程の速さで器を二つ持ってくるが、何故か恰幅のいいおばさんも連れてくる。

 エルマはラーメンを乱暴に置くと、私の右腕を取っておばさんの方へ無言のまま向けた。

『200G 支払い』

 決済の許可なのだろう。魔法薬店では既に私に払う意思があったから出なかったのだろうか。

 エルマとおばさんの視線にため息を吐きながら、支払う意思を思い浮かべる。集中、イメージ。普段なら意識しない事をしっかりと意識する。すると――。

『200G 支払い 完了。 残100G』

 薄っすらとホログラム様に見えていたブレスレット上部辺りの表示が消える。

 エルマは既にテーブルに備えてあったフォークでラーメンを啜っていた。

(啜るの下手だな……)

 私はもフォークを手に取る。出来れば箸の方が使い慣れているが、それしかないので仕方ない。

「これでまた稼ぎの半分が消えたんだけれど?」

 視線をまるで合わさないエルマにこれ以上言っても無駄だろう。いずれ取り立てるとしても今は食事である。

 ゴクリと喉がなる。この世界に来てから何も食べてない。いよいよ空腹も限界だった。

 フォークでパスタの様に麺を巻いて食べる。

「…………」

 それからはただ無言で食べ続ける。空腹とはこんなにも食事をおいしくするのだと初めて知った。

 元の世界ではただの栄養補給でしかなかったけれど……。

 熱いのが苦手なのでちょっとづつしか食べられないのが惜しい。

「んっ……ふぅ」

 紙ナプキン……と思ってテーブルの端に手を伸ばすけれど――なかった。

 一瞬、無作法だろうと考えるけど、別の世界に来てまで他人の目を気にする必要はない。強引に手で唇を拭った。

 いつの間にか水の入ったコップが置かれていたので、飲み干す。一息ついて、目線を上げるとなんとも言えない顔でエルマが私を見ていた。手にコップを持っているのでエルマが持ってきてくれたのだろう。

「……よっぽど腹が減ってたんだな。ここは一番安いけど、うまい訳じゃないんだがな」

「おいしかったわ。お腹ペコペコだったし……それに初めて自分で稼いだお金で食べた物だしね」

 言って気が付く。そうか……自分で稼いだお金だ。勉強ばかりでバイトもしたことが無い。

(思えば……私は……)

 「両親が考える理想の私になりたいんじゃなくて……私の考える両親が理想に思える私になりたかったのね……」

 やっとその事に気が付いた。

 呟きは自分の中で整理されて、一つの結論にたどり着く。

「エルマ。私はこの国を出て……自分のしたい事を探す」

 はっきりと声に出して宣言した。

 黙って私を見ていたエルマは私の宣言に驚いた様に目を丸くする。どちらかと言えば斜に構えた表情の多いエルマの素の驚いた顔だった。

「それは――」

 エルマが何かを言おうとして……そこで不愉快な声が重なった。

「おいおぃ……一匹オオカミ気取りのエルマぁ? 異邦人連れてなにやってんだぁ?」

 数人の男達。その先頭にいた妙に声の高い男が私の達のテーブルへ寄ってきていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回も明日【19:20】に更新予定です。


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