12話 無法の労働(2)
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どんな人でも物事には慣れが必要だと私は思う。
まぁ、初めから上手くやる人もいるが、それは天才と言われる人である。残念ながら私には戦う才能はたいしてないようだ。しかしスラムでマフィアやチンピラ相手に戦いの腕を磨く目論見は一応成功した。
初めは小さく震えていた足の震えも止まり、荒事に慣れて来た自覚がある。
そこまではとても長かったが……。
やはり物語の英雄の様にはいかないらしい。私にはこの世界に来た特典とも言うべき、身体能力の向上がある――たぶんだけど――がそれでもチンピラ一人でもいっぱいいっぱいだった。
反撃されて、殴られる事も多いし……。
一人の戦闘力を養う為にエルマとは別行動をしている。
夜戻るとエルマは呆れながら、手当てをしてくれた。未だに完全に信頼されている訳ではないが、一緒の部屋という状況は少なくとも情が湧くものだろう。……それは私も同じなのだが。
経験で学んだコツはなるべく多くを相手にしない様に立ちまわること。三人も出てくれば逃げた方がいい。というより逃げる。
しかし相手も思考しない訳じゃない。マフィアは組織であり私の事が周知されたのだろう、暫くすると狙われにくい様に徒党を組むようになる。
(昔やったゲームみたいに、こちらのレベルが上がれば自然とゲームの難易度は上がっていく、か……)
この世界には魔法薬があるので、顔の腫れや体の痣ぐらいならすぐに完治するのはとても助かった。エルマの手当てではな間に合わない怪我は魔法薬だよりになる。実は私が買っていた魔法薬は低級ポーションと呼ばれるらしく、これよりもっと凄い物があると知って驚いたものだ。因みに上位の魔法薬は一般エリアにしかなく、一度見に行ったが高価で費用対効果がよくなかった。
チンピラもマフィアも丸腰という事はなくて、何かしらの武器を持っているし現金もある。それらを戦利品として頂戴して売るとそこそこの値段になり、この国に召集されて無理やり戦わせられるより稼ぐ事が出来た。
国に強制的に招集されて、払われる値段は変わらず300Gでありこの国に居る理由がないと改めて強く感じた。
「待てゴラァ!」
「殺してやらぁぁ!」
10人以上……が後ろから追いかけてくる。私もスラム界隈で有名になり、最近は相手の方から目を付けられる事が多くなった。
馬鹿正直に待つ必要はない。体を反転させて逃げる。
大人数が相手でも飛び道具を持ってない限りは相手をするのは眼前の3人程度になる。まぁ、周囲に更に3人で左右、後ろなので合計12人になるが……。わざわざ囲まれるまで待つ必要はない。それに逃げると男達の足の速さでばらつきが出てくる。
私は角を曲がると、積んであって荷物に身を隠す……と追って来た先頭の人間の足元を狙ってハンマーを横薙ぎに振るう。最早慣れた骨の折れる音と感触と共に男の汚い悲鳴が上がる。
その感触は慣れて来ても、やはりどこか癖になるものだった。しかし恍惚としている訳にもいかない。
「…………」
直ぐに移動。戦場で得た経験はジッとしていない事である。壁を蹴って屋根の淵に手を掛け、身体を持ち上げると屋根に伏せた。
「くそっ、おい! 大丈夫か!?」
「あぁぁ、クソ! いてぇ! 助けてくれぇぇ!」
「あのアマ、どこに行った!!」
手当をしていて、下を向いている男目掛けて飛び降り、ハンマーで肩を狙って振り下ろす。
「うぎぁぁぁぁ!?」
着地と同時に慌てて振り向きかけた男に蹴りを入れる。片足を軸にしっかりと力を入れて蹴り飛ばす!
「ぐはっ!」
慌てて剣を抜こうとした男のわき腹へハンマーを横薙ぎに。
「っっ!?」
血を吐き、倒れ込む男と同時に走り出す。
頭に入れた地理を思い浮かべ、袋小路に入らないように街を上へ。
最早見慣れた貴族エリアの門が見えてくる頃には怒号も聞こえなくなっている。後ろを振り向くも、平穏な町の様子が広がっていく。何故、奴らが諦めるのか……それは街の上に行くと憲兵が多くなっていくからだ。
「はぁはぁ……はぁ……」
大きく息を吸い、胸に手を当て息を整える。
「ほら。……日に日に動きが洗練されていくな。足も速くなってるし」
通りからひょっこりと姿を現したエルマが水の入った水筒を投げて渡すのを受け取ると、一気に煽る。
「まぁね。努力の結果かしら。それより回収した?」
エルマは頷くと持っていた袋を広げて見せる。中には現金に武器などが入っていた。私は額に浮いた汗を拭うと目立たない路地に荷物の一つに腰を下ろした。
最近は回収に手が回らないので、エルマには戦闘不能にした連中から戦果を回収してもらっていた。
「それじゃあ、いつもみたいに換金しておいて」
「あぁ……」
「何? 不満そうだけど」
近くに立ったエルマは難しい表情で腕を組んでいる。
「最近やり過ぎだぞ。……奴らも本気になってくる。貴族や商会と繋がってる奴もいるし……そろそろ潮時じゃないのか?」
「ふふ……心配してくれるの?」
私が隣に立っているエルマを見上げながら、微笑むと舌打ちと共に顔を反らされる。
「ちげぇよバカ。変なとばっちりを受けたくないだけだ」
彼女の深紅の髪とは比べ物にならないが、僅かに赤くなった耳を見て自然と笑みが零れた。
「えぇ。そうね。でも……それが狙いよ」
「はぁ?」
私の言葉に瞬きと共に間の抜けた声を上げるエルマに再び笑みがこみ上げてくる。
(さて……ここからは正念場。私がこの世界で生きていけるのか……それとも……)
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次回も明日【19:20】に更新予定です。
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