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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第101話 六十層に向けて

 蒼天の冠のクランハウスを後にし、ローデントと分かれた後。

 裏通りをウィスカーと並んで歩く。


「で、俺達も六十層ではあの戦法を使うのか?」


 ウィスカーが横目でこちらを見る。


「お前の腕は信用してる。覚悟はできてるぜ」


「治癒の宝玉はいくらでも作れるので、ウィスカーさんたちはあの手でいけそうですね」


 そう返すと、彼は前を向いたまま一度だけ頷く。


「ノアたちは?」


「僕の写し身は『ヒール』を使えるはずなので、瀕死にしても意味がないです」


 僕の返事に、ウィスカーは押し黙った。


「まあ、まずは四十層。五十層です。まだ先のことなのでやり方は考えますよ」


 会話はそこで途切れたまま、二人は帰路についた。


「よう。どうだった?おっさん達にいじめられたりしなかったか?」


 クランハウスに戻ると、食堂でくつろいでいたライルが顔を上げて声をかけてきた。


「こいつがそんなタマかよ。逆に向こうの度肝を抜いてたぜ」


 後ろからついてきたウィスカーが、面白そうに口を挟む。


「度肝を抜いたって、何言ったのよ。まぁノアだから上手くやったんだろうけど」


 エレナが訝しげな視線を向けてくる。


「それより、会議終わったなら中庭で訓練しようぜ。潜らないとなまっちまっていけねぇ」


 言うなりライルは立ち上がった。


「いいですよ。どうせなら全員相手しますよ?」


 ライルの提案はちょうどよかった。

 六十層で写し身と戦うことになるなら、今のうちから慣れておくに越したことはない。


「え、本当に?じゃあリサ負けないからね!」


 リサは遊びに誘われた子供みたいに、ぱっと表情を明るくした。


「……盾、取ってくる」


 カイが二階に向かった。


「まったく。しょうがないわね」


 エレナも苦笑しながら杖を手に取る。


「よし、決まりだな」


 ライルは嬉しそうに笑った。


 中庭で僕と対峙するように四人が並んだ。


「いつでもどうぞ」


 僕の声を合図にカイが踏み込んだ。


 『破城盾・ゴリアテ』を構えたまま真正面から突っ込んでくる。

 避けるのは簡単だった。でも、これは訓練だ。


 僕は『エンハンス』で思考を加速させ、骨格を強化する。

 加速した知覚の中で、迫る盾の中心へ杖を向けた。


 衝突の瞬間、骨格を固定する。

 受け止めた衝撃は腕へ流さず、骨を通して地面へ逃がした。


 ズン、と鈍い音が響く。


 足元の芝生がめくれ、土が大きく沈む。

 吸収された力が、一拍遅れて反動となって戻ってくる。


 僕はその向きをわずかにずらした。


 返ってきた力は、そのままカイへ。


「っ――」


 カイの身体が浮く。

 盾ごと押し流され、僕の横を滑るように転がっていった。


 衝撃で砕けた杖を『ヒール』で直す。


 呆然とするライルを置き去りに、僕は一瞬でその横をすり抜けた。


 次の相手はエレナ。


 周囲の空気が冷え、白い霜が地面を覆っていく。


 氷魔法が放たれる前に、魔力の流れを読んで軌道を外す。

 次々と生み出される氷を避けながら、間合いを詰める。

 

 接近されたエレナは、すぐに杖を構え直した。


 鋭く突き出された杖を払う。


 そのまま懐へ入り、鳩尾を突いた。

 

 エレナが蹲ると同時に、背後から斧が飛来した。


 『魔力走査』で軌道は読める。


 僕がわずかに身をかわすと、カバーに覆われたままの刃が空を切った。

 投斧はそのまま弧を描き、リサの手元へ戻っていく。


「さすがノア!じゃんじゃん行くよ!」


 リサは満面の笑みで、両手の斧を投げ放った。


 左右から二つの軌道が迫る。


 さらに正面からはライルの剣。


 普通なら回避先を読んだ必殺の連携だった。

 だが、僕には『魔力走査』で全ての動きが見えている。


 斧の回転。


 ライルの踏み込み。


 リサが次に斧を回収する位置まで。


 すべてが手に取るように分かった。


 僕は一歩だけ前へ出る。


「なっ――」


 ライルの目が見開かれた。


 双斧の軌道が交差する直前。


 僕は杖で片方の柄を軽く叩いた。


 わずかな角度の変化。


 それだけで二本の斧は空中でぶつかり合い、大きく軌道を乱した。


 その隙にライルが踏み込む。


「はあああっ!」


 鋭い気合いと共に剣閃が走った。


 速い。


 四人の中では間違いなく最速だった。


 無駄のない剣筋。


 正確な重心移動。


 以前のライルなら見られなかった完成度だ。


 振り下ろされた刃の側面を杖で軽く押す。

 それだけで軌道はわずかにずれる。


 刃は僕の肩を掠めて空を切った。


「っ!」


 ライルは止まらない。


 返す刀で二撃目。


 三撃目。


 連続する斬撃が襲いかかる。


 僕はそのたびに杖を添えた。


 受けるのではなく流す。


 弾くのではなく逸らす。


 わずかな角度の変化だけで、剣は僕を捉えられない。


 離れた場所で見ていたカイが目を見開いた。


 以前なら一撃で吹き飛ばされていた。


 だが今は違う。

 僕を相手に攻め続けている。


 この短期間でここまで成長したのは見事だった。


「まだだ!」


 ライルがさらに踏み込む。


 剣先が僅かに沈む。


 次の瞬間。


 下段から斜めに跳ね上がる鋭い一撃。


 今までで最も洗練された斬撃だった。


 僕は少しだけ感心した。


「いいですね」


 そして。


 剣が届く寸前。


 ライルの肩へ指を添えた。


「え?」


 『エンハンス』


 ライルの身体能力を強化して僅かに体勢を崩す。


 それだけだった。


 だが、全力で踏み込んでいたライルには致命的だった。


 剣筋が乱れる。


 僕は懐へ入り込んだ。


 鳩尾。


 胸。


 肩。


 三点を連続で叩く。


「がっ――!」


 呼吸を奪われたライルの身体が後退する。


 それでも倒れない。


 歯を食いしばり、剣を握り続けた。


 見事な根性だった。


 だが。


 勝負は終わりだ。


 僕は踏み込む。


 一瞬で距離を潰し、剣の鍔を杖で打ち上げた。


 ライルの手から剣が離れる。


 その間に僕はライルの懐へ入り込み、杖の先を喉元へ突きつけた。


 数瞬遅れて剣が芝生へ突き刺さる。


 ライルは悔しそうに拳を握った。


 それでも最後には苦笑した。


「……完敗だ」


「いや」


 僕は剣を返した。


「最後の斬撃は良かったです。あれは本当に危なかったですよ」


 ライルの目が少しだけ見開かれる。


「危なかった、じゃないでしょう……」


 ようやく立ち上がったエレナが呆れた声を出す。


「全然余裕だったじゃん」


 リサも苦笑する。


 盾を抱えたカイは芝だらけの顔で笑った。


「結局、四人がかりでも勝てねえか」


 ライルの言葉に、四人は揃って悔しそうな顔をした。


 けれど瞳の奥に宿る闘志は消えていなかった。むしろ前より強くなっている。


「続けましょう」


 僕は『エリアヒール』を唱えると、再び杖を構えた。


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