15話 混乱と混乱と混乱(1)
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「話に乗るそうだ」
数日後、池内は平坦な声で結果を伝えてきた。
スラムの奥まった酒場が池内の指定した場所だ。濃い酒の匂いがする店内は年数を感じさせる痛みが各所にあるが清掃が行き届いている。更に全ての席が個室で話をするにはうってつけの場所だった。その一室で私は声を潜めつつも嬉しそうな顔を作っておく。
「よかった!」
手を合わせて話を続けようとしたところを手で制される。
「その前に、詳細を話してからだ。アンタの話は大雑把過ぎる」
「あぁ! そうね、そうだったわね。早く自由になりたくて焦ってたの」
池内の顔色を観察しつつ、話を進める。貴族の名前、マフィアたちの構成、襲撃時間。
貴族の名前は本当――少し調べれば、実在する貴族かぐらいはすぐにわかった――だしマフィアもスラムで一番大きな、実在する組織の名前を使ってある。だけど襲撃日時は完全に適当。
「襲撃の方法だけど……裏で他国から魔道具を仕入れたみたい。貴方も知ってるでしょう? この国に無理やり連れていかれた戦場で爆弾みたいに爆発する魔法を。あれで貴族エリアを吹き飛ばす算段らしいわ」
これは少し本当。
私の話を真剣に聞く池内。意外と真面目な性格なのかもしれない。もしくは、右手の魔道具を外す事は池内にとっても真剣になる事柄なのかもしれない。
話が終わると早々に席を立つ池内。
「話を貴族に伝えてくる」
「わかった。私はどうすれば?」
一瞬考える素振りを見せたが
「指示を待て」
言いたい事だけ言ってこちらの事など目もくれずに店を出ていった。私は少し呆れながらもメニューを手に取り……文字が読めずにため息を吐くのだった。
仕方なく、他の客が飲んでいた物を指さす。匂い的に紅茶だが……変な飲み物だったらどうしよう……。
無口らしい店主は無言でカップを持ってきた。
うん。色的にも匂い的にも紅茶である。
シュガーポットなどなく、角砂糖がカップ皿に二個……。
私は甘いのが好きなのだが……。仕方なく角砂糖二つで我慢した。意外だが紅茶自体の味は満足できるものだった。ダージリンかな?
一杯頼んで、なんとか客といえる立場になってから店を出た。
結構いい値段だ……。まぁ、このスラムエリアであのしっかりとした店であれば値段にも文句は言えない。
だが思わぬ出費なのは真実で内心肩を落としながら、歩く。
予め準備していたバックを路地の隅から回収して、異邦人たちが集まる広場に歩いていく。その際、わざと遠回りをしておく。私の姿を見かけた数人がこそこそと路地の奥へ消えていった。
最早見慣れた広場で、周囲に蹲る者達を流し見る。様々な学生服を着た男女は誰もが目に光がない。
なるべく大きく聞こえる様に意識しながら、広場の中心で声を上げた。
「ここで池内に騙された者たちは多いでしょう! 池内は実は私達を召喚した、この国の上流階級と繋がっている! 更に! 今日! 私たちを売る事で自分の魔道具を外して自由になろうとしている!」
結構広場に声が広がって、少し気恥ずかしさを覚える。もちろん、顔には出さないが。
誰もが怪訝な顔をしながら、池内の事を思い出したのか苦い顔をしている。
「上流階級……貴族はマフィアに私たちの始末を依頼したわ」
注目が集まったのを確認して今度は周囲を見回しながら、しっかりとはっきりとを意識して語り掛ける。
「ここで貴族を、この国を出ないと一生奴隷よ」
ひそひそと近くに居るものと話し始める異邦人たち。
「残念だけど……ゆっくり考える時間もないわ」
いい終わるのと同時にぐらいに私の足元に火の玉が高速で飛び、地面を焼く。土であるにも関わらず焦げ臭いのはかなりの温度だからだろう。
「う、うわぁぁぁ!?」
見れば広場のそこかしらからガラの悪い男たちが大勢現れる。
「ここで殺されるか、戦いってこの国から出るか……死にたくないなら、私に付いてきなさい!」
まだ人数が少ない場所に向かって全力で走り、勢いのまま飛び蹴り。男を下敷きにしながら、私に向かって槍が突き出されるのを身を捻って交わし、代わりにハンマーで男の頭を殴り飛ばす。
「ちくしょうっ! こんな世界で死にたくない! 俺は帰るんだ!」
私の後に誰かが続く。彼を皮切りに異邦人たちがマフィアに応戦を始める。ここには心が折れながらも、強制的に戦わされ生き残って来た者達だ。覚悟さえ決まれば対応は可能な筈……。
大きな混乱となった広場を後に、一気にこの国を駆け上がっていくのだった。
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次回も明日【19:20】に更新予定です。
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