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鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~  作者: 鳳翔雨月


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4話 異世界だからって自由な訳じゃない(3)

お読みいただきありがとうございます!

面白いと思っていただけたら幸いです。

 背負った女を廃屋の柱に拘束する。

 女は痛みから、呻きながらも目を覚ます様子はない。

 召喚者たちが連れて来られた広場の先にあったエリアは所謂スラム街と呼ばれる場所だったらしい。

 薄々、通りを歩く人の身なりや道の不衛生さで感じ取ってはいたが……私の認識は正しかったようだ。

 私自身も体中が痛いしで、どこか休めるところを探そうと辿り着いたのが、この廃屋だった。

 屋根は一部落ちているし、家具の残骸があちこちに散らばり、埃っぽい。

「げほっ……」

 残骸の中からロープを見つけ、意識の無い女の両手を後ろに回して縛った。

「はぁ……」

 私はまだ何とか椅子と呼べる代物に腰を下ろし、項垂れた。制服の胸ポケットから眼鏡を取り出す。

(割れたりはしてないわね)

 袖でレンズを拭いてから掛けた。

「疲れた…………」

 思い返せば、召喚されてから動きっぱなしだ。足が鉛の様に重く、緊張が切れて無理のツケの支払いが来たのだと再びため息が出た。

「うぅ……。く、くそ」

 痛みを堪える様に、女が目を開けた。ゆっくりと頭を振って、私と目が合うと鋭い視線を向けられる。深紅のふわふわのウェーブが彼女の動きに合わせて揺れる様をぼんやりと見ていると女が憎々し気に口を開く。

「い、っ……。くそ……無茶苦茶殴りやがって……」

 口の中があちこち切れているから、喋るのは辛いだろう。私も同じだ。だから今は黙ってる。

「なんで殺さない?」

 けれど黙っている訳にはいかないようだ。

「利用価値があるからじゃない?」

 なるべく口を開かない様にしたからか、女が身構えた。もちろん縛り付けているので、もぞもぞと体が揺れただけだが……。逃げられない縛り方など知らないので、とにかくあちこちを結び、柱に通した。

 私は……彼女から情報を聞き出そうと思っただけだが、当人は覚悟を決めた様な顔で私を再び睨みつける。まるで視線だけでも殺そうというように。

「ちっ……これで終わりかよ。召喚されたばかりの異邦人だと思ったのに……。染まったヤツか……。くそっ……」

 勝手に覚悟を決められて困るのだが。私の陰気な顔が悪党の様に映るのか?

 何かいい方法があればと思考を巡らせたが、そもそも友達もまともにいない私には無理な話だった。

 仕方ないので、人との対話で一番始めにすべき事を思い出し、実践する。

「澄(とおる)よ。名前。貴女は? 名乗らなくてもいいけど、私の中で赤いフワフワと呼ぶわよ」

「全部髪の事だろ! 癖っ毛なんだよ! お前センス最悪だな!」

 赤いフワフワは痛みからだろう、目の端に涙を浮かべながらも抗議する。

「かわいいと思うけど……」

 私の呟きに鋭く睨まれた。

「エルマだ……。変なあだ名は止めろ!」

 叫んで再び呻くエルマ。因みに私も呻く。そろそろ我慢出来る痛みを越えてきた……。

「薬を買える場所は?」

 エルマは先ほどまでの威勢が嘘の様に首の力を抜くと呟くように答えた。

「そういえば文字が読めないんだっけ……。すり鉢の絵が描いてある板だ。あれが薬屋の印」

 膝に手を当て立ち上がる。節々が痛い。頭痛は酷いし、腹部に入れられた膝で吐き気がする。

 私が廃屋を出るのをエルマは気だるげに眺めていた。



 改めて……酷いなと思う。

「薬は?」

 店主は私を見ると露骨に軽蔑した視線を寄越し、顎で棚を示しす。そこには深い紫色の液体が入った小さな瓶が並んでいた。

 魔法的な回復手段と聞いて少しだけ心が躍ったけれど……値段を聞いてすぐに冷めた……。

「600Gだ。異邦人……これで命拾い出来るんだ。安いものだろう?」

 600G。私の残高の倍。ニヤニヤと笑う店主の顔から明らかに足元を見ているのだろう。

 私は小さくため息を吐くと店主の胸元を掴み、カウンターへ押さえつけた。

「ぐっぅ! なにしやがるっ!」

 少しだけ違和感を感じる。もちろん今私の行動は私の意思だ。

 けれど相手は大の男。直ぐに手を弾かれると思っていたけれど……私の手は店主の首元を押えたまま、動かない。当然だけど、店主は私の手から逃れようと藻掻いているが力が足りないようだった。

(この世界は重力が違うとか?)

