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鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~  作者: 鳳翔雨月


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3話 異世界だからって自由な訳じゃない(2)

初めまして、作者の鳳翔雨月です。


本日から『鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~』の投稿始めました、よろしくお願いします!


一先ず区切りとなる話までは毎日更新です。更新の間隔が変わる際はお知らせさせていただきます。

 ルルミナス神聖帝国。

 それが私の召喚された国の名前らしい。

 生き残った者たちが連れて来られたのは粗末な広場だった。召喚されたあとに城から出て、今は遠目にその洋城が見える。そこで少し装飾の施された鎧の兵隊が私達を集め、手に持った水晶を僅かに掲げた。

 するとブレスレットがほんのり光を放つ。

「次の招集まで自由だ。我がルルミナス神聖帝国は慈悲深い。戦い抜いた貴様らには報酬を与えてある。その金で装備、食事などを取り、次の戦いに備えろ!」

 大声で喚くと、さっさと城の方へ引き上げていった。当然の様に困惑が広がる。

「あぁ、君たち……」

 兵隊と入れ替わる様に現れたのは制服を革で補修を施した男だった。かつては金に染めていたであろうプリン頭に困ったような表情で笑うと私達の前に来た。

「召喚されてきた人たちだね。僕は君たちより前に召喚された人間なんだ。酷い目にあったよな。色々教えてあげるよ」

 彼の言葉にざわつきながら、希望的な声が上がる。

「まずは……ブレスレットを近づけてくれ」

 数人が同じように手に嵌ったシンプルなブレスレットを男に近づけた。召喚された時に居た豪華な服の男と同じ様にぼんやりと淡い光を放った。

「これが魔法なんだよ」

 魔法という単語に一部の男子は喜びの声を上げたが、私は僅かに輪から下がり、成り行きを見守る。嫌な予感がしたからだ。

 だが柔らかな男の話にいつの間にかここ居る者たちの大半が聞き入っていた。

 耳を澄ませ聞こえた話を要約すると、身に付けているブレスレットは逃げ出さない為の鎖であり、スマホの電子決済の様な機能を果たすらしい。

 次の戦闘に召集される時の為に食事、寝床、武器など全て自分の報酬で支払わなければいけないようだ。

(現金は渡さず、恐らく食べるのと、寝るところで資金は残り僅か、か。逃げ出す事がないように上手く管理されてる)

