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鉄槌の優等生~勉強だけの人生だった彼女は自由に生きる事を決意する~  作者: 鳳翔雨月


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10話 異世界観光

お読みいただきありがとうございます!


「私にいい考えがある」

 私は起き抜けのエルマにそう言った。

「…………ダメそうに聞こえる」

「私もこのセリフはダメそうに聞こえるけど、これからの指針は決めてあるのは本当よ」

「ところで何やってるんだ?」

 ベッドに腰掛けたまま怪訝な顔で頬杖を突きながらこちらに視線を向けられる。私は彼女より早く起き、身体を動かしていた。習性とは怖いもので、時計もないのにいつも通り起床する事できた。けれどこの世界では今まで通りの勉強しても意味がない。さてどうしようかと考えていた所に閃いたのだ。

 スポーツや武術には体の柔らかさが重要だと聞いたことがある。体が硬ければ怪我にも繋がるし、動きが制限されるからだ。

 私はおもいっきり体が硬い。これから荒事も増えるので体づくりも大切になる筈だ。という事で思い出せる限りのラジオ体操で体をほぐす。

 案外これが真面目にやるとキツイ。そうこうしている内にエルマが起きてきたと言う訳だ。

「ラジオ体操。少しでも体を解そうと思ってね」

「ふーん」

 うん。まるで興味がないの分かった。

「それで方針ってのは?」

 エルマの言葉に答えようとして薄っすらと額に浮き出た汗を拭いながらフッと気が付く。

「それは昨日の――ねぇ、この世界って……お風呂ある?」

 制服の胸元を開けパタパタと空気を送る。

 (大丈夫……の筈)

 そもそもこの世界にお風呂の文化があるかどうか……。

(まぁ、人の不快感を気にしてる場合じゃないか……)

「いくか? あ、先に言っておく。異邦人は湯船に浸かるのが好きらしいが、そんな贅沢なもんじゃないぞ」



 エルマに連れて来られたのは割と大きめの建物。

 中は男女に別れており、その先にプールのシャワー室の様な、というよりそのものな光景が広がっていた。

 小さな個室でシャワーの水が頭から浴びる。意外にも普通に温かい。最初は冷水かもしれないと身構えたが杞憂だったようだ。因みに値段は30G。体を洗い、さっぱりして併設されたコインランドリーで制服を洗濯する。

 シャワーもコインランドリーも電気の代わりに魔道具で動いているらしい。

「元々は異邦人が知識を出して、考えられた魔道具だな」

 見た目はドラム洗濯機にしか見えない。

 私はエルマの服を借りて、洗濯が終わるのを待つ。

 そのあいだ暇なので水分を含んでさらにフワフワになったエルマの赤い髪を櫛で梳かす。エルマは少し身構えたが大人しくされるがままだった。

「さっきの話。今後の方針だけど……まずは戦いに慣れるべきかなって」

「荒事はある程度慣れないと体が上手く動かないし、視野も狭くなるから――いいと思うヨ」

 エルマと初めて戦った際は殆ど奇襲で押し切った。というより異世界では初手の奇襲で全て押し切っている。

 血のように真っ赤な髪を手に絡めるととても細く柔らかい。綺麗な天然のウェーブで私の髪質とは正反対である。私の髪は太く真っ直ぐで、普段から三つ編みが多いのだが解けばすぐに跡が付く事なく戻ってしまう。

 少しだけだが、なぜ私は彼女の事が気になるのだろうと疑問に思っていた。それはエルマがこのスラムに置いても努力できる人間だからだろうか……。

 思考の深みに嵌ろうとしていた自分自身を僅かに頭を左右に振る事で現実に引き戻す。今は色々考えるより、首枷とも言えるこのブレスレット型の魔道具を外す事に全力を尽くす。

 折角、別の世界に来たのだ。自由になってみたい。

 エルマの髪を梳き終える頃には洗濯も終わっていた。

「ドーモ」

 普段よりぶっきらぼうな物言いだが、少し頬が赤くなったエルマを見て私はとても満足した。

 エルマの部屋に一旦戻って洗濯物を干し、街を歩く。

 あの男子三人組が言っていた通り、古いヨーロッパの街並みに似ている。

 エルマと共に歩いているとスラムの淀んだ空気と匂いが段々と薄くなっていく。雰囲気が変わってきたのが私にも分かった。

「こっから、一般エリア」

 道行く人も小奇麗で、なるほど一般市民と言う言葉が当てはまる。エルマは憮然とした態度だが、この一般エリアと言われる場所に思うところがあるのだろうか。

 無理やり聞き出す事でもないので、黙って歩く。

 石造りの建物は情緒があり、見ていて飽きない。多種多様な看板らしき物が出ているので基本はお店なのだろう。

 私が看板を見ていたのを察してくれたのか、指を指しながら解説してくれる。

「あっちは武器屋。食料品店に薬品、衣服。素材屋」

「素材屋?」

 聞きなれないお店に首を傾げた。

「魔物の狩人が魔物からはぎ取った牙とか皮とか……利用できそうな物を買い取るんだよ」

 確か……冒険者――男子三人組の話の中にあった気がする――が元の世界でのそれに近いようだ。

 緩い坂道を上へ上っていく。上に行くほど建物は大きく、立派になっていく。店自体も高価な物を売っている――いわゆる高級店的な気配がする。

 そのことをエルマに伝えると少し驚き、頷いた。

「よくわかるな。この辺から商会の店を何軒も持ってる商人たちの店だな」

 歩く人間達もどこなく身なりがいい。

 坂の一番上。その先には城が見える。私が召喚され、出てきた城であり、その後は下のスラムの広場に集められたので、このルルミナス国は城が一番高い場所に建っているようだ。

