二章 被害のない戦争
「ど、どういうことだ?」
キースの言葉にケルベロス全員が動揺する。
ラルカにいたっては今にも泣き出しそうな顔で口元を押さえていた。
「……混乱を招くような言い方になってしまい、すまない」
キースは謝りながらも、説明を続けた。
「順を追って説明すると、ノクターナルは依頼を我が国以外にも3カ国にかけていたらしい。そして各国で依頼を受け、冒険者が派遣された。そこまでは良かったのだが……」
そこまで話すと、キースはラルカを見つめ気まずそうに視線を外した。
「その冒険者達が、ノクターナルから送られた騎士団員達に暗殺されたんだ……」
「おい……それって……」
バルトはラルカを見ると、青ざめ震えながら泣き始めてしまった。
「恐らくラルカ君もその類いだと分かったが、バルトのラルカ君に対する態度から、殺意はないと思い様子を見させてもらった。
しかしあまりに重大な問題ゆえに、最初にショッキングな話をしてラルカ君の反応を試してしまった。本当に申し訳ない」
キースが真剣な眼差しでにラルカに頭を下げた。
「いえ、あの……私……私……」
ラルカは必死に言葉を振り絞ろうとするが、言葉が続かない。
「ラルカ、大丈夫だから」
クリスがラルカを抱き寄せる。
「キース、ラルカは確かに暗殺者だが騙されてきただけだ。間違いなく安全だと俺が保証する」
バルトはまっすぐな瞳でキースを見た。
「分かってる、ラルカ氏は正式な任務で国を守るため……とかだろう?もう疑ってないから安心しろ」
「話が早くて助かる。ちなみに暗殺に関しては騎士団長命令だ。俺達が護衛を装った暗殺者だと聞かされたらしい」
「ちょっ、ちょっと待て!今騎士団長と言ったか?それだと騎士団長が戦争を起こした首謀者ということになるではないか……」
キースが驚いた表情でバルトに詰め寄る。
「私はてっきり女王の存在が邪魔な役人の依頼かと……そうなると何が目的なんだ……」
「誰の目的は分からないが、理由は分かる。戦争を起こして女王に全ての責任を押し付けたいんだろ。
都合の良いことにノクターナルは今国内でさえめちゃくちゃな状況だ。
女王に悪意を国内からも国外からも簡単に向けられる」
そう言ってバルトはラルカの近くに行き、ラルカの目線に合うようにかがんだ。
「ラルカ、今は何が正しいか分からない。だから今までお前が信じたものを信じるのを止めるな。
こういう場面で信じて良いのは聞いたことでも、誰かに言われたことでもない、自分の目で見てきた事実だけだ」
バルトのまっすぐな視線にラルカは泣くのを止め力強く頷いた。
「キース、依頼の内容もそれなら変わってるよな?」
「あぁ……ちょうど国際連邦会議の最中だったこともあり、話が大きくなってしまってな……ノクターナルによる他国への攻撃とみなされ、ノクターナルを除く4カ国の連合軍が結成された。
依頼の内容は……有力な冒険者によるノクターナルへの報復及び殲滅。会議に出ていたノクターナルの使者はすでに処刑されたそうだ」
「そんな……いえ、これだけの問題になれば仕方ありません」
ラルカは一瞬動揺したが、すぐに切り替えキースを見た。
「辛い話が続いてしまいすまない。そしてケルベロスの諸君にも正式に依頼された。
ラルカ君の前で言いたくはないが……騎士団としては君達にこの依頼を受けて欲しい」
キースの顔が一瞬曇ったが、すぐに真剣な顔に戻った。
「バルトさん、私の事は気にせず受けてくだ……」
「受けません」
バルトはラルカが言い終わる前に答えた。
「何で俺らが関係ない戦争に加担しなくちゃいけないんだよ。バーラックの人間は誰も死んでないだろうが。復讐する理由がない」
「バルト、それはあくまで結果論だ。君達ケルベロスでなければ恐らく我が国も犠牲者が出ていた。攻撃された事実は変わらない」
キースの目が鋭くなる。
「でも死んでない。被害はゼロだ。キース……もう一度だけ言うぞ?バーラックは誰も死んでない。
ノクターナルを恨む理由が俺達にはない」
バルトは力強くキースを睨み付ける。
「……わかった。確かにバルトの言い分は筋が通っている。依頼は諦めよう」
キースが首を振りながら、自分の椅子に深く腰をかけた。
「それでどうする気だ?ノクターナルに行く理由は戦争以外にもうないぞ」
「別に依頼がなくても行けるだろ。旅行だよ、旅行」
「残念ながら旅行は無理だな。戦争状態に入った今、ノクターナルに出入りするには何かしらの国からの依頼がないと入れない」
「そんなの知らん。俺達は行きたいとこに行かせてもらう」
「言い方が悪かったな、依頼を受けたもの以外はバーラックから出れないと言った方が正しかった。防衛魔法が国全体張られていて許可証がないと出れない仕組みになっている」
「お前……最初に言えよ。選択肢は最初から依頼を受けるしかなかったんだろ」
バルトはジト目でキースを見る。
「そうだな。しかし俺は君達に受けたくもない依頼を受けさせるほど嫌な人間になりたくない……一つだけ君達を依頼を受けずにノクターナルまで送る方法がある」
「まじで!さすがキース騎士団幹部様!早速教えてくださいよ!」
バルトは目を輝かせながら、キースにすりよった。
「任せろ!俺ほどの男なら造作もないことだ!違法に転移魔法を使うのだけの話!
俺も君達も指名手配になるが、一度体験してるから慣れたものだろう!」
改めてキースが残念イケメンな事を思い出した。




