第6話 秘密基地
秘密基地を手に入れて、数週間が経った。
基地の前で、リサとゲルトたちが焚き火を囲んでいる。
今日リサが仕留めたホーンラビットをじっくりと炙っていた。
マークが生活魔法で起こした火が、肉をいい色に焼き上げていく。
僕はその光景を横目に、ホーンラビットの魔石を手に取る。
――なにか面白いことができないか。
手の中の魔石を眺めながら思考をまとめる。
まずは、『ヒール』を込めてみた。
魔石が淡く光を帯び、そのまま仄かに光っている。
指先を噛み、血を滲ませる。
魔石を握ったまま、そっと魔力を流すと、指先の傷がすっと癒えた。
魔石は光を失い、元の姿に戻っていた。
――面白い。
今度は『リザレクション』を込めてみる。
しかし、先ほどとは違い、魔力がうまく入っていかない。
少し強めに魔力を流すと、魔石はそのまま砕け散った。
なるほど。魔石の格によって、込められる魔法が違いそうだな。
それに、魔法を込めるコツをつかめば、もう少し上手くやれそうだ。
最後に自分のステータスを確認する。
【名 前】ノア
【位 階】Ⅰ
【魔 力】A
【スキル】鑑定 生命魔法 魔力制御 魔法付与
【魔 法】ヒール キュア エンハンス ライフスティール リザレクション
——魔法付与か。
なかなか、研究しがいがありそうだ。
そこへ、香ばし匂いがふわりと漂ってきた。
「ノア、焼けたぞ」
ゲルトが、焼き上がったホーンラビットのももを差し出す。
「ありがとう」
受け取って、そのままかぶりつく。
口の中に素朴な味がじんわりと広がった。
「でも、リサが仲間になってくれて、本当によかった」
ゲルトはしみじみと言った。
「こんなに美味いものが食べられるなんて」
リサは少し照れくさそうに笑う。
「ホーンラビットの居場所はノアが教えてくれたんだよ」
そう言いながらリサがこちらを見上げてくる。
僕は何も言わず、頭を撫でてやった。
リサは満足そうに微笑む。
実際のところ、ホーンラビットを見つけるのは簡単だった。
薄く伸ばした魔力を、レーダーみたいに回転させる。
すると、それに触れた魔物が向こうから勝手にやってくるのだ。
——もしかすると、魔物には、人の魔力に引き寄せられる性質があるのかもしれない。
「そういえば、今度この村にも神官が巡回に来るんだって」
ゲルトがぽつりと言う。
「知ってる。村人の健康を見てくれるんでしょ」
トムが答えた。
「それだけじゃない。才能のある子を探してるらしいよ」
ゲルトが軽く息を吐くように言った。
「リサとか?」
マークが冗談めかして聞く。
リサが不安そうにこちらを見る。
「教会が探してるのは、光魔法の才能を持った子らしいよ」
僕がそう答えると、リサは小さな息をつき、ほっとした表情を浮かべた。
「よかった。ノアと離れるのはイヤだもん」
リサがそう言うのを聞きながら、僕は少し違うことを考えていた。
この小さな村で見聞きできることは、もうほとんどない。
両親には申し訳ないが、この歳で村を出るには、教会に見出されるのがいい手かもしれない。
「それより、神官が来るってことは護衛もくるよな。冒険者の!」
トムが目を輝かせる。
「俺にも剣のアドバイス、してもらえたりして」
そう言って、トムは近くの枝を無造作に振り回した。
「冒険者になっても、この村に帰ってこいよ」
ゲルトは力を込めて言った。
「俺が村長になったら、もっとすげぇ村にしてやるからよ」
「おお、さすがゲルト!そのときは、俺もすごい冒険者になって、村のために役立つぜ!」
トムが嬉しそうに言った。
「冒険者ってなに?」
リサが首を傾げる。
「おっ、リサも気になるんだな!」
トムは得意げに話し始める。
「冒険者ってのは、簡単に言うと、魔物を倒したり、危険な場所に行って宝物を探したりする仕事だよ。依頼を受けて、その報酬をもらうんだ」
リサは少し考えた後、素直に口を開いた。
「魔物を倒すの?ホーンラビットみたいな?」
トムは力強く頷く。
「うん。だけど、ホーンラビットなんてまだまた弱い魔物だよ。冒険者になったらどんどん強くなって強敵と戦うんだ。強くなればどこでも自由に行けるしね!」
「自由に動けるんだ!」
リサは少し驚いた顔をして言った。
「それ、面白そう!」
トムはにこやかに続ける。
「だろう?そうやって強くなって、困ってる人を助けたり、いろんな冒険をしてみんなに名前を知られるのが冒険者さ」
「わぁ、いいなぁ。」
リサは少し考え込んだ後、思いついたように言った。
「リサも冒険者やる!」
トムは軽く笑って答える。
「大きくなったら、パーティーに入れてやるよ」
「うん!その時はノアも一緒にやろうよ!」
「そうだな。それもいいかもな」
「約束だよ」
リサは無邪気に笑った。
冒険者か。
そうやって自由気ままに暮らすのも悪くはないかもな。
でも――
村を出るにはもっと手っ取り早い方法がある。
神官が来る。
光魔法の才能を探しに。
僕の魔法を見せれば、間違いなく教会に連れていかれるだろう。
問題は――
どうやって見せるかだ。