 私は腕を組んで思考を巡らせる。

「それと……このブレスレットだけど……」

 人だかりの向こうで男がにっこりと笑うのが見えた。

「この情報は有料なんだ」

 誰かが続きを聞こうとしたのだろう、近づく。

「しっかりしてるな……。わかったよ。ところでどうすれば、残金を見られるんだ?」

「あぁ、簡単さ。滑稽だけどブレスレットに意識を向けて、残金を見たいって思えばいいのさ」

 そこで悲鳴に似た声が上がる。

「な、なんだよ! 0じゃねぇか!」

「それはどうだろう? 君たち僕の情報を聞いたじゃないか」

 思わず、舌打ちして自分の右手首のブレスレットに意識を向けた。

 300G

 安堵と共に右手を下ろす。

 それは他の人たちも同じらしく、主に前列に居る者から悲鳴が上がっている。

「ふざけんなよ!」

「詐欺じゃない!」

 集団の前の方の者たちが男に詰め寄る。が、笑みを歪めた男は詰め寄った一人を殴り飛ばした。

「ぐぁ!」

 転がった男子を見下ろし、乱雑に髪をかき上げると唾を吐く。

「お前ら、俺の情報聞いただろうが。その情報量だよ。文句あんのか?」

 男が凄むと輪が広がる。私達は知っているのだ。生きてここにいる事、それはあの戦場を死なずに戻ってきた事を証明しているのだから。

 しかしこれで事は終わらない。前に居た数人は後ろの数人に詰め寄った。

「お、お前ら、俺に払えよ!」

「そ、そうよ。私達だけ不公平だよ!」

「勝手にお前らが騙されたんだろ! 俺は知らねぇ!」

 私もだが、最後尾の人間は早々に輪から離れ始めていた。



 テントが立ち並び、覇気のないボロボロの制服を着た人たちが力なく座っていたり、逆にギラギラした目をした者もいる。

 この辺は私達召喚された人が集められる場所らしい。

 ブレスレットをもう一度見る。

「ここを離れると頭がさようなら、って事にならないでしょうね……」

 ブレスレットに気を取られていたが、手が擦り傷だらけだ。元の生活では紙で手を切るぐらいが精々だったが……。意識すると急に体のあちこちが痛くなってきた。緊張が切れたのだろう。

「はぁ……」

 テントが並んだ場所を抜けると石積みの洋風な建物が並び始めた。一階が石造りで、二階以上がせり出した木組みの家々も多い。

 通りを歩く人も大人が混じり、様々な年齢の人が見られる。しかし衛生は良くないらしく、あちこちにゴミなどが落ち、不快な臭いを立ちのぼらせていた。

 思わず袖を口元に当てる。

 すれ違う人は誰もが身なりが簡素で薄汚れている。ジロジロと見られているのは、私の行動が良くないのもあるだろう。きょろきょろとつい珍しくて顔を向けてしまうからだ。

 あまり治安の良くない旅行先ではキョロキョロしないのは鉄則ではあるが、今は少しでも情報が欲しい。

 店舗らしい建物に掛かる看板はどれも文字が読めない。改めてここが別の世界なのだと突きつけられた。

「…………」

 一旦戻った方がいいだろうか、と言う考えが浮かび、苦笑が漏れた。

(戻る? どこに?)

 あの広場に戻れば先達の召喚者たちに、いいように餌食にされるのは先ほどの出来事を見れば明らかだ。

 気が付けば路地の裏の方へ迷い込み、薄暗い行き止まりだった。

 引き返そう。そう思った時――。

「よお、お嬢さん。迷子か?」

 背中に尖った物が当てられる。

「動くなよ? 怪我したくなかったらな」

 声からして女性だ。背中にナイフを突きつけているのだろう。女は私の後ろにピッタリと近づくと耳元で囁きながら私の髪に触れた。

「へぇ、やっぱり異邦人ってのはいい暮らししてんだな。髪は綺麗だし、服も泥で薄汚れてるけど……上等な生地を使ってる」

 横髪を撫でられると視界に細い指が見えた。

 首だけを僅かに動かし視線を後ろに向けると映るのは燃える様な赤い髪だ。

「…………」

 私が動かない為、相手は上機嫌で話を続ける。柔らかい声は可愛らしいが物取りと言われるやからだ。

「生き残った異邦人なら金も入った筈だ。折角生き残ったなら、ここで死んだら詰まらない……大人しく金を出せ。あぁ、それとその着てる物な」

 私は眼鏡を外して胸ポケットに入れてから両手を上げ、ため息を吐く。

「どうやって現金にするの?」

 泥棒でも現地の人間だ。貴重な情報元でもある。それに――。

(この女はある程度……良識がある)

 私なら物取りをすると決めた時点でさっさと後ろから刺す。

「その辺で金目になる物を買え」

 更にそれを売って現金化、か。

「服も? 下着で動き回らないといけないなんて恥ずかしいわ」

 尚も言葉を続ける私に相手は苛立った様に声が荒くなり始める。

「知らねぇよ。ここではそんな高尚な事言ってられねーんだよ」

 ここだ。

 私はそのまま後ろに下がった。

「ッ!」

 咄嗟の行動だろう。女の手が引かれる。

(完全な悪人って訳じゃないのが災いね!)

