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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第103話 瓦礫の下の宝箱

 ——天逆塔三十五層。


 崩れた石柱と瓦礫が行く手を遮り、薄暗い空間には魔狼たちの気配が絶え間なく漂っている。


「さて、どんなお宝があるかな」


 ライルが楽しげに笑う。


「ちょっと、魔狼の数も増えてるんだからね。集中しなさいよ」


 呆れたようにエレナが釘を刺した。


 僕は『魔力走査』を広げ、周囲に漂う魔力の流れを探る。

 魔物の位置だけでなく、周囲の地形も一つひとつ確認していく。


「瓦礫が多くてわかりにくいですが……あっちに箱のような反応があります」


 魔狼の巡回を避けながら、僕たちは柱の影へと身を滑り込ませた。

 

「お、あれか!」


 柱と瓦礫の隙間に隠れるように置かれた木箱を見つけ、ライルが足早に駆け寄った。

 しかし、勢いよく蓋を開けた途端にその表情が曇った。


「何だ空か……」


「ちょっと、罠でもあったらどうするの。もっと慎重に開けなさいよ」


 エレナが呆れ半分、怒り半分の声を上げる。


「下層で見つかる魔道具は貴重ですからね。おそらく、先に来た他のパーティーが回収したのでしょう」


 そう答えながら、僕は周囲の警戒を続ける。

 魔力の端に新たな反応が飛び込んできた。


「……話は後です、来ます。三体です」


 カイが僕の視線の先に振り返り、盾を構えた。

 ライルは剣を抜きながらも、カイの半歩後ろに位置取る。


「いつも通りいくわよ」


 エレナが杖を構え、魔力を練り上げる。

 リサは腰の投斧を両手に持ち、周囲へ視線を巡らせた。


 僕が皆に『エンハンス』をかけると同時に、瓦礫の陰から黒い影が続々と躍り出る。


「――アイスバレット」


 放たれた氷礫が雨のように降り注ぎ、突っ込んできた分身を次々と砕く。


 氷弾をかいくぐった個体は、ライルの剣が一閃のもとに斬り伏せた。


「右の瓦礫の裏に一体。正面の柱の裏に二体です!」


 僕が本体の位置を告げる。

 その声と同時に、リサの投斧が弧を描いて右手の瓦礫の裏へ飛んだ。


 そしてカイが地を蹴る。


 巨体とは思えない踏み込みで柱へ突進し、盾を叩きつけた。

 轟音とともに石柱が根元からへし折れ、瓦礫を巻き込みながら崩壊した。


 本体を仕留めると、残っていた分身は霞のように掻き消えた。


「だいぶ慣れてきましたね」


「ああ。ノアとやり合った後じゃ、これくらい大したことねぇな」


 ライルが剣を鞘へ収める。


「『エンハンス』もすごいしね」


 リサが取り出した魔石を袋へ放り込みながらうなずいた。


「ノアの『魔力走査』があるから、お宝探しは楽勝だと思ってたんだけどな」


 ライルがつま先で木箱をつつく。中は空のままだ。


「ねえ、これ宝箱じゃない?」


 カイが崩した瓦礫の山の奥に装飾の施された箱の一部が覗いていた。


 リサが瓦礫を退けると、それまで見つけた質素な木箱とはまるで違う、豪奢な箱が姿を現した。


「おおー!まさに宝箱じゃん」


「待って。罠の確認が先よ」


 今にも飛び付きそうなライルをエレナが押さえる。


「蓋の裏に仕掛けがありますね。エレナ凍らせられますか?」


 僕は『魔力走査』で捉えた罠の位置を告げる。


「蓋の裏ね。やってみるわ」


 エレナは手をかざし、蓋の内側へ冷気を流し込んだ。薄く白い霜が広がり、内部の仕掛けごと凍りついていく。


「これで動かないはずよ」


 エレナが手を下ろした、その直後。


 ライルは箱を覗き込みながら、待ちきれないように手を伸ばす。


「もう、開けていいよな?」


 僕がうなずくと、そのまま勢いよく蓋を開けた。

 ふわっと冷たい風が漏れる。


 箱の中には一足の靴が収まっていた。

 銀糸で羽根模様のステッチが施されているだけの、なんの変哲もない革のブーツだ。


「……靴?」


 ライルが取り出した靴を手に取って眺める。


『鑑定』


【名 称】風渡りの短靴

【等 級】希少

【効 能】魔力を込めると空中を踏むことが出来る


「魔力を込めると、空中を歩けるみたいです」


 僕が鑑定結果を伝えると、ライルが早速試した。


「おお、なんだこれすげー」


 空中を軽々と歩くライルに、リサが目を輝かせる。


「なにそれ!リサにもやらせて」


 ライルからブーツを受け取ると、リサはすぐにそれを履いた。


 勢いよく一歩を踏み出す。

 だが、足裏に生まれたはずの支えは、次の瞬間にはもう消えていた。


「あれれ?」


 踏み出した足が空中に留まれず、そのまま沈むように落ちる。


 リサは眉をひそめ、自分の足元を何度か確かめた。


「……なんで?」


「背負子が重すぎるんじゃないですか?」


 僕はその様子を見て気づく。

 足場を形作る魔力が、背中の荷の重さを支えきれず、霧のように散っていた。


「残念。ライルが使いなよ」


 リサはあっさりとブーツを脱ぎ、ライルへと手渡した。


「お、サンキュー」


 ライルは嬉しそうにブーツを履き直すと、再び宙へ踏み出した。


「やっぱこれ面白ぇな」


 空中に見えない階段でもあるかのように、軽快な足取りで何歩か進む。


「あんまり遊んでると魔力なくなるわよ」


 エレナが呆れたように声をかける。


「それもそうだな」


 ライルは名残惜しそうに地面へ降り立ち、ブーツの感触を確かめるように軽く足を鳴らした。


「この調子でどんどん魔道具見つけてこうぜ」


 すっかり機嫌を良くしたライルを先頭に、僕たちは探索を再開した。


 けれど、見つかるのは蓋の開いた宝箱ばかりだった。


 中はどれも空っぽ。


「やっぱり、そう甘くはねぇか」


 ライルが苦笑する。


「魔道具目当てで潜ってる人、多そうだもんね」


 リサの言うとおり、有益な魔道具を狙う冒険者は多いはずだ。

 宝箱を見つけた頃には、すでに誰かが中身を持ち去ったあと。


 そんなことが何度も続いた。


 さっき手に入れたブーツは、崩れた瓦礫の下に埋もれていたからこそ、誰にも見つからず残っていたのだろう。


 あれは運が良かっただけだ。


 さらに歩いていると、遠くから魔物と戦う音が聞こえてきた。


 金属がぶつかる音。


 魔法が炸裂する音。


 誰かが交戦しているらしい。


 その音を避けるように進もうとした、その時だった。


 通路の先を、一つの人影が音もなく横切る。


 戦闘には向かわない。


 物陰から物陰へと身を滑らせ、そのまま奥へ消えていった。


「……ああいうのもいるのね」


 エレナがどこか呆れたように漏らす。


「戦ってる連中が魔物を引きつけてる間に、宝箱だけ漁るつもりなんだろ」


 ライルが鼻を鳴らした。


「漁夫の利ってやつですね」


「まあ、お宝一つ見つかっただけで儲けものか」


 ライルは手に入れたばかりのブーツで空中をひと歩きしてみせる。


「攻略は順調ですし、魔道具は気長に探していきましょう」


「だな。装備も大事だけど、結局は腕だしな」


 ライルは笑って続けた。


「帰ったらまた稽古つけてくれよ」


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