六章 無くした記憶
「そろそろお別れだ、バルト。元の記憶が戻れば……私との記憶は忘れてしまうだろう……けれど、心の何処かには必ず残ると私は信じてる」
「だったら、前の記憶なんて思い出さなくていいよ!ドラシナと一緒にいれたらそれでいい!」
……この記憶……たまに思い出していたような……でもすぐに忘れてしまって……
「私もそうしたいのは山々なんだ……せっかくプロポーズまでしてもらったのにね」
「いやだ!僕はドラシナと一緒に居たい……」
「ごめんね、バルト……正直に話すと、このままでは私はもうすぐ死ぬんだ」
「嘘……だよね?嘘だよね!?」
そうか……ドラシナとお別れした時の記憶だ……忘れてしまっていたんだな……
「残念だけど……本当だよ。龍疫病って病が流行っててね。龍種しか罹らない病で、魔力が完全に枯渇して死ぬ病さ」
「……絶対に治らないの?」
「今の所はね……だからバルトにお願いがあるんだ……もし、何かの拍子で私を思い出したら……龍疫病の治し方が解明されていたら……私の封印を解いて助けに来てくれないか?」
「絶対に約束する、絶対に……」
そうだった……ドラシナと約束したんだった……俺が封印を解いて、ドラシナの病気を……
「封印はバルトだけが解けるようにしておくから、また会える日を楽しみにしてるよ……それじゃあ……少しの間さよならだ」
「待って!ドラシナ!!」
バルトは勢いよく飛び起きたが、体中に痛みが走り、ベッドにうずくまった。
「あはは、目覚めの第一声が女の名前とは妬けるわ。まだまだ全開じゃないんだから、いきなり体を動かすんじゃないよ」
聞き覚えのある声にバルトは声の方を見ると、リリンが椅子に座って笑っていた。
「いつかの幼女様!久しぶりだなぁ……ってここはどこです!?」
久しぶりのリリンとの再開にバルトは喜んだが、すぐに自分の今の状況に気付きリリンに質問した。
「あんたは今サキュバスの国さね。現世界だけじゃなくて魔界に飛ばされるとは、運が良いんだか、悪いんだか分からない奴だよ」
「魔界……だから思い出したのか……もしかしたら今ならドラシナを……」
バルトはドラシナとの記憶が何故戻ったのか、すぐに分かった。魔界に戻った事で魔界独特の魔力に干渉され記憶が戻ったのだ。ドラシナが現世界と魔界の魔力は微妙に違い、魔界の魔力でしか起きない現象があると言っていた。
「そのドラシナとか言う女の記憶かい?まさか龍姫ドラシナじゃあるまいね?」
リリンは少し驚きながら、バルトに尋ねた。
「ドラシナを知ってるのか?」
「知ってるも何も、魔界最強と言われた龍姫じゃないか。龍からの人化を成し遂げた数少ない天才で、魔界で勝てる者は居ないと言われた人じゃ」
「そんな有名な人だったのか……俺はてっきり綺麗な強い人位の感覚だったんだけど」
「まさか、本当に知り合いだったとは……噂では龍疫病を患って死んだと噂されておるが、まさか生きておるのか?」
バルトは本当の事を話していいか、一緒迷ったがリリンの反応なら安全だと判断した。
「……生きてるかどうかは分からないけど、自分で封印魔法を使って封印されているのは間違いないと思う」
「そうか……あまり関わりはなかったが、彼女のおかげで我ら一族も色々と恩恵を受けたと聞いておる。もし、兄ちゃんがドラシナの為に何かしたいなら、惜しみなく協力するぞ」
リリンは優しく笑うと、バルトに近づき握手を求め、バルトも握り返した。
「ところで……今どういう状況か説明を頼めるか?」
バルトはノクターナルで何が起きたのか全く想像出来ず、リリンだけが頼みの綱だった。
「冷静に聞くんだよ、兄ちゃんも受けたあの魔法で現世界にいた者は全てランダムに移動させられたらしい……本来は消失する魔法だったらしいが術式の構築にミスがありテレポートの様な形になってしまったようじゃ……」
「みんな死んだわけじゃなかったんだ……良かった」
バルトは安堵して、全身の力が抜けベッドに横になった。
「術式の失敗は不幸中の幸いじゃったが、事態は深刻じゃぞ……世界中の人間がバラバラになったんじゃ……
混乱に乗じた犯罪、焦りからの小競り合い、様々な問題が生じていて、正直かなり不味い状況になっとる」
リリンの顔は先ほどとは違い、かなり暗く事態の深刻さがバルトにも伝わった。
「それにテレポートの時に、兄ちゃんみたいに怪我を負っている事もあるみたいでな……事態は最悪の一歩手前というところじゃな……」
「体が痛いのはそういう事か……とりあえず俺は、仲間を探して、ドラシナを助けないと……後母さんや、街の皆も……」
バルトは無理やり立とうとするが、体中激痛が走り、意識が飛びそうになる。
「動けるわけないだろ、体中の筋が切れてるんだよ。とりあえず2日は安静にしな。その間に治してやるから」
リリンはバルトのおでこを軽く押すと、バルトはベッドに倒された。
「ところで……兄ちゃん、本当にわしのことがわからんのか?」
リリンはバルトの上に跨り、顔を近づける。
「本当に?どういう事だ?」
「仕方ないねぇ……ほれ!」
リリンはサキュバス店での老婆の姿に変身した。
「…………………」
バルトの意識は再び遠のいた。




