六章 悲しい英雄
バルトは軽快な足取りでサキュバス店まで向かっていた。
魔物の襲撃で壊れた建物も数多くあるが、改修工事も進み、街は少しずつ活気を取り戻し始めている。
「おう!ケルベロスの兄ちゃん、この前は大活躍だったな!よっ!英雄!」
「あぁ、どうも」
大工をしているおっさんに話しかけられ、バルトは少し恥ずかしそうに手を挙げお辞儀をした。
バルト達の指名手配が解かれたのと同時に、バルト達が所属しているギルドが勝手にバルト達の業績をギルドに貼り出したせいで、いつの間にか有名人になっていたのた。
「あ!ケルベロスの英雄だ!」
「英雄様、ごきげんよう」
「勇者様!サインください!」
それからは少し歩くたびに、バルトを見つけると老若男女集まって来てはバルトに声をかけてくる状態が続く。
バルトは困惑しながらも、異世界転生の主人公感を味わえたことで悪い気はしなかった。
俳優とか女優ってこんな感じなのかと思っていると、1つの前々からの疑問を思い出す。
『有名人はプライベートがない中、どうやって風俗に行ってるんだろう?』
バルトは子供達に囲まれながらサインをしていたが、子供達の声がどんどん遠くなっていく。
バルトの中で自問自答が始まる。
英雄と呼ばれてる人間が、こんな昼間から夜の店に入って良いのか?
いや、英雄だって人間だ。そんなこと言ったら賢者だって……出来なくなるし……でも子供達が大勢見てるなか入るのはどうなんだ?
だったら夜にまた来るか……
いや、夜は確かに子供はいないが、別の問題がある。
俺がそんな所に入ってくのが見られたら、間違いなく噂になりハンナ達、そしてあのフランに絶対にバレる。
それではシトリーに土下座までしてかけてもらった魔力感知無効が、何の意味もなくなってしまう。
あれ、もしかしてこれは詰みゲーじゃ……
バルトは無意識に子供達にサインをし終わり、その場で立ち尽くした。
落ち着け、まだ焦る時じゃない。バルトは自分に無理矢理言い聞かせ、深呼吸をする。
「もしかしたら、たまたま人がいなくて誰にも見られず入れるかも……それに、昼間の方が人が多いからタイミングさえあれば……」
バルトは殆ど0に近い可能性を信じ、サキュバス店に向けて歩きだした。
「はは……無理だ……」
バルトは店の前に着き、全てを悟った顔で笑う。
あれから状況は良くなるどころか、むしろ悪化した。子供達が、ケルベロスごっこと称しバルトの後ろをくっついてきたのだ。
しかも数はどんどん増えて、今では20人程の子供達が目を輝かせながらついてきている。
おかげで周りの大人達の暖かく見守る視線が、バルトに突き刺さりまくっていた。
「とりあえず、夜にもう一度……」
「おや、兄ちゃん!金が貯まったのかい!」
バルトが一旦諦めて帰ろうとすると、聞き覚えがある声が後ろから聞こえた。
振り替えるとサキュバス店の老婆がバルトを見つけ駆け寄ってくる。
「ば、ばぁさん!いや、今は……」
「なんだい?遊んでいかないのかい?ポケットにはちょうど金貨100枚入ってるみたいだけども」
老婆がわざとらしく聞いてきた。
このババァ……俺の状況を分かって聞いてるな……
「ケルベロスのお兄ちゃん!何をして遊ぶの?」
「ここ何のお店?」
「え!?いやぁ……なんだろうね……」
案の定子供達がバルトの周りに集まり、バルトを質問攻めにし始めた。
バルトは周りの大人達の目を恐る恐る見ると、にこやかに笑っているが目の奥は笑ってないことが分かる。
無言の圧力で、『上手いこと何とかしろ』という大人の事情を背中でひしひしと感じた。
「ここは、大人の人がリラックスしに来るところだよ?お仕事をして疲れた時にね。みんなはまだ元気いっぱいかなぁ?元気な人は手を挙げてー!」
バルトは話を逸らそうと、わざとらしく子供達に聞く。
「「「はーい」」」
子供達は元気よくみんな手を挙げた。
大人達は感心しながら、バルトを見ている。とりあえずは一段落か……
「あれま、もしかしてうちの店に寄付に来たのかい!?兄ちゃんとは、昔からの知り合いだからねぇ。ちょうどこの前の襲撃で壊れ所があるから助かるよ」
老婆は笑いながら、さらにバルトを追い詰める。
このババァ……完全に俺から何のサービス提供もせず、金を奪おうとしてやがるな……そもそも建物は無傷だったじゃねぇか。
「いやぁ……この前魔王と闘った時に防具が壊れましてね、防具を新調しようかと。もちろん寄付はさせて頂きますよ?金貨5枚程ですが。
報償金が出なくて、貧乏なもんで……すみません」
バルトはもっともらしい理由をつけて逃げようとする。しかも、わざと金がないアピールまで込みで。
マンドラゴラは感謝しているが、それとこれとは話は別だ。悪いが逃げさせてもらう。
「それじゃ、俺はそろそろ行かないと!金貨5枚と少ないけど……受け取ってくれ」
バルトが老婆に金を渡すと、周りの大人達は次々に称賛を送った。
ババァ……これで俺の勝ちだ……良い勝負だったぜ。バルトは勝ち誇った顔で老婆の横を通りすぎようとする。
「フラン……」
老婆が小さい声で呪文の様に呟いた。
「ババァ……なんでその名前を……」
バルトは思わず固まり、老婆の方を見る。
「フランちゃんが知ったら……息子は無事でいられるかねぇ……」
老婆は満面の笑みでバルトを見つめるが、目の奥は怪しく光っていた。
『ババァ……卑怯だぞ。だったら夜遊ばせろ』
バルトはババァの肩に手をおいて、念話で伝える。
「あたしならね」
老婆はわざとらしくウィンクしながら答えた。
『ふざけんな!何でちゃんと金を持ってきたのにサービス提供してもらえないんだよ!ババァじゃなくて巨乳のテクニシャンだせ!』
バルトは笑顔でぶちギレながら、念話で抗議する。
「どれ、今からフランちゃんの店にでも散歩に行こうかね」
老婆はバルトの手をよけ、フランの店の方角へ歩きだした。
ふっ……そんな脅しに俺が屈すると思ったか?
フランはまだ子供だぞ?大の大人が子供1人にびびってどうするんだ。
俺は、自分が決めた道を進む以外のやり方を知らない。悪いけど、俺は俺の道を行かせてもらうよ……
「全財産寄付しますね。では……」
バルトは老婆に金を渡すと凄い勢いで走り出した。風俗に行けないことが辛すぎて、本気で泣いていたのを隠すために。




