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学校一の美少女はすでに俺が攻略済み!  作者: 宵月しらせ


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第25話 交渉

「…………え?」

 

 すでに恐怖に染まっていた小寺の顔に、新たなタイプの恐怖が加わる。

 今度のは、理解できない要求を突き付けられた恐怖……と言ったところかな?

 俺は鬼ではないので、ちゃんと理由を説明してあげる。


「この動画も噂もすべて、男にフラれた腹いせに君がやったフェイクだって認めて、その責任を取って昼休みのうちに退学届けを提出して。ここからいなくなって」


「う、噂はともかく動画はあたしじゃないし……なんで退学まで」


「退学までした方が、君がすべて悪いって信じてもらいやすくなるでしょ?」


 俺の横で藤巻さんが「なるほど、お前頭いいな」とつぶやく。


「で、でも、退学したら絶対に信じてもらえるってわけでもなくて……」


「彩紗の人生がかかってるんだ。一パーセントでも確率が上がるなら、やってみる価値はある」


「なんで誰かの作ったフェイク動画の責任をあたしが、たった一パーセントのために……」


「たったって言うけど、俺からしたらノーリスクだから」


「あたしは人生がかかって」


「どうでもいいよ。君の人生なんて。別にここで殺してもいいんだよ? でも、退学したら許してあげるって言ってるの。俺に泣いて感謝して、喜んで退学するところじゃない?」


「ふざけんな!」


「あっそ」


 この小寺って女は、あまりに物分かりが悪い。

 また殴って言うことを聞かせてもいいのだが、できれば自主的に退学してほしい。

 しかたない……俺は空になった消火器で窓ガラスをぶん殴った。

 大きな音がして窓は粉々になり、十二月の寒い空気が教室に吹き込んできた。


「次は窓ガラスじゃなくて、お前の頭を砕く」


 小寺の頭の少し上で消火器を素振りした。

 だが、思ったより下を振ってしまい、頭にかすった。


「ひ、ひぃっ‼」


 小寺は悲鳴をあげた。

 当たったら死ぬかもしれないという恐怖を与えられたらしい。


「た、助けて! こいつ狂ってる。誰か、誰か助けて!」


 狂ってる?

 当然だ。

 愛する人をいじめられたのだ。

 これで怒り狂うことさえできないなら、それは愛などではない。


「なんであたしなんだよ……噂流したのもあたしだけじゃなくて、みんなでやったじゃん……そ、そうだ……退学するのはあたしじゃなくてさ、別の誰かでもよくない?」


「ほう」


 小寺がおもしろいことを言い出した。少し話させるか。


「ね、ねぇあいつ。村野ってショートカットの子。あの子が流して噂が一番えげつない。しかも自分で作った噂だからもう最悪。退学するならあの子にして」


「は? いや、あれは田中がもっとパンチ効いたのほしいって言ったから」


「あたしだって高橋が言うから……」


 小寺のグループの中で争いが始まった。

 予想外の展開だ。

 俺たちを置いて騒ぎだした女たちに、藤巻さんは怒るのかと思いきや、寛大な提案をした。


「よし、全員に罪があるみたいだから、ここは平等に多数決だ。誰が退学するか、お前らで決めろ」


 そう言って、視線を教室の壁にかけられた時計に向けた。


「一分やる。その間にじっくり話し合って、一番悪いやつを決めろ。もし決まらなかったら、全員退学させるからな。はい、カウントスタート」


 突然始まった話し合いの時間に、小寺の仲間たちは困惑していた。


「多数決って言われても……そんな……」


「ね、ねぇ?」


「こうして謝っているんですから、許してくれませんか?」


「十秒…………十五秒。どんどん寿命が縮んでるけど、のんびりしてていいの?」


 彼女らの話を聞くつもりがまったくない藤巻さんは、懇願を無視し、淡々とカウントを進める。


「二十五秒、三十秒……」


 それが死刑執行のカウントダウンだということを理解した彼女たちは、話し合いを始めた。


「あたしは絶対に退学したくない」


「あたしだって。なんでしなきゃいけないの?」


「あんたがすればいいじゃん。学校でダルいって毎日言ってるし」


「だからって辞めたいわけじゃない! それを言うならあんただって――」


 話し合いというより罵り合いが続く。

 この間、ポニーテールはまだ胸倉を掴まれたまま。話し合いに参加できない。


「あと十秒……八、七、六……」


「決まりました!」


 時間ギリギリ、彼女たちの話し合いがまとまった。


「誰?」


「こ、小寺で……」


「オッケー。賢明な判断だ」


 藤巻さんは頷いたが、当のポニーテール小寺はそれを受け入れられないらしい。


「ふざけんな、なんであたしが! ふざけんなこの腐れビッチどもが!」


 叫んで暴れる。あきらめが悪いやつだ。

 退学すれば、この苦しみから解放されるのに。


「イヤだ、イヤだ、イヤだ!」

 

 小寺は叫んだが、誰も助けに入らない。

 藤巻さんが、


「今ならギャラリーの誰かが代わりに退学すれば、こいつは許してあげる。ねぇ、自分の人生かけてでも小寺を助けたいってやついる? 誰もいないの? ウケる。あたしと坂城は人生かけてここに戦いに来たってのに。小寺さぁ、困ってる時に誰も助けてくれないくらい嫌われてるのに、まだ学校来る気? もう辞めちゃいな?」