 重力の関係が違えば、体の鍛えられ方も変わる。つまり勉強漬けの私でもこの世界では相当な力を持つと言う事になるけれど……。

(違う気がする……)

 魔法があるのだ。魔法的要素があってもおかしくはない。

「ぐ、ぐ、ぐ……放せよ! 憲兵を呼ぶぞっ!」

 店主をカウンターに押さえつけたまま、全く別の考えに行きそうになっていた思考を少しだけ頭を振って元に戻す。

「失礼。だけど……ここに憲兵なんてくるのかしら?」

 私が見下ろしながら言うと店主は悔しそうに唇を噛んだ。

「この国にとって、私もここの住人も大差ない、路傍の石みたいなもの……でしょ? 所詮……この国にとっては異邦人も……貴方たちスラムの住人もどうでもいいの。だから憲兵なんて絶対に来ない」

 わざと声を低くして断言すれば店主は目を見開き、悔しそうに唸った。

「ねぇ? 安くしろとは言わない。正規の値段で売りなさい」

 声を戻すと、店主は諦めた様に力を抜いて頷いた。

「ちくしょう……」

 顔を引きつらせながら、私のブレスレットを指さした。私が右手を差し出すと、店主も小ぶりな水晶をブレスレットに近づける。と私のブレスレット水晶が僅かに輝いた。

 魔法薬の店?――正式名称が分からない――を出て廃屋に戻るとエルマが体を揺すってなんとか拘束を解こうと藻掻いていた。現れた私を見て舌打ちをすると諦めた様に再び力を抜いたようだ。

「あーあ……ここで終わりかよ……。くそっ! ここに居る異邦人だからって安易に考えたのが間違いか……」

 吐き捨てる様に項垂れる。しかし気だるげに顔を上げて私を睨みつけた。

「殺せよ……」

 私はエルマの話を無視して全財産である魔法薬の瓶を彼女の顔の前で振る。

「使い方は?」

「飲んでもいいし、振りかけてもいい筈だ」

 コルクを開けて口に含む。びっくりする程味がない。色合い的に酷い味を想像したのに……あっさりしていて、そのまま飲み込んでしまった。

 だが効果は直ぐに出た。体の痛みが和らいだのだ。

「魔法……か」

 思わず呟いて、半分残った魔法薬を覗き込む。どうみても体に悪そうな色だが効果は確かにあった。

 私はエルマの顎を指で持ち上げる。

「ッ! な、なに――」

 を、と発する前に魔法薬の中身をエルマに流し込んだ。

「げっほ、げっほ……どういうつもりだ」

 鏡が無いので自分の顔は分からなかったが、痣だらけで腫れていたエルマの顔から腫れが少し引いた。痛みが引いた感覚から私も同様の効果があったのだろう。

 エルマは困惑した顔で私を見上げる。

「この魔法薬は今ある全財産。たった今なくなったけど……。これで強盗する理由もなくなったわね?」

 瓶を投げ捨てると、エルマが呆けていた。だけど小さく笑い始める。痛みは完全に引いた訳ではないから、目の端に涙を溜めながら、ケタケタと笑う。

「あははは。イカれた異邦人だな!」

 ひとしきり笑うと涙目のまま、私の目をしっかり見つめ返す。

「それで……ワタシに恩を売ってどうるんだ? 目的があるんだろう? お嬢様?」

 そこで私は初めて気が付く。エルマは綺麗な黄金に近い瞳の色をしているんだなと。エルマから目線を反らさず、私は頷く。

「この世界の情報が欲しい。エルマ……私は貴女に勝った。本当なら身ぐるみ剥ぐのもいいし、その辺の男に売り飛ばしてもいい。でもしない。だからその恩を返して」

 私の言葉に一瞬身を強張らせ、嫌そうに顔をしかめるエルマだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回も明日【19:20】に更新予定です。


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