19話 初めての外(2)
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暫く馬車で進んでは検問や要塞、戦場が展開している場所を発見。それらを大きく避けながら移動して数日。やっと馬車が通れる広さがあり、障害のない道を見つける事ができた。ルルミナス国周辺を回り、大体の主戦場を把握した上で最も遠いと思われる場所であり、別の国に出る可能性の高い場所だった。
だが……大きな問題が。鬱蒼と森が広がっており、見通しが悪い。何かが待ち伏せするにはうってつけの場所だろう。
森の入り口――馬車には折った枝などを張り付け見つからない様にして森の向こうを望遠鏡で覗き込む。
「静かに見えるけど」
横でエルが同じように目を細めて暗い森を眺めながら呟く。
「まぁ……居ても山賊ならホームグラウンドでしょ。仮に簡単に見つかるなら……相手として警戒する程じゃないのかも知れないけど……さてどうするかな……」
エルは喋りながらも小さな焚火で鉛を溶かしている。どうやらせっせと時間を見つけては弾丸を作っているようだ。私は望遠鏡を仕舞うと物陰に腰を下ろす。因みに望遠鏡は貴族の屋敷から貰って来て中に入っていた物だ。
手当たり次第に持ってきた物資だが、殆どは換金する用途しか見つけられなかった。宝石とか、よく分からない陶器など。
「危険だけど近づいてみるとか……でも罠とか見破る自信はないし……」
色々考えてみるけど、どれもリスクが大きい気がして中々踏み込めない。
散々悩んだけど……。
「よし。最後に見かけた村へ行ってみよう。あの森の事を聞けるかもしれない」
「ん。了解」
鉛玉づくりを止めて、銃を背負うエル。すっかり扱いに慣れたらしい。何度か小型の野生動物を狩っているのも見たし。
私とエルはこの数日間の旅で遠慮なく意見を言える様になって、良く喧嘩にはなったが同時に信頼も出来始めていると実感した。
「おおー」
興味深そうにエルが見回す。あの都市から出た事のないエルには珍しい風景なのかも知れない。
私は……まぁ田舎だなと言った感じだ。
外国風ではあるが、今まで出られずに居たルルミナス国首都の方が興味を引かれた。
見た感じ寒村といった感じでポツポツと住宅が並び、家の間には畑が広がっていた。しかし異世界らしく、村の外には簡素ながら柵が張り巡らされている。
どこに行っても村と言う狭いコミュニティでは関係が完結しやすい。つまりよそ者は目立つと言う事だ。
しかし村に入っても存外に敵意は感じない。視線は感じるものの、それは珍しいから、といった感じである。
村自体は三十分もあれば回れてしまえそうな規模だろう。
その中で気になった……と言うよりエルが気にせず入って行った建物。何かの店なのかと怪訝に思いつつ後に続く。エルの警戒心の無さにわき腹を小突くと
「あ……ゴメン。澄は字が読めないんだっけ……。ワタシも見るのは初めてだけど……ここ冒険者ギルドなんだ」
そう言われてもピンとこない。改めて室内を見回すと、大きなカウンターに疎らな丸テーブルがぽつぽつと並び、パッと見た感じは食堂の様な雰囲気だ。
カウンター向こうには中年の女性が暇そうに肘をついている。
エルが袖を引くので大人しく付いていくと、掲示板だろうか? 色々な紙が貼ってある場所に連れて来られる。
「早い話、賞金稼ぎだな。殆どは魔物退治だけど——ほかにも未開の地の探索とか人間の賞金首とかを倒して報酬を貰えるって訳だ」
その言葉に私たちの顔写真が乗ってないかとギョとするが、エルにはその事が頭にないのか熱心に張ってある紙を眺めている。
「ここに張ってあるのが依頼書。この国ってさ、他国の人間を信用しないからギルド支部が少ないんだけど……田舎に来るとあるみたいだな……。初めて見た」
私も丹念に自分の手配書がないかと確認したが、幸い大丈夫なようだ。
ほっと胸を撫で下ろしながら、エルの説明から冒険者とはつまり、荒事担当の何でも屋と言ったところだろうか。
エルが顔を近づけてくるとこっそり耳打ちする。
「ここならあの森の情報も知ってるかもしれない。それに金も稼げる。冒険者やってみようぜ?」
少し前のめりなエルにやりたいんだなっと理解しつつもエルの顔を手で押しのける。
「手続きとか大丈夫なの? 身分を証明するものなんて何もないわよ」
小声で返す。
今の所はカウンターに居る女性が私達に何か意識を向けることはないが……。食堂部分のテーブルには武器を下げた男達が居て……彼らが冒険者なのだろうか? けれどただの農民にも見える。
そういえば、ルルミナス国の戦場で相手側には鎧も武器も揃わない集団が居たが、冒険者が助っ人として呼ばれていたのかもしれない。
「大丈夫だって。聞いた話では特に何か必要な物はないっていうし。冒険者ってさ、色々な場所を冒険したりして……少し憧れてたんだよ」
憧れるのは結構だが、私達の立場も考えてほしい。
(本当に簡単に出来るのなら私たちの身分をある程度証明する物にもなるはず……。なら作る価値はあるか?)
しかし私自身、いい案が思い浮かばず渋りつつもエルに引っ張られる様にカウンターの女性へ話しかける事になってしまう。
「なぁなぁ、冒険者になりたいんだけど!」
私達が近寄っても受付の中年女性は少し視線を向けただけで、興味なさそうに手元の書類を差し出す。
「言っとくけど……死んでも自己責任だよ」
それだけを言うと再びカウンターに肘をついて暇そうにあくびをした。
エルと顔を見合わせる。
「何を書けばいいの?」
「ん……名前と歳ぐらい」
私は簡単すぎる書類に肩透かしを食らう。この世界の字は書けないのでエルに書いてもらい、再び女性に差し出すとカードを返された。
「それじゃこれ」
二枚され出されたそれには何か書いてあり、エルが一枚を私に渡す。
「これが澄のだな」
「魔道具でアンタらの名前を刻んだギルドカードだからなくすんじゃないよ。失くしたら再発行には金が掛かるからね」
女性の声が届く。あまりの簡単さに本当に大丈夫なのかと思いつつカードを眺める。どうやら材質は石らしい。ポイントカードぐらいの大きさだ。
「これで依頼が受けられるのか?」
「あぁ。最低ランクのストーンだ。依頼は掲示板から石ランクのもんを選ぶんだね。別に上のランクを選んでもいいけど……そんなイキった奴は帰ってこないよ」
ヒヒヒと何がおかしいのか笑う中年女性。
特に上のランクを受ける事に制限はないらしい。
改めて掲示板を見るが……字が読めないのでよくわらかない。のでエルに視線を送ると眉根を寄せていた。
「どんな依頼があるの?」
「ン―……。ストーンは人探しとか猫探し、下水のスライム退治とか……」
つまり碌な物はない、と。
「あ」
言葉と共に依頼書を取るエル。
私に渡されるが字が読めないので首を傾げるしかない。
「近くの森で盗賊出現。討伐依頼――てさ」
思わず顔を覆う。
「やっぱり……あのまま行かなくてよかった。でもこうして依頼が出てるって事は、対処出来てないから依頼が残ってるって事よね」
どうやら盗賊退治をしなくてはいけないようで、ため息を吐く。
「避けて通れないのね……。まず情報収集かな」
「おう!」
エルはやる気だが私はうんざりするしかないのだった。
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次回も明日【19:20】に更新予定です。
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