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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第102話 観察

 気がつけば、中庭に差し込む日差しは赤く染まっていた。


「今日はそろそろ終わりにしましょうか」


 芝生に倒れ込んだ仲間たちを『エリアヒール』で癒やす。


「結局、一太刀も入れられなかったか」


 ライルが体についた芝を払いながら悔しそうに言った。


「動きは良くなってましたよ。僕だけ『エンハンス』を使ってましたし」


「それでも、こっちは四人がかりだったよ」


 エレナの言葉に、カイも黙ってうなずいた。


「次はもっと強くなるよ!」


 リサが拳を握る。


「ええ、訓練はこれからも続けて行きましょう」


 僕は剥げた芝生を『ヒール』で元に戻していく。


「毎回思うけど、本当に便利だよな。お陰で訓練もはかどるし」


 ライルが呆れ半分、感心半分といった様子で、新しく生え揃った地面を踏みしめた。


「便利なんだからいいんじゃない?」


 リサはそう言って笑い、伸びをする。


「それよりお腹空いたー!」


 その一言で自然と笑いが漏れ、一行は食堂へ向かって歩き始めた。


 扉を開けて中に入ると、晩酌をしていたノーマンが目を上げる。

 それに釣られるように、向かいの席で飲んでいたオルガも振り向いた。


「お前たち、休みの日まで訓練か。昨日潜ったばかりだってのに、精が出るな」


 ノーマンがそういってジョッキを傾ける。


「次はいつ潜るんだ?」


「明日から潜るつもりです」


 僕がそう答えると、オルガが信じられないといった様子で声を上げた。


「明日だと?休みは取らないのか?」


「毎日、夕方には帰って休んでますが?」


 僕は首を傾げる。


「いやいや、普通はな。潜ったら二、三日は休むもんだ。体がもたねぇぞ」


「そうなんですか。教会で修行していた頃は仮眠と食事以外はダンジョンで過ごしてましたよ?」


「いや、何だその荒業は。教会やべぇな……。お前らもよくノアのペースについていけるな」


「疲れたら『ヒール』してくれるから、大丈夫だよー」


 リサが気楽そうに答えた。


「ああ、癒やし手にはそれがあるのか……。だが、あんまり無理はするなよ。疲れるのは身体だけじゃねぇからな」


 オルガがこめかみを押さえながら言う。


「ええ、ご忠告感謝します」


 僕はそう言って席に着いた。


 すると、食堂の奥からマロンが大きな盆を抱えてやってきた。


「はいはい、お待ちどうさま!今日は頑張ったみたいだから、少し多めにしておいたよ」


 そう言ってテーブルに料理を並べていく。


 メインは香草とニンニクで焼き上げた分厚いロックボアのステーキ。こんがりと焼けた表面には肉汁が浮かび、添えられた特製ソースが食欲を刺激する。


 その脇には、バターで炒めた根菜とキノコのソテー。さらに大皿には焼きたての丸パンが山盛りになっていた。


 深皿に注がれた野菜たっぷりの豆スープからは湯気が立ち昇り、食堂中に優しい香りを広げている。


 そして中央には、色鮮やかな葉野菜とトマト、チーズを和えたサラダまで用意されていた。


「わぁ!」


 リサが嬉しそうに声を上げた。


「今日は肉だな」


 カイの表情も少しだけ緩む。


「成長期なんだから、ちゃんと食べるんだよ。特にノア」


 そう言ってマロンは空いたジョッキを回収しながら厨房へ戻っていった。


 僕はパンをスープに浸しながら、四人の様子をさりげなく観察した。


 カイは黙々と肉を切り分け、ライルはパンをおかわりしながら満足そうに頬張っている。


 リサは楽しそうに今日の訓練の話を続け、エレナも時折笑いながら相槌を打っていた。


  誰も無理に明るく振る舞っている様子はない。


 人は追い詰められると、五感の歓びに鈍くなる。


 食事の味を楽しめなくなり、笑顔もどこかぎこちなくなる。

 口元だけが動き、目が笑わなくなるのだ。


 だが、四人は違う。


 料理を味わい、会話を楽しみ、明日の話をしている。


 まだ大丈夫そうだな。


「明日はもう少し深く潜りましょうか。今日の様子なら問題ないはずです」


 僕がそう言うと、ライルが顔を上げた。


「お、いいな」


「それから、魔道具も探してみましょう。下層なら、そろそろ良いものが見つかるかもしれません」


「本当か!?そいつは楽しみだな!」


 ライルが年相応の無邪気な笑顔を見せる。


 その様子に、僕は内心でうなずいた。


 人は希望だけでは長く走れない。


 だが、小さな達成感と次の目標があれば話は別だ。


 仲間と積み重ねる成功。


 少しずつ強くなる実感。


 そして、手を伸ばせば届きそうな次の目標。


 そうしたものが、人の心を支えてくれる。


 誓いの天秤は、まだ立ち止まる段階じゃない。


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