第114話 クラン会合
錬成を終えて、クランハウスに戻ると待ち構えていたウィスカーに捕まった。
「ノア、クラン会合の日程が決まった。明日だ」
「わかりました」
そう答えてから四人に向き直る。
「というわけで、明日はダンジョンに潜れません」
「まあ、しょうがねえか。魔剣の性能試したかったけどよ」
ライルはそう言って視線を外した。
「ですので、明日は四人で潜ってください」
「え?ノア抜きで!?」
リサが思わず聞き返す。
「ええ、『治癒の宝玉』をいくつか渡すので、それでなんとかして下さい」
「……わかった。ノアにおんぶに抱っこじゃあ、いつまでたっても追いつけないもんな」
ライルがすぐに表情を引き締める。
「僕がいない方がかえって楽かもしれませんよ」
冗談めかして言うと、少しの間のあとエレナが言った。
「確かに。ノアの写し身がいないなら、なんとかなるかもしれないわね」
リサもうなずく。
「『治癒の宝玉』があるなら、なおさら安心だし!」
カイは無言のまま、親指を立てた。
パーティーとしては既に僕の意のままに動くようになった。
あとは、僕がいなくても自発的に動けるようになれば完璧だ。
翌朝。
四人を送り出すと、先に情報共有を済ませた銀鼠のローデントと会議室へ向かう。
赤鉄の楔、黄金獅子団、銀月の祈り、そして蒼天の冠の面々が次々と姿を現す。
「中々立派なクランハウスじゃねぇか」
黄金獅子団のバルガスが部屋を見回して言う。
分厚い石壁に囲まれた会議室には窓こそないものの、魔導灯の光が隅々まで行き渡り、室内を明るく照らしていた。
全員が長机を囲んで席に着くのを待ち、マロンがお茶を配って回った。
「急な招集にもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます」
マロンが退室するのを待って、僕は口を開いた。
「我々を呼び出したんだ。よっぽどのことなんだろうな」
蒼天の冠のレイモンドが、僕の真意を探るように目を細める。
「ええ。満月の日のことですが、不測の事態に陥り、六十層を攻略してしまいました」
「なっ……!お前ら四十層も突破してなかったはずだろ!?」
ディーンが驚きの声を上げた。
「不測の事態……ね。どのクランも六十層へ挑む予定はなかったとはいえ、一言くらい相談して欲しかったわ」
銀月の祈りのセレフィナが視線を鋭くする。
「そこは申し訳ありません。転移罠にかかって五十二層へ飛ばされてしまったんです。しかも日没が迫っていて……帰還するには、六十層のボスを倒して転移するしかありませんでした」
「まぁ、倒しちまったもんはしょうがねぇ。その状況じゃ、連絡を入れる暇もなかっただろうしな」
バルガスが豪快に笑う。
「俺たちが手をこまねいている間に、お前たちが攻略の先頭に立ったってだけだ」
セレフィナはこの件で貸しを作るつもりだったようだが、バルガスがうまく話を流してくれた。
このまま押し切れそうだ。
痛いところを突かれる前に、僕は畳みかける。
「それともう一つ。来月の五十層ボスは僕たちに譲ってもらえないでしょうか」
「は!?それは虫が良すぎるだろ。来月こそ俺たちが――」
ディーンの言葉を遮って、レイモンドが口を挟む。
「見返りは?」
「六十層ボスの情報でいかがでしょう」
「うちは構わねえぜ」
「それでいいわ」
バルガスとセレフィナが即座に賛同する。
「対価としては十分だな」
レイモンドの一言で、ディーンは不満げに口をつぐんだ。
これで、ウィスカー達も先に進ませることができる。
六十層も、ウィスカー達なら治癒の宝玉を使った戦法を容赦なく実行するだろう。
それまでに、ライル達の位階を上げておけば薄明の揺籃の地位は盤石になる。
僕は参加者を見回して、口を開いた。
「では、六十層ボスは予想の通り、写し身です。挑戦者全員が写し取られます」
レイモンドが視線で続きを促す。
「写し身の能力は本人と同じですが、連携が完璧でした。まるで意識を共有しているかのように、一糸乱れぬ連携で攻めてきます」
「厄介だな」
バルガスが腕を組んで唸る。
「それじゃあ――」
「正攻法ではよくて相討ちでしょうね」
僕はセレフィナの言葉を引き継いだ。
「やっぱり、ぼろぼろの状態を写し取らせて、『治癒の宝玉』で優位に立つしかないのか」
バルガスが頭をかく。
「戦闘中に負った傷を癒やして、形勢を覆すこともできます。でも、それでは結局傷を負うことになります。なら、最初からその状況を作った方が効率的です」
僕の言葉に、バルガスは考え込むように黙った。
「お前たちも、その戦法で突破したのか?」
レイモンドが問う。
「ええ。少しアレンジしましたが、本質は同じです」
「わかった。今月、六十層に挑むクランはあるか?」
レイモンドが一同を見回す。
バルガスもセレフィナも、まだ決めかねているようだった。
「いないのなら、我々が挑ませてもらおう」
レイモンドがそう宣言した。
「最後に、ローデントから共有したい情報があるそうです」
僕が話を振ると、ローデントはうなずいた。
「東のルドヴァール王国だが、王位継承は第二王子に決まった」
ローデントがそう切り出した。
「だが、その第二王子の後ろ盾にイルハーム精霊帝国がついたそうだ」
「エルフの帝国が……」
セレフィナが険しい表情を浮かべる。
「多民族を取り込みながら勢力を広げている帝国だ。ルドヴァールを橋頭堡として、この街へ侵攻してくる可能性も十分にある」
「厄介なことになりそうだな」
レイモンドが唸るように言った。
「戦争なんざ勝手にやらせておけばいいだろ。精霊教の国が攻めてくるなら教会も動くだろうし」
バルガスは気だるげに続ける。
「そうも言ってられないわ。ギルドの大金庫が奪われれば、私達の資産も全部パーよ」
セレフィナが冷ややかに言い捨てた。
いよいよ、きな臭くなってきたな。
一度、教会からも情報を吸い上げた方が良さそうだ。