 と、理路整然と退学のメリットを説明すると、頭の悪い小寺もさすがに理解したらしい。

 そして全身の力が抜けたらしく、抜け殻のようにその場に座り込んだ。


「さて……紙とペン、ある?」


 藤巻さんは一年の女子たちからルーズリーフ一枚とボールペンをもらい、ポニーテールの前に置いた。


「さぁ、退学届けを書け」


 小寺は大粒の涙を流しながらも、必死に拒もうとしていた。

 この期に及んでまだ抵抗するとは、意地汚い人間だ。最大級の軽蔑に値する。


「あーあ。まだ書かないなら、お友達にも退学してもらわないとなぁ」


 俺がそう言うと、小寺の仲間たちが、


「早くしろ」


「お前のせいでこっちまで退学になったらどうするんだ?」


「こんなやつ友達じゃないんで、勘弁してください!」


 と小寺を急かし、さらに追い詰め始めた。

 周りのすべてを敵に回した小寺は、涙を流しながら退学届けを書き始めた。

 

 書き終わったタイミングで、騒ぎを聞きつけた教師が入ってきた。


「何があった?」


 と、教師は教室を見て問いかける。

 血を流した女子生徒、消火器の泡で汚れた床、割れたガラスの窓……まぁ大惨事だな。


「何があったと聞いているんだ!」

 

 教師は俺と藤巻さん、小寺たち、それに遠巻き見ていた野次馬たち……それぞれから事情を聞き、まず小寺の退学届けを破り捨てた。


「いろいろ問題はあるが、こういうやり方でムリヤリ書かせた退学届けは認められない!」


 と言った。


「退学届けは受理しないが、何をしたのかは詳しく聞かせてもらうぞ」


 それから教師はそう言って、小寺と仲間たちを連行した。

 いや、小寺たちだけではなかった。


「お前たちもだ!」


 と、俺たちも連れて行った。

 まぁさすがにそうなるだろう。

 いいさ、別に無傷でなんとかしたかったわけじゃない。

 優先順位の一番上は彩紗を守ることであって、俺自身の安全でさえ二の次だった。だから、このくらいは覚悟している。


★★★


 小寺たちとは別の部屋に連れて行かれた俺と藤巻さんは、そこでさっきあったことを話した。

 小寺たちが言っている内容と一致したらしく、それをもとに両者に罰が下された。

 藤巻さんは停学二日。小寺たちは停学一週間。

 なぜか俺が一番重くて、二学期中の停学。さらに消火器と窓ガラスを弁償しなければいけないらしい。

 ちょっと納得いかないが、まぁ冬休みを長くもらえたと思おう。たっぷり遊んでやる。


★★★

 

 処分を言い渡された後、荷物を取りに教室に戻る。

 さて……これから親が迎えに来るそうだが、なんて言われるか。

 さぞ怒られるだろうなぁ。


「坂城殿……話は聞いたぞ。大暴れしたらしいな」


「まぁちょっとな」


「戦うべき時は周囲への被害など考えずに徹底的にやる。カッコイイではないか」


「小学校の時の教師が言ってたんだよ。誰かがいじめにあった時、助けないやつもいじめてるのと同じだ、って。だったら、そいつらも全員復讐の対象にしていいってことだろ?」


「たぶんその教師が言っていたのはそういうことではないと思うが……」


「ははっ。じゃあな、小野。よいお年を」


「まだクリスマス前だが……時間があれば遊ぼうではないか」


「そうだな」


 よその教室であれだけの騒ぎを起こしたばかりだと言うのに、怯えずに遊ぶ約束を取り付けようとしてくるなんて。

 いい友達を持ったものだ。


 そんな小野に、彩紗とのことを隠しているのがイヤになってきた。

 今度会った時に話そうかな……。

 

「理希くん……藤巻ちゃん……」


 彩紗は、自分のために戦って停学処分になった俺たちに対し、何を言ったらいいのかわからないようだった。

 ありがとうって言ってくれたら、それでいいんだけどな。


「あたしはたった二日だから、今週中にまた学校に来るよ。だから気にしないで。それよりこいつ、坂城。こいつはすごかったよ」


「うん、知ってる。理希くんがすごいことは、私が誰より」


「そっか。まぁ坂城の覚悟の決まり方からして、そんな気はしてた。また今度話を聞かせてよ。それじゃ」


 藤巻さんは荷物をまとめ、教室を出て行った。


「俺も行くよ。なるべく早く職員室に来いって言われてるから」


「うん……待って、私も行く」


 そう言って、彩紗も荷物をまとめた。

 俺と一緒に帰るつもりのようだ。

 廊下を並んで歩く。たぶんこういうのは入学以来初めて。

 途中の教室から、その様子を覗いてくるやつがちらほらいる。


「これでまたなんて言われるかわからないぞ?」


「いいよ、なんて言われたって。私は最初からこうしたかった。こうするべきだったんだよ、本当は」


 二人で歩きながら、藤巻さんについて少し話をした。

 俺に負けないくらい、彩紗のために怒ってくれた人。


 話したことはあまりないけれど、俺は彼女にかなりの親近感を抱いている。

 こういう気持ちを戦友と呼ぶのかもしれない。

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