13話 赤いフワフワは考える 続
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なるべく視線だけを動かす様に廊下を観察する。
何故か必要もないのに飾ってある壺。意味の分からない彫刻。子供に書かせたのかと疑いたくなる絵画。
ワタシは実際に成金を見た事がないけど、成金趣味とはこんな内装を言うのだろう、などと思いながらガタイのいい男の後を追う。ただ一切音のならないカーペットは素材がいいのだろうと納得した。
男と雑談する事もないので無言のまま歩く。とこれまた無駄に重厚な木製の扉の前でヤツは扉の横に無言で横によけ、そのまま石造の様に固まってしまった。
固まる前に顎を僅かにしゃくったので、入れと言う事だろう。
扉の前で少しだけ深呼吸。内心の緊張を表情に出さないように努めながら見た目通りの重さの扉をゆっくりと開いた――。
扉の中は煌びやかの一言だった。どの調度品も高価な物なのはワタシの様な人間でも分かった。
部屋の中は香油の匂いが漂い、高貴さを演出する。しかしあまりに大量に使っているのか、押し売りが強く感じられ、逆に品がない。
この屋敷の主、部屋の中央に派手としか表現できない男がゆったりとワイングラスを片手に足を組んでいた。
「これはこれは、雌狼じゃあないか。今日は我がグルイディファミリーに情報提供したいとか?」
「あぁ……。アンタらが最近頭を悩ませている異邦人の事だ」
「上々。座りたまえ」
芝居掛かった仕草と声音と共に両手を広げた後、対面のソファを勧められた。
グルイディファミリーのボス、グルイディ・カード。このスラムで最も大きく、古いマフィアだ。
グルイディは商人とのつながりはもちろん、貴族達にも繋がりがあると言われている。
一見この部屋にはカードだけだが、ワタシが入って来た部屋以外にはわんさか手下が居るだろう。
相手に舐められる事は下に見られる。けれど礼を失する態度ではマフィア共の無駄なプライドを傷つける事になるだろう。
表情は緊張を出さない様に。そして堂々とけれど相手に不快を与えない様にソファに腰を下ろした。
カードは自身の対面にワタシが座ると足を組みなおし再びワインを煽る。
「それで? 今までどこにも属さず、上手くやってた雌狼がどんな風の吹き回しだ?。あぁ、誤解しないでくれ。私はお前を高くかってるんだぜ? このスラムでお前みたいなのが一人で生きてこれたってのは、その辺の脳が溶けたバカ共と違って少しは頭が使えるって事だからな。狼って言うのは獣のくせに気高いとか言われやがる。ま、私に言わせれば立ち回りが上手いんだな。良いあだ名じゃないか? 雌狼」
はははと愉快そうに笑う。
雌狼。よく言われるので別に怒ったりしない。もちろん目の前の男がワタシを馬鹿にしているのも分かっているが。
この男の挑発に付き合う必要はない。表情を動かさずに、対面に腰掛ける男を見た。
「ボス・グルイディ。アンタなら調べはついてるんだろう? アンタらが落とし前を付けさせようとしている異邦人の女がどこにいるのか」
探る様にカードを見る。フンと鼻を鳴らし、深く腰掛けると続きを促す様にワインを持った手を小さく振った。
「あの女と一緒に居るのは色々事情があるが、アンタらはそんな事に興味はない筈だ。省かせてもらうぜ。大事なのはワタシもそろそろあのイカれた女とは付き合いきれなくなってきたって事だ」
膝に肘をついて口の前で組む。
(……嘘じゃない。あいつの計画を聞かされた時は、本気で頭が狂っていると思った。だから……ワタシも地べたを這いずり回るだけのケモノから……)
「それに狼を気取るのもな。情報提供の報酬としてアンタらのファミリーに入れてほしい」
暫く黙っていたカードだが、直ぐにワインを一気に煽ると品のない笑い声をあげた。
「ははははは。なるほどな。いいだろう。お前は見た目もいい。歓迎してやろう」
ホッと少しだけ気を抜く。
「あの女は近々、異邦人を集めて、貴族を襲撃するらしい。奴らを縛る首輪――貴族が持つ魔道具の破壊が目的だ」
あの黒髪の女を思い浮かべる。
しかしその姿を頭を振って消し去る。ワタシも上手くやるしかないのだ。
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