 チクリと痛みを感じたが、気にせず振り向き様に腰のハンマーを取り出しナイフに向かって横に振るう。狙い通り小さな火花を上げナイフを弾き飛ばす事が出来た……が、同時に私のハンマーも手からすっぽ抜けてあらぬ方向へ飛んでいってしまった。

「くっ」

 力み過ぎか、既に体力の限界か。どちらにせよ、拾いに戻る隙はない。

 対峙した女は私と変わらない年齢だろう。そして目を引く深紅の髪。その深紅の髪は見事なまでにふわふわだった。

 手を押えた、深紅の髪の女が怒りに視線を細める。

「てめぇ……痛い目に合いたいって事でいいんだな?」

 拳を握り、徐々に距離を詰めてくる。私も彼女に倣い拳を握ると構えを取った。

「出来れば嫌ね」

「もうおせぇよ!」

 僅かに半身横に移動してから、一気に距離を詰められた。横移動、そして拳が飛んでくる。

「がっ!?」

 私は完全に動き、拳に意識を持って行かれ、間合いを詰められると腹に膝蹴りを叩きこまれた。体がくの字に曲がり、嗚咽感に堪える。

「おらぁ!」

 曲がった体の背中に膝をたたき込まれた、呼吸が止まる。

「ッ!!」

 痛みで混乱しながら思ったのは喧嘩慣れしている、と言う事だった。

「はっ! どうした? もう終わりか、お嬢様?」

 髪を掴まれると上を向かされ拳を顔面に食らって、強制的に横を向かされる。一瞬視界が明滅し、口の中に血の味がする。

(あの男達に囲まれたのと……同じ味……)

 殴られながら、けれど同時に思う事もある。相手も武器がないなら同じ人間だ、とも。

 私は痛みに耐えながら相手の懐に全力てタックルをする。

「ぐっ!」

 深紅の髪の女は耐えようと踏ん張るが、全体重を乗せ、引き倒した。そのまま彼女の腹の上に乗り、動きを封じる事に成功した。

 所謂マウントポジションである。

「クソが! ざけんじゃねぇ!」

 下から拳が飛んで来て、背中側では彼女の足が滅茶苦茶に暴れているのか、バシバシ当たる。けれどどれも先ほどまでの威力はない。

 私は再び拳を強く握る。そして振り下ろす。

「がっ!」

 下は土とは言え、衝撃は逃がし辛い筈だ。続けて何度も拳を振り下ろす。一発殴るたびに、拳に伝わる重い衝撃。骨が軋む感触。その感触が戦場でハンマーを使い、敵の膝を砕いた時の音と重なって私の脳を麻痺させていく。

「がぁ! ぐぅ……。く、くそ……」

 憎々しそうに私を見上げていたが、何度も拳を振り上げると徐々に抵抗がなくなった。

「はぁはぁ……」

 女の反応がなくなって、やっと拳を振り下ろすのを止め、荒い息を整える。いつからか意識が飛んでいた。痛みで震える両手を見ると血だらけであり、握った拳が開けない。

「あ……くぅ」

 無理やり手を開き、女の胸に手を当てる。

「殺して……ないわね……」

 安堵と共に泥の地面へ、へたり込んだ。

「ここまで……するつもりはなかったんだけど……」

 思わず声が出てしまう。

 そう、そこまでするつもりはなかった。痛め付けてこの世界の情報を喋らせるつもりだったのだ。

 喧嘩すらした事のない私は加減が分からない。

 生き残る為に殺しは厭わないが無暗に殺しをしたい訳じゃない。

 しかし敵を倒す快感を得ているのも確かだ。

 痛む拳で気絶した女を抱える。

「う゛……重い」

 フラフラと休めるところを探して移動をはじめた。

「殺すのは……いつもで出来る。それに私には……『案内人』が必要なの」

 抱えた女の顔は酷い事になっている。それは私も同じだろうけど……。

「いたたた……」

 深紅の髪を見つめて小さな疑問が沸き上がる。

「地毛……なのかな……」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回は明日【6月13日の19:20】頃に更新予定です。


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