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鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~  作者: 鳳翔雨月


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16話 混乱と混乱と混乱(2)

お読みいただきありがとうございます!


「はぁぁっ!」

 スラムエリアは文字通りの大混乱だった。マフィアに所属していない者も雇われたのか遅い掛かってくる。

 大通りを走り通り抜けながら無限とも思える程に人が湧き出てきて粗末な武器を振りかざす。のを避ける、適当に無力化するかして、とにかく上を目指して走り抜けていく。

 一般エリアでは各所で悲鳴が上がり、市民が逃げ惑っていくが、気にしてらない。異邦人たちもこの世界で鍛えられざる得なかったのだろう、荒事に慣れているマフィアが相手でもなんとか戦えているようだ。

「居たぞ!」

(多い!)

 ハンマーを持つ手に力を籠める。踏ん張りどころだ。

 一体どこにこんなに人が居たのかと思われる程、人が出てくる。空気の抜けるような荒い息が自分自身の中から聞こえるが無視して足を動かす。

(だいぶマシになったけど、まだまだ体力不足だわ!)

 そしてついに見えてくる、貴族エリアへの門。

 何度も偵察に着ていたから分かるが、終始眠たげでやる気のない衛兵たちが驚きの表情と共に慌てふためきながら、槍を構えるのが見える。今更もう遅い。

 後ろを振り返れば、事態は更に混乱を極めている。

 私の言葉の効果だろうか、異邦人たちも貴族エリアを目指している。その後を追うマフィアやチンピラ。ただ逃げる為に上の区画へ逃げる一般市民。

「と、止まれ! くそっ! なんだよ!? 何が起きたんだ!?」

 事態が飲み込めないままの衛兵が制止の声を上げるが無視する。

「止めろっ!!!」

 狙いは腹部か、低い位置に来た槍をジャンプで避け、穂先を踏みつけ――そのまま踏み込んでハンマーを横薙ぎに振り払う。

 反射的に腕で防ぐ衛兵だが、メキャッと言う音と共に衛兵の腕がハンマーを起点に曲がらない方向へ曲がってしまう。

 この世界では聞きなれた悲鳴を無視して……貴族エリアに足を踏み入れた。

 そこは……綺麗に整備された道や豪華な屋敷が並ぶ街並みについ一瞬見入ってしまう。その時、屋敷から出て来たある男と目が合った。池内である。

(ナイスタイミング!)

 当人は驚いた表情をしていたが、こちらは探す手間が省けた。

 普段は閑静であろう貴族エリアも今大騒ぎで、混迷を極めていた。異邦人は衛兵を攻撃しているみたいだが、マフィアは衛兵からも異邦人からも攻撃され、浮足だっている。

「おい! なんだよ、これ!」

 私は焦ったように池内に近寄り、息を整えつつ

「どうやら、マフィアの襲撃が早まったみたい。それに私の他にも大勢異邦人が仲間になっていたみたいようで……この混乱よ……。ねぇ、貴方の雇い主に会わせてくれない? この騒動の首謀者であるマフィアのボスの居場所を知ってるの」

 私の言葉に僅かに眉を動かした。

(恐らくこの屋敷なんでしょうけど……ここは慎重を期して)

「……わかった」

 顎で示し、屋敷の中へ入る。後ろを振り返り、眼鏡を外してレンズを袖で拭い付け直す。外ではしっかりと鎧を着込んだ兵士が現れ対処に当たり始めた。衛兵よりも豪華な装備は恐らく騎士だろう。軍人相手では異邦人でも分が悪い。

 私は早足で池内の後に付いていった。中は目を見張る程豪華な作りだった。この屋敷の貴族がどの程度の地位なのかは分からないが、スラムの住民は言わずもがな、一般市民とも随分差があるように思える。

 外では未だに怒号や悲鳴、金属のぶつかり合う音が絶えず続いていた。池内に案内され、豪華な応接間に当されると、部屋の中で肥え太った男が暑くもないのに汗だくで落ち着きなくウロウロしていた。