 確かに防衛などでは高い位置の方が守り易い……と言うような話も聞いたことがある。

「異邦人は城の召喚陣でしか召喚できないらしいからな」

 私が城の事を話すとエルマが思い出そうとするように頭を捻りながら答えた。

 エルマに看板の見かたを教えてもらいながら、歩いていると市壁にたどり着く。重厚そうな門は開いたままだが、衛兵が数人がしっかりと門の前に立っていた。

「この先が貴族エリア。まぁ、見れば分かるよな」

 顎を指すエルマ。その分かるよな、の意味には二つあるのだと直ぐに理解した。

 一つ目はそのまま。門の向こうに見える大きなお屋敷などから分かる裕福な人が住んでいる事。

 そして二つ目はどう見ても私たちに友好的でない衛兵たちの目。つまり私達のような人間を通さないと言う事。その証拠に詰め所から数人、衛兵が出て来ている。

 気にはなるが、無理に押し通る必要性もないので大人しく門から離れると当番以外の衛兵が詰め所に戻っていった。

「入るには何か条件があるの?」

 いつまでも門の近くに居ると何か言われそうだったの来た道を戻りながら聞いてみる。

「詳しくは知らないけど……。ただそんなに厳しい訳じゃない……らしい。商人とかは比較的簡単に入れるみたいだな。本当に厳しいのは城の近くで、公爵家とかある貴族エリアでも最奥からは騎士達も巡回してるらしい」

 行ったことないけど、とエルマは肩を竦めた。

「まぁ、今は用事がないし、別にいいや」

 貴族エリアよりも大事な店に行きたかったのだ。

「魔道具のお店はどこなの?」

 私の質問に苦い顔をするエルマ。

「あぁ……。こっちだ」

 その店は直ぐ近くにあり、一目で他の店舗とは違っていた。

 大きな店舗ではない店の前にガードマンが四人。この規模の店舗には不釣り合いなぐらい恐ろしく警備が厳重だった。先ほどの市門のようにエルマと遠目に店を見ながら、

「スラム出身のワタシと異邦人のお前じゃあ、店に入れてくれない筈だ」

 その声には僅かな悔しさが滲んている気がしたが、直ぐに平坦な表情に戻った。

「店に入ろうとした事があるような口ぶりね」

「……魔道具が見たくて。買えなくても現物を見て置けば、作れるかも知れないだろ……。でも入れてもくれなかったよ」

 こちらを見ずにじっと店を見つめたまま、感情の見えない表情で淡々と話すエルマ。

 ごく一部の人間にしか知られていに魔道具の作成方法だが、エルマはその技術を得る事で現状を変えようと考えていたのだろう。

 店舗にはショーケースがあったので、エルマを置いて店へ近づくと――皮鎧と言うのだろうか?――動きやすさを重視した防具を身に着け、腰に剣を差した男の視線が私に向くのがわかった。

 購入するお金はないが、見るだけならただである。

 ショーケースの前の来るとガラスはかなり厚いものなのだろうか、向こう側が少し歪んで見えた。それにいつのまにか男二人が私の両隣へ移動していて、明らかに警戒されている。けれどこちらもやましい事がある訳じゃないので無視してショーケースの中を凝視する。魔道具の形は様々で水晶だったり、私のしているブレスレットだったり、ネットクレスだったり。プレートに何か書いてあるのだが、私はこの世界の文字が分からないのでどうしょうもない。恐らく使える魔法だろうか。

 しかし値段は分かる。50万G。

(たか……)

 エルマが言う、普通の人に買える値段ではないという事が理解できた。通りの向こうの路地でしゃがみこんだエルマはなるほど不良らしい絵ずらだった。

(私の人生では関わり合いのない人種だったわね……。でも悪くないと思い始めてる……。不思議だわ)

 戻った私に諦めの声と共に迎えられる。

「言っとくけど、あの魔道具は戦いとか全然役にたたねぇから。火種にしかならないぐらいの火の魔法が込められたヤツだったり、ちょっと水を凍らせる魔法だったり……生活が楽になる程度のやつしかないのに……あの値段なんだよ……。戦闘用は貴族エリアに売ってるらしいけど……身分の証明がいるらしいからなぁ……」

 何の感情も感じない声で呟くエルマ。

 しかし私が文字を読めないこと、この国から出る為の方法を探している事を的確に予想した答えだった。

 現状が思ったより問題だらけで思わずため息が出た。それはエルマも同様のようで同じように小さくため息を吐いていた。

 嘆いていても埒があかない。

 次だ。

 しゃがみ込んだままのエルマのわき腹へ靴を脱いで軽く蹴る。

 鬱陶しそうに私を見上げたが特に何か言われる事はなかった。

「次は武器屋に行ってみたいんだけど」

「はいはい、武器屋ね」

 エルマは立ち上がり、やる気のなさそうな足取りで歩き始めたので並んで歩きながら、私は異邦の街を眺めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回も明日【19:20】に更新予定です。


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