六章 悲しみの果てに
「もう終わりだ……俺の夢は完全に断たれた……」
バルトは暗い自室のベッドの上で静かに涙を流す。
あれからどうやって帰ってきたか覚えてないが、気付いたらベッドに寝て天井を眺めていた。
かなりの長い時間見つめていたのだろう、外はすっかり暗くなっている。
『あのさ……僕とは感情とか、視界とか色々リンクしてるの知ってる?』
バルトの頭の中にいきなりシトリーの声が響く。
『あー悪い。うるさかったか?』
声に出さず会話が出来るのか試す為にも、バルトは頭の中で返事をした。
『そこそこね。今日1日で、バルトの人間性が良く分かったよ……』
シトリーは若干引きながら、バルトに答える。
どうやら頭の中だけで、会話は出来るようだった。
『なら隠しても仕方ないか。俺はエロい事をするためだけに生きている』
全く臆することなく、バルトは堂々と答える。
『だろうね。あのさ……そんなにエロい事したいの?』
『当たり前だろ!俺は幼少期からそれだけを目標に生きてきたんだぞ!……それより少しは元気が出たみたいで、安心したよ。
この前まで闘ってる時には想像出来ないくらい、控えめだったもんな』
バルトはシトリーがいつもの調子に戻り安心した。騎士団員やハンナ達と街であった時は、かなり弱気な発言が目立っていて心配していたのだ。
『人生を懸ける程の事には思えないけど……お陰様でもう大丈夫だよ。バルトには本当に感謝してるし……だからバルトがそういう事したいなら、お礼にしてあげてもいいけど……』
シトリーが少し恥ずかしそうに、バルトに提案する。
『仕事仲間とはいえ使い魔だから条件的には問題ないんだけどさ……ロリは愛でる対象であり、攻略対象ではないんだよなぁ……嬉しいが気持ちだけ受け取っとくわ』
『ロリ?自分で言うのもなんだけど、僕おっぱいは結構大きいよ?』
『シトリー、俺は実際に君の胸を見ているが……お世辞にも大きいとは言えないぞ』
『それは僕の不完全な姿でしょ?』
『不完全……?あっ!』
バルトに衝撃が走った。
そうだ……シトリーは不完全な姿で召喚されたと言っていたのだ。
『あの……どれくらい大きいんでしょうか?』
『なんで敬語なの?どれくらいって言われてもなぁ……少なくともハンナ達よりは大きいかな』
「なん……だと……」
思わず声に出してしまった。クリスは論外だが、ハンナとリリィはサイズ的に大きい方にも関わらず、それを越えてくる……だと……
『シトリーさん、とりあえず召喚しても宜しいでしょうか?』
『え!?まぁ……うん……』
シトリーは少し恥ずかしそうに了承する。
バルトは急いで魔法陣を展開し、親指の先を噛み血を垂らした。
あぁ……やっと苦労が報われる時がくるんだ。
夢は破れたが、思わぬ幸運に歓喜の涙が溢れそうになる。
異世界転生ばんざ……え?
「あれ?なんで?」
召喚されたシトリーは、前回見た時と一切変わらなかった。
「あはは……バルトの魔力だとこの姿が限界なのかも」
シトリーが気まずそうに笑いながら、目を逸らす。
「もう、誰か俺を殺してくれ」
バルトは白目を剥きながら泡を吹いて倒れた。
バルトが目を覚ますと、シトリーが膝枕をしながら心配そうに見つめている顔が目に入った。
昔もこんな事があった気がするが、思い出せずシトリーを見つめ返す。
「バルト大丈夫?いきなり倒れるからビックリしたよ」
「すまない、あまりの衝撃に脳が耐えきれなかったらしい」
「変に期待させてごめんなさい……こんな姿じゃ嫌だよね」
シトリーは少し悲しそうに自分の胸を撫でる。
「いや別に良いんだけど、むしろ良いんだけど、何て言うのかなぁ……まぁ本当に困ったときはお願いするよ」
「本当に!?」
「本当だ。魔王様との一夜って価値は最強クラスだ」
「それなら良かった!……けどバルト達さ、何か勘違いしてない?」
シトリーは嬉しそうにしながら、バルトに質問してきた。
「僕は正式には王女だからね?最初は悪魔の王女様だからそう呼んでるのかと思ったけど……君達が言ってる魔王って魔界の王の事でしょ?」
「…………え?どういう事?」
バルトはシトリーの説明を理解出来ず聞き返す。
「だから、君達の言う魔王は僕じゃないってこと。そもそも魔王なんて簡単に召喚できないよ。僕だって見たこともないんだから」
「……まじ?」
「まじ」
シトリーが真顔でバルトに返した。
「それにバルト達が勇者と呼んでいたクズは勇者なんかじゃないよ。もう死んでしまったと思うけど、昔見た勇者は全てにおいて規格外の強さだったし。
それに勇者の証である紋章が首に入ってなかったからね」
「おいおい……国の常識をひっくり返すようなレベルの話を淡々とするな!」
「僕からすればバルト達が非常識にしか思えないけど?」
「……確かに魔界とここの常識なんか違うに決まってるか。今更大した問題じゃないしな」
バルトはシトリーの膝から頭を上げ、座り直す。
良く考えたら報酬金がもらえないなら、どうでも良い問題だったのだ。
「それより、勇者を見たとか言ってたけど旅でもしてたの?」
バルトはなんとなく気になって聞いてみた。
「そうだよ、色々僕もあったからさ。でも楽しかったし今では良い思い出だけどね」
「へぇー、なんか印象に残ってる国とかはあるのか?」
「そうだねぇ……バルトが好きそうな国だと亜人の国【ノクターナル】かな?亜人はオープンな性格の人が多いからね。色々な夜のお店があって賑やかな国だったよ」
「シトリー、ノクターナルで間違いないな?」
バルトはベッドに入りながら、シトリーに確認する。
「そうだけど……ここからはかなり遠……」
「明日朝一から用事が出来た。俺はもう寝るからベッドに入りなさい」
「一緒に寝て良いの!?」
「シトリーは命の恩人だ。構わない」
「し、仕方ないなぁ」
シトリーはそう言いながらも嬉しそうに、バルトのベッドに潜り込む。
バルトはシトリーに腕枕をしてあげながら、目を閉じた。
母さん……僕は旅に出ます。