「こ、この騒ぎは一体なんだ!? マフィア共の襲撃は数日後じゃなかったのか!! そ、それに! あれは異邦人ではないのか? なぜ、なぜこんなに大勢いる!?」

 部屋の中に視線を向ければ、数人全身鎧の騎士が控えている。

 なんとなくだけど、強い雰囲気があった。

「すんません……襲撃を早めたらしいです……」

 直ぐに池内は頭を下げる。

「この女が今回の首謀者の居場所を知っていますので、連れてきました」

 池内が横に避けると、太った男の視線が私に向き、嘗め回す様な視線を感じるが無視する。

「はい。……失礼ですけど、約束は守ってもらえるのでしょうか?」

 貴族は煩わしそうに頷くと

「ワシを誰だと思っている! デデル・グゥワイだぞ! あのグゥワイ家の当主だ! そんな事より、池内に聞いたが襲撃者はスラムのゴミ共のまとめ役とか?」

(名乗られても、知らないよ)

 内心呆れつつも、しおらしい態度を取っておく。

「今回の首謀者はスラムで一番のマフィア、グルイディファミリーのボス。グルイディ・カードです。この国のゴミを綺麗にしたとなれば、閣下の地位は更に盤石になるかと」

 耳障りの言い言葉を並べれば、目に見えて機嫌がよくなる貴族の男デデル。鼻の穴を大きくして興奮しているのが滑稽だ。

「た、確かにな。は、早よう言え」

 池内の反応はまだない。

(まだ……チャンスは一度しかない)

「テラスからなら見えると思います。指し示したいと思いますが……テラスに案内してもらっても?」

 貴族が大仰に頷くと執事らしい男が音もなく現れ、先頭を歩き始めた。その後に貴族と池内、私。更に離れた後ろから騎士が二人付いてくる。

 テラスに出ると執事は一礼すると姿を消した。それは騎士たちも同じ様で、左右に分かれて入って来たドアに控えた。

 傍に居るのは池内だけだ。

 テラスから見える貴族エリアはあちこちで戦闘が行われていた。異邦人だろう、制服を着た者たちは数人で騎士を相手にしている。マフィアが斬られ、血飛沫が上がる場面も見えた。逃げ出すマフィアやチンピラは後ろから衛兵に槍で突かれ処理されていく。事態は混乱から収まりつつあるとみるべきだ。

 私の中から早くと急かす声を黙らせるように意識してゆっくりとテラスから身を乗り出す。

 この屋敷は貴族エリアの入り口、あの門が全て目に収める事ができる。その門の近くで明らかに武装の違うマフィアに守られた男がいた。

「あれです!」

 指を指す。デデルと池内が身を乗り出し、男を見つけたようだ。恐らくあれがスラムの一番の有力者、グルイディ・カードだ。

 デデルは目配せを執事にすると、騎士と共に元来た廊下を戻っていく。カードを捕らえるか、殺す為に向かったのだろう。

 私はデデルに右手を掲げてみせる。

「約束は果たしたわ……解除して」

 しかし……デデルは大きく張り出した自身の腹を撫でつつ不愉快な困った顔を見せる。

 池内がニヤニヤとプリン頭を掻きながら見下した表情でこちらに視線を寄越し、再びデデルとニヤニヤと笑う。

「悪いなぁ……あの広場で騙されなくってもここでダメなんてなぁ……」

 身構えた。

「どうゆう……こと?」

「うむ……まぁ……お前より、この男の方が信頼があると言うことだろう。今後使えるかも分からない道具より、使い慣れた方の道具が多少はマシと言う事だ」

 動揺を抑える様に眼鏡の位置を直す。

 デデルが懐から手の平サイズの水晶を取り出した。

「っ!」

「ほぉ? 分かるか? これがお前たち、異邦人が持っておる魔道具の操る事できるマスター魔道具だ」

 止めようと手を伸ばす。けれど――

「悪いな? コイツを外さなくたって俺は満足なんだよ」

 飼い犬に甘んじた男は憐れむ様な顔で後ろに下がる。

「ではな」

 デデルが軽い調子で水晶を掲げると僅かに光を放つ水晶。連動するように私の右手の腕輪も淡く光――何もない筈の首元が熱く……熱されるような熱さに思わず首元へ手を伸ばす。

 そして……。

 鋭い破裂音が屋敷のテラスに響くのだった。


 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回も明日【19:20】に更新予定です。


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