22話 盗賊狩り(1)
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「地味だよな」
そう呟くエルの声にはどこか苛立ちが含まれていた。
「しょうがないでしょ。付け焼刃なんだから」
山に入り、数日。念入りに盗賊の罠を調べていく。地味な作業に苛立つ感覚も分かる。恐らくエルも私の苛立ちが伝わっているだろう、それ以上何も言ってこない。
ジーモに狩人としての知識や山歩きの基本を教えてもらったとはいえ、圧倒的に経験不足は否めない。
これから相手をしようとしている盗賊——より細かく言えば彼らは山賊と呼ばれる部類だろう——も山の中をテリトリーとしている。当然、山を熟知しており、下手に突っ込めば呆気ない最期を迎えるだろう。いや、死ぬより酷い目か——。
私自身焦る気持ちがある。ここで時間を掛ければ掛ける程、追手が来る可能性は高くなる。勿論追手などいないのかも知れないが、いないと決めつけて油断するのは愚かな事だ。
この世界は元の世界の様に国がなんでも面倒見てくれる訳ではない。自分の身は自分で守るしかない。
ゆえにエルと共に目を凝らしながら、盗賊のアジト周辺の罠を丹念に調べあげていく。
鳴子や地面に隠された木の根を編んだ、足を引っかける罠。落とし穴。
「物語ってさ、ピンチになってこそ面白いもんだろ?」
小声ながら、半笑いのエル。彼女も本気で言っている訳ではないのはすぐに分かった。
「物語ならね。でも実際にはピンチなんてない方がいいよ。戦うなら出来得る限り準備をして、一方的に勝つ」
私の言葉に苦笑しながら、頷くエル。
「くくっ、そーだな。お前ならそう言うかなって、思ったヨ。あ、ここにも罠はっけん、と」
当然だろう。実際にはピンチなどない方がいい。
ゲームの様にコンテニュー出来る訳ではないのだ。
「よし。これで川までのルートが出来たわね」
「盗賊たちが水を汲む川か。毎日下っ端ぽいのが汲みに来てるよな」
罠を調べるのと並行して、盗賊の行動も見張っていた。幸い私たちは二人だけであり発見されにくい。更にジーモに教えてもらって見つかりにくいルートもあり、発見される事はなかった。
「川と高台……高台は分かるけど、川はどうするんだ?」
腰に付けていた小さいサイドバックから小袋を取り出す。
「これを流す」
「……毒じゃねぇか」
顔が引きつるエルだが、敵は盗賊であり、討伐対象だ。遠慮する必要なんてない。
「正直、即死してくれるのならありがいたいくらいよ。それで出来得る限り数を減らしたいところだけど……。この毒なら腹を下すか、具合が悪くなる程度でしょうね」
手元の緑の粉末を眺める。これは村で手に入れた農薬である。しかし店で聞いた限りでは相当量摂取しなければ死んだりはしないそうだ。
川に入れる予定なのもあって、水で薄まってしまう事も効果が薄い原因だろう。
「また……お前は。過激な事で」
額に手を当てて、深紅の髪をかき上げる。
「そうね……。私の元居た世界なら非難されるべき行いだわ。けど私は……安全に、出来得る限り楽に倒したいのよ。それともなに? 私たちはあの人数相手に手加減できる程余裕があるの?」
「わかってるよ……。勿論ワタシたちに選べる選択肢なんてない。相手も相手だし……」
エルの頭を軽く小突く。
「案外スラム育ちなのに真っ当よね……。貴女は私の提案に乗っただけ。私がリーダーなんでしょ?」
私の言葉に少しだけ渋い顔をしたエルは、伸ばした私の手を払いのける。
「……リーダーだとは言ったけど、仲間でもあるだろ? 分かってるさ、贅沢に選べる身分じゃないってさ」
「いずれ余裕がある時に贅沢な選択肢を選べばいいわ」
エルに悪戯っぽい笑みを向けると少しだけ呆気に取られた顔をしたが、すぐに苦笑の表情に変わる。
「くくっ、そうだな。贅沢はしたいもんだね。まぁ。今は……ただ仕事を片付ける事を考えるよ」
「ふっ……、それじゃ詳しい作戦を考えましょう」
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