7話 素敵な国(2)
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空は深いオレンジに染まり、一日の終わりが迫っていた。
恐らく電気などはなく、自然光が遮られエルマの部屋は影の部分は闇に呑まれ始めている。
自宅に帰って来たエルマは私を見て、一瞬目を見開いけれど直ぐに苦笑に似ていて少し違う顔で笑った。
「ほらよ」
エルマは見慣れたハンマーを投げて寄越した。
「そういえば、飛んでいったままだったわ。回収してきてくれたのね」
受け取ったハンマーはガレージで見た時より薄汚れている。
ハンマーを見て顔を顰めたのを見ていたのか、更にボロ布が投げられたのを受け取った。
「きたな……」
こんなに赤黒いゴミが付いていただろうか?
私がゴシゴシと適当にハンマーを磨いてる横でエルマが不思議そうに私の眼鏡を眺めていた。
「……眼鏡……だったよな」
まるで物珍しそうに夕日に眼鏡を掲げ、クルクルと見回す。その後、少し躊躇いながらエルマ自身が眼鏡を掛ける。
「うわ……視界が歪む……。目が良くなる道具じゃなかったのか?」
直ぐに眼鏡を取ると、眩暈を感じたのか、目元を押えたエルマを見て笑みが零れた。
「表現の違いがあるわね。あくまで視力の矯正の道具。元々視力が正常なら必要ないわ」
顔を顰めながら、ベッドのサイドボードへ眼鏡を戻すエルマ。
「あぁ……そういう……。一般エリアで付けてる奴が偶にいるが、このスラムでは遠くまで見える様になる魔道具だって言ってる奴がいるんだ」
エルマの言い方だと望遠鏡の様な感じだと思われていたのだろうか?
少しがっかりした様子のエルマ。
「まぁ、そんなこったろうと思ったけど。目が悪い奴を補助する道具だったのか……」
ある程度ハンマーの汚れも拭えたので、部屋の唯一のテーブルに置くと、代わりにサイドボードの眼鏡を取って身に着けた。
「これでちゃんと見える。……あなたも、探しているんでしょう? この世界が正しく見える方法を」
部屋の隅に積まれた本や雑誌。それは情報を求めてエルマが藻掻いた証なのではないだろうか。
エルマは私の言葉に僅かに顔を歪め目線を反らすが、それ以上何も言わなかった。エルマも現状を考えているのだと言う証拠なのだろう。でも答えが出ない。そんなところか。
私にも考えがあるが、今は言うべき時ではないのだろう。
だから聞こうと思っていた話を振る。魔道具。私たち異邦人に漏れなく装着され、色々な場所で耳にして来た。
「魔道具ってこの世界では重要なの?」
エルマが私のブレスレットをなんとも言えない表情で見つめた。
「あぁ。お前のブレスレットも魔道具の一種だよ。そして……貴族共の特権でもある」
「やっぱり重要なのね。……私達を集めた兵隊も似てようなのを持ってたわ。因みに今回の招集は魔物の討伐をしろ、ですって」
エルマが僅かに驚きながら隣に腰を下ろした。ベッドがギシッと沈み、彼女と肩が当たる。
「へぇ……。よく生き残ったな」
「えぇ。とにかく逃げ回ったのよ」
私の言葉に吹き出すエルマ。
「丸腰だったからね。前回のもらった剣を投げたから別の武器を支給してほしいって言ったら、にべもなく断られたからしょうがないわ。でも……貴女の言う通り特に魔物を倒しからといって報酬は変わらないようね」
エルマにも分かるようにブレスレットが嵌った右手を上げる。
「前回と同じく300G。今回私は逃げ回ってただけで、何もしてないけど……」
一定時間が経つと、再びあの広場に居た。もしかしたら別の誰かが魔物を倒した事で仕事が完了した可能性もあるけど……。
「そうそう、この世界に詳しいって言う異邦人、つまり私達の世界から来た男の子たちが居てね。その男子から色々話を聞いたの」
たまたま集合した時に近くにいた男子たちだった。三人組でもれなく小太り、ぼそぼそとした喋り方、少し不快な笑い方をするグループだが、本人たちが自称するようにこの世界――いや彼ら風に言うなら異世界召喚と言う事象に精通していた。
私が異世界に召喚された事はやはり確定らしい。彼らが自慢げに言うにはこれから真の力に目覚め、チート? と呼ばれる無敵の力で好き放題する、と言う事らしい。
彼らの常識の話では魔法のある世界というのは基本のようだ。
「魔法の事だけど……召喚された時に一人不可解な死に方をしたの。あれが魔法だと思うんだけど……私たちには同じこと、出来ないでしょ?」
その事を彼らに伝えると、最初は使えない場面もあるが、ピンチになれば使える様になるだろうと笑いあっていた。その事をそのままエルマに話す。
「使えねぇよ……。実際今使えないだろうが……」
呆れた声で馬鹿にした様に吐き捨てるエルマ。
私も頷く。彼らには曖昧に頷いてお茶を濁したが、今使えないものが都合よくピンチの時に使えるようになるとは思えない。
「まず……魔法には魔道具が必要だ。油があっても火を起こす道具がないと火は付かないだろ? 基本的に誰でも魔法の使う為の魔力はあるんだ。保有量の差はあるけど。でも魔法を使う為に必要な道具である魔道具の作成方法は国とか大貴族とかしか知られてない。買う事も出来るけど……一般的な市民では一生分の金があっても無理だろうな」
「私たちが集められて、全然違う景色の場所へ連れていかれるのも魔法?」
「転移の魔法だな。あの魔道具は設置にめちゃくちゃ金がかかるらしいぞ」
転移。テレポートとも言えるか。元の世界にあれば一気に物流事情が変わってしまうわね。
「もしも魔道具を手に入れられたら……私の今の待遇は変わると思う?」
「どう、だろう。変わる……かな。いや、分からん。でも結局は……そんなヤツ、必要ないと思うぜ」
腕を組んで唸るエルマ。
「さっき話したスキルだけど……これって魔法とはまた違うらしいんだよな。魔力を使う過程は一緒だから妨害とか出来るみたいだけど……。でも魔道具なしで使えるし、強力な力も多い。だから重宝されてる訳だ。異邦人んでも特別な力を持たないんなら、自前の魔道具を持った騎士とかでいいしな」
つまり……結局意味がないと言う訳か。
(どちらにせよ……)
私は立ち上がる。既に限界だ。
「食事に行こう」
空腹が。
真面目な話から急に切り出したのでエルマの呆れたようなジト目に晒される。片手で頬杖付いていたが、諦めた様にため息交じりに腰を上げた。
「わかりましたよお姫様、お食事にいたしましょう」
先を歩くエルマの後に続いて私は初めての異世界での夜を迎えようとしていた。
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次回も明日【19:20】に更新予定です。
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