第115話 四人だけの戦い
――天逆塔五十九層。
神殿を思わせる、規則正しく並ぶ石柱と光の届かない高い天井。
その荘厳な空間の中央で、二つのパーティーが対峙していた。
一方はライル達、誓いの天秤。
もう一方は彼らと寸分違わぬ写し身。
「――『アイスウォール』」
エレナの詠唱とともに、床一面へ白い冷気が奔る。瞬く間に氷壁が立ち上がり、前衛の視界と動線を分断した。
写し身のエレナもまた同じ呪文を紡ぐ。
氷壁には氷壁で応じられ、空間は連鎖するように凍りついていく。
柱の間に張り巡らされた氷の障壁が視界を遮り、戦場は一瞬にして氷の迷宮へと変貌した。
カイが盾を構え行く手を阻む氷壁を次々と砕きながら突進する。
その先で写し身の盾と激突し、凄まじい衝撃が空気を震わせた。
その頭上を飛び越え、ライルとその写し身が交錯する。
写し身のバスタードソードが、大上段から容赦なく振り下ろされた。
ライルは躱さない。
逆に一歩踏み込み、バスタードソードが左肩を捉える。
それでもライルの足は止まらない。
勢いを殺さぬまま剣をレイピアへと変形させる。
至近距離から繰り出された刺突が写し身の胸を貫いた。
リサと写し身が同時に放った投げ斧が空中で激突し、甲高い音とともに火花を散らす。
互いに一歩も引かない。
リサは左右の投げ斧を間髪入れず放つ。
二本の斧は唸りを上げて飛ぶが、写し身も同時に投げ斧を放ち、四本の刃が空中で激突した。
砕けた半透明の斧は淡い光となって消える。
次の瞬間には、互いの腰のホルダーへ新たな投げ斧が収まっていた。
「じゃんじゃんいくよー」
弾切れを気にする必要はない。
右、左、さらに右。
投げる。
投げる。
投げる。
絶え間なく放たれる斧が柱を掠め、床を跳ね、あらゆる角度から写し身へ襲いかかる。
写し身もまた同じ軌道で投げ返す。
幾筋もの斧が交差し、金属音が途切れることなく響き渡った。
次にお互いが狙ったのはエレナだった。
リサの右手から放たれた投げ斧が一直線に写し身のエレナへと迫る。
同時に写し身もまた、同じ狙いで斧を投じていた。
二つの投擲は交差することなくエレナへと殺到する。
次の一投で判断が分かれた。
回復手段を持つかどうか。
その差が選択を変える。
写し身の投げた斧はエレナへと迫っていたリサの一投を正確に弾き落とした。
同時にリサの放った斧が、写し身の首を深々と切り裂いた。
エレナは斧に左手を切り飛ばされながらも詠唱を止めない。
「――『アイスバインド』」
冷気が戦場を覆い尽くす。
盾をぶつけ合っていた写し身をカイもろとも巻き込み、氷が連鎖するように広がっていく。抵抗する余地ごと封じ込める、広域の凍結。
生き残っているエレナの写し身は迫るライルへと絶え間なく氷弾を放っていた。
ライルは空中を蹴り、致命傷となる軌道だけを外しながら距離を詰める。
氷弾が体を貫き、空気ごと凍りつく中、それでも踏み込みは止まらない。
剣を振り上げた瞬間、刃は大剣へと変形する。
そのまま重力ごと叩き斬るように切り下ろした。
足元を凍らされ、動きを奪われたカイの写し身に八本の投げ斧が深々と突き立つ。
形を保てなくなったそれは、崩れてどろりと溶けた。
抜け落ちた半透明の斧が、地面に触れたそばから薄れて消えていった。
「俺たちだけで勝てたな」
ライルが『治癒の宝玉』に魔力を流しながら無邪気に笑う。
砕けた肩が、貫かれた腹が光に包まれて巻き戻るように修復されていく。
「こっちだけに回復手段があると、呆気ないわね」
エレナは拾い上げた左手を元の位置に接合しながら顔をしかめた。
「せっかく新調したのに、袖が切れちゃったわ」
「戦う用はもう諦めなよ。そのために普段着も買ったんだし!」
リサが悪びれもなく笑う。
「……替えの宝玉を頼む」
足を治したカイが、リサに手を差し出す。
「待ってて」
リサは背負子を降ろし、『治癒の宝玉』を人数分取り出すと、順に配っていった。
「よし、回復したらもう一戦行くぞ」
ライルを先頭に、四人はダンジョンの奥に向かって歩き出した。




