24話 盗賊狩り(3)
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夜通し神経を張り巡らせ、更に戦いという気の抜けない状況は思ったより疲れを加速させていたようだ。
森の中は気の抜ける場所ではないが、自分でも注意散漫になっているのを自覚する。
しかしエルは元気で、暗い森の中を軽い足取りで進んでいく。こういう場面では平和な国に暮らしていて運動不足だった私とエルでは差が出てくるのかもしれない。
「おい! 澄。みて見ろよ! これ!」
エルが興奮気味に突き出してくるのはギルドカード。
「ん? ……え!」
疲れていた目を見開き、眼鏡を外す。思わず間の抜けた声が出てしまう。
「どうやったの!?」
エルのギルドカード。薄暗い森の中でも月明かりに照らされ、輝くカードは材質が変わっていた。
綺麗な茶色は銅だろうか。明らかに元の石材から変化している。
「どうやったっていうか……気が付いたら変わってたんだ」
私もポケットに入れていたカードを取り出す。
「変わってる!」
私のカードも銅色に変化いていた。触った感じ元の材質から質感が違う事から、本当に材質そのものが変化したのだろう。ただの石だと思っていたのに完全に材質は変わり、金属特有の鈍い光沢を放っている。この世界でも魔道具の仕組みを解明できていないけど、現実に手の中の物が別の物へ変わったのを見ると少しだけ不気味さを感じてしまう。
「どうなってるの……」
私は怪訝な顔で首を傾げる。
「ランクアップ……だと思う。早くギルドに行ってみようぜ」
腕を取られ、半ばエルに引きずられる様に腕を組んで村へ戻る。
確かにエルのいう通り、ギルドが詳しい事を知っているだろう。
薄っすらと空が明るくなり始める、紫色の世界。
本当なら太陽が見えなくても周囲を見回すのに問題が無くなって、綺麗だと思える空模様だろう。けれどそんな余裕もなく、へとへとになりながら村へと戻ってきた。
「おい! 開けろ!」
どんどんと荒っぽくエルがギルドの扉を叩く。
「うるさい! ゴミどもが!!」
ギルドの建物からではなく、隣の家から受付にいた中年女性が現れる。彼女は自身が言った言葉通り、ゴミを見るような迷惑そうな顔で出てくる。だがエルにはどうでもいい事なのか、言われた事に怒る事なくギルドカードを出した。
「依頼を達成したぞ。盗賊たちの下っ端は縛り上げてある。早く対応しろ」
初めこそ苛立った表情だった受付だが、直ぐに目を細めた。そして直ぐにバカにした様にエルを見上げる。
「冗談だろう? あれは石ランクでも数十人に取り掛かる依頼さ。それも銅ランク間近の、ね。分かったらくだらない冗談でアタシを起こすんじゃないよ!」
受付女性の高圧的な態度にエルが鼻で笑う。
「ハッ、よく見ろババァ! カードは変化したし、ギルドの魔道具で調べれば依頼が終わったかどうか直ぐにわかるんだろ? 今すぐ見ろ」
徐々に明るくなる空模様にギルドカードが鈍く光る。
彼女もやっとギルドカードの色を認識したらしい。
先ほどのまでの表情から分かりやすく驚きの表情へ変化していく。
「う、ウソだろう!? ほ、ホントにランクアップしてやがる……」
驚きながらもエルのカードを手に持って確認した。老眼鏡だろうか、首にチェーンで下げていた眼鏡を掛ける。
「偽造じゃ……いやそんなことは……」
暫く独り言をつぶやいていたが、手の中のギルドカードに変化はない。
「くっ……いいだろう。中に入りな。確かめてやる」
顎で中を示すとギルドの扉を開いた。私たちも続いてギルドに入る。私はこっそりエルのわき腹を肘で突きながら、小声で抗議するとそっとエルが目を逸らす。
「どうゆう事? 石ランクでも数十人って……。しかも次のランク間近の人って……」
「悪い……。よく見てなかった。石ランクって書いてあるから……大丈夫だって思ったんだと思う」
エルが依頼書のボードから件の依頼書を剥して見つめると気まずそうに再び目を逸らした。
「あの受付の言う通りだ……。下の方にちゃんと書いてたわ……」
ボソリとボリュームある髪を撫でながらてへっといった感じで誤魔化した。
私は改めてこの国から完全に出る事が出来て、落ち着ける状態になったらこの世界の字を学ぼうと決意した。
「……い、いやぁ……まさかね……。やるじゃないか、アンタたち」
ギルドの受付は愛想笑い全開で手を揉む。
「危険な依頼を二人だけで達成したから、ランクアップも一瞬だったようだね。いやぁ、見事見事。あのゴミ共が消えて、この村もまた賑わうよ」
受付女性の言葉でやっと気が抜ける。
大きなため息と共にどっと疲れが押し寄せてきた気がした。
「アンタら、初依頼達成だったね。なら言っておくことがあった」
彼女はカードリーダー見たいな魔道具からギルドカードを取り出し、エルに渡した。実際にあの魔道具はカード情報を読み取る魔道具なのだろう。
まだ何かあるのかとエルと二人身構える。
「悪いがこの村に依頼達成の現金はない」
「「はぁ!?」」
ほぼエルと同時に叫ぶ。疲れてるから態度が悪いのは許して欲しいが苦労して報酬がないと言われては怒りも当然であろう。
「落ち着きなって。現金は、って言ったろう。このギルドカードに金の記録されてるから、引き出せるギルドで引き出しな。ここのギルドはあの盗賊共の件もあって暫く孤立状態だったからね。払える余裕がないのさ。だからどっかデカい街……いや、そこそこの街でもいいけどそこで引き出しておくれ」
現金がない事にエルは不満そうだが、私は少し感心していた。つまり銀行的な役割という事だろう。
確かに今は現金が欲しいところではあるが……ない以上は仕方がない。
「わかったわ。説明ありがとう、行きましょエル」
エルの肩を掴んで、ギルドの外に出る。
「はぁ……肩透かしだな」
「私の腕に付いてた魔道具も同じようなシステムだったし……私は気にしない。それよりさっさとこの国を出てしまいましょう。いつまでもここで足踏みしてたい?」
「それも……そうだな。折角道が開けたんだ。行くか」
正直にところ、ぐっすりと寝たいところである。ルルミナス国の首都を出てからまともに横になって寝ていない。
ギルドの外にあった樽に腰掛け、大きく息を吐く。隣のエルも柵に体重を掛けると力を抜いた。
「一先ず、今あるお金で準備をしてからこの村を出ましょう」
「買い取ってもらえる物は売るか」
頷き、2人してぼんやりと昇る朝日に目を細めた。きっと傍目には2人ともげっそりしている事だろう。数日の滞在だが規模が小さいのですっかり全容を把握した村である。暫く無言のまま朝日を眺めた。
「あ~お腹空いた……。まずは朝ご飯だな」
そっとお腹を押さえる。エルに言われた初めて空腹である事を自覚する。
相手はギルドから殺しの依頼が出ていて、私はその仕事をしただけだ。けれどやっぱり殺しと言うのは神経を使うらしい。
「ジーモさんにも挨拶をしておかないとね」
「あぁ……そうだな」
村の小さなメインストリートにはポツポツと人が現れ始めている。それに伴いお店も徐々に開店し始めたようだ。
樽から立ち上がり、スカートの塵を払う。
「よし。行きましょう。お腹も空いたし……喉もカラカラ」
頷くエルと共に村唯一の食堂も兼ねた宿屋へ向かうのだった。
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次回も明日【19:20】に更新予定です。
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