一章 残念な英雄
「おい、キースはいるか?」
早朝6時、バルトは騎士団本部の前に来ていた。
騎士団は何があっても良いように当番制で24時間開いている。
「ん?……あ!ケルベロスの!」
どこかで見た顔だと思えば前にハンナ達が一度揉めた門番だった。
バルトを見ると明らかに嫌な顔をする。
「キースさんは今日非番だ。分かったら早く帰れ」
門番はめんどくさそうにバルトを追い払おうとする。
「だったら今すぐ呼び出せ。大切な用事があるんだよ」
「市民の要望で呼べるわけないだろ。そんなに急ぎならキースさんの家に直接行け。まぁ、知ってればの話だけどな」
クレーマーの対応をするかのようにあしらおうとすると、バルトは1枚の騎士団紋章が印刷されているカードを門番に見せた。
「いいから早く呼べ。俺達のパーティーは騎士団契約パーティーだから市民じゃないんだよ」
「お前、なんでそれを……」
騎士団契約をしているパーティーのみが持つことが出来るカードを見せられ、門番は驚いた。
それもそのはずである。
騎士団契約のパーティーは数える程しかなく、ケルベロスのような新参パーティーが本来もてる代物ではない。
「これで分かったろ。さっさと案内してくれ」
「わ……分かりました。こちらへ」
門番は悔しそうに、騎士団本部にバルトを案内した。
「意外とバレないもんだな……」
バルトはカードを砂に戻し、門番の後ろに着いていった。
「おい、カード偽造したろ!国の許可証の偽装は大罪だぞ……無茶ばかりするな」
キースが不機嫌そうに、バルトが待つ部屋に入ってきた。
「バレるから嘘で、バレなきゃ嘘じゃない。それより、朝早くに悪かったな」
ソファに座りながらバルトは溜め息をつくキースに軽く手を合わせ謝る。
「また訳の分からない屁理屈を……それで何事だ?何かトラブルか?」
「大問題だ……この国で俺のプライベートがなくなった。どこに行っても誰かの目線が付きまとう様になってしまった」
「何!?家の中とか、トイレも覗かれてるのか!?」
「家やトイレでプライベートがないやつがいるか!外を歩いている時とかの話をしてるんだよ」
バルトは相変わらずのキースの天然に頭を抱えた。
「それは仕方ない事だろ。魔王を倒したとなれば有名にならないわけがない」
「その状況をなんとかしたくてな……そこでキース、君に大切なお願いがあるんだ」
「私が出来ることなら協力するぞ、言ってみろ」
「理由は何でもいいから、ノクターナル国への遠征依頼を出してくれ」
「ノクターナル?あぁ、亜人の国か。でもどうしてノクターナルなんだ?」
キースは不思議そうにバルトに訪ねる。
「と、特に深い理由はない。ただとりあえず国外で落ち着くまで過ごしたいだけだ」
さすがにエロそうな国だから行かしてくれとは、バルトでも言えなかった。
「ふむ……ちょうど依頼があるし、構わないが本当に良いのか?」
「まじで!全然構わないけど……何かめんどくさい依頼か?」
キースが逆に頼みづらそうにしているのが気になり、一応理由を聞いておくことにした。
行かないと言う選択肢は最初からないのだけれど……
「まぁな……それにかなりの長旅になるぞ。ノクターナルは国が広大な上に転移魔法が使えない様に結界が張られている。だからノクターナル付近の村まで転移しても、首都までは2週間はかかるだろう」
「随分めんどくさい仕様だな。そこまで警戒する理由でもあるのか?」
「まさにその理由が依頼内容だ。ノクターナルの第一王女の命が狙われている。その護衛が今回の依頼だ」
「護衛か……敵の正体は分かっているのか?」
「それがそこら辺の情報は、到着してからの一点張りでな……危険度も分からなければ、内容もわからない事から、誰を派遣しようか頭を悩ませていた所だ。
受けてくれるのか?」
「うーん……」
あまりの胡散臭さにバルトも即決は出来ずに、考え込んだ。
「悩むのも無理はない。今のところ他のパーティーに依頼する予定はないから、考えても大丈夫だぞ」
危険度が分からない以上パーティーとしての意見は聞くべきだし、さすがに即決は出来ない。
とりあえず一旦帰って相談してみるか……
「お言葉に甘えさせて貰うよ。明日までには返事する」
バルトはソファから立ち上がり、部屋を出ようとする。
「わかった。ちなみに報酬金はかなりの額だから、そこは安心してくれ」
「依頼を受けよう」
バルトは迷いなく、光の速さで即決した。




