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四章 ごっこ遊び

 ミルコがテーブルに着き、バルト達は軽く自己紹介すると、指名手配されるまでの大体のいきさつを説明した。


「真実はそういう話だったのか……思ったより事態は深刻だね。

 しかし、まずは無事で良かったよ。もし安否が分からないようなら、今日の夜探しに行こうかと思ってたんだ」


「ご心配おかけしました。それでここからが本題なのですが、リリンという女の子を知ってますか?」


「何故君がその名を知ってるんだ!?」


 リリンの名前を口にした瞬間、ミルコは立ち上がってバルトの方へ身を乗り出した。


「いや、知ってるというか一度会っただけで……あの、それ大丈夫ですか?」


 バルトは、ミルコがお茶を服に全部溢しているのを指差した。


「うわ!やっちゃったよ……フラン見てないよね?」


 ミルコは慌てて洋服を拭きながら、夕飯作りでキッチンにいるフランの様子を気にする。


「驚かせてすまなかったね。それで一体どこでリリンに会ったんだい?」


 ミルコは服の染みを必死にとりながら小声で聞いてきた。


「転移した先の森で会ったんですけど……」


 バルトはリリンとの森での出来事を話した。


「魔王に意思があるか……確かにそれはかなり不味い。それにリリンまで動いてるとなると、かなり不味い状況なのだろうね」


 ミルコは話を聞き終えると、深刻そうな顔をして口を開いた。





「ここからは、私の空想だと思って聞いてほしい。実は……私は昔勇者のパーティーにいてね、リリンもその一員だったんだ。


 私達は魔王を倒すという使命に全力で応えようと必死に努力したよ。


 そしてとうとう魔王にたどり着くことが出来た。いや……辿り着かされたという方が正確かもしれないがね……


 いざ魔王を討伐しようとしたとき、魔王は勇者にたった一撃で倒されていたんだ。そして、それは決して勇者が強かったわけではない。


 言い方を選ばずに言うと、勇者は正直そこら辺の冒険者と変わらない強さだったのさ。


 …………魔王は、ただ魔物を作るだけの操り人形だったんだ」




 ミルコは一通り話すと、お茶を一口飲んだ。バルト達は予想外の内容に、上手く言葉が出せずにいる。




「魔王は、国が作った架空の敵だったんだよ。国のお抱えの召喚士を何人も使った大規模な召喚で無理やり魔界から呼び出すんだ。


 それも魂を抜いた状態でね。

 ただ、いくら意思を持たない人形でも魔力は絶大だ。溢れ出る障気(しょうき)から魔物は生まれ続ける。それが国の狙いだったんだ。


 国と繋がりの深い貴族の子供を多額の賄賂で勇者として選び、怯える国民を騙して茶番劇を始める。

 しかも厄介な事に国王は代々、【癒えぬ傷】というスキルを人に付与できる。

 これが勇者だけが持つ、着けた傷は絶対に回復しないあのスキルだ。


 そして私は実際に勇者が動かない魔王を、へらへら笑いながら、適当に刺した瞬間に立ち会った。

 私は情けないやら、悔しいやら、色々な感情が混ざりその場で崩れ落ちてしまったよ」


 ミルコが少し話すのを止めても、誰一人口を開く事が出来なかった。


「私は街へ帰ってから、すぐさま国王へ抗議した。けれど全くの無意味だったよ。


 そもそも証明のしようがないからね。結局私は勇者に対する反逆者の烙印(らくいん)を押され、ギルドを追放された。


 その時にリリンもえらく怒ってね、色々なことがあって、彼女はそれ以来姿を見せなくなったんだ。

 彼女はある国の女王の娘だから、てっきり国に帰ったとばかり思ってたよ。


 バルト君、彼女は元気だったかい?リリンは亡くなった妻の親友でもあったんだ」


 ミルコは苦笑いをしながら、夕飯を作るフランをどこか寂しげな表情で見つめた。


「とても元気にしていましたよ。元気というより、わんぱくの方が合うかもしれませんけど」


「ははは!相変わらず見た目は子供のままか!安心したよ」


 ミルコは安心したように笑うと、バルトは部屋の空気が少し軽くなったように感じた。



「ただ、リリンさんはこのままでは国は滅ぶかもしれないって言ってました……」


「可能性は高いだろうね。あの勇者じゃ、魂の入った魔王を倒せるわけがない。ましてや魔物も魔王の意思で作っていて、今までの魔物と違い本物の脅威になっている。


 勇者といえば聞こえはいいけど、実際は金持ちのボンボンだ。

 使いこなせないスキルを持ってるただの素人だからね。


 恐らく国も予想外の事態だったんだろう。秘密裏(ひみつり)に解決しようとして、騎士団を騙して使ってたんじゃないかな?

 そこで、君達がタイミング悪く現れた。

 命を狙われる理由には十分だ」


「それなら、話が通りますわね。キースさんがすぐに味方についたのも納得ですわ」


 ハンナが不安そうな表情をしている。


「ハンナさん、そんなに心配しなくてもケルベロスのリーダーさんが、勇者の代わりになんとかしてくれるはずだから大丈夫だよ」


 ミルコがニコニコしながら、バルトを見た。


「いやいやいやいや!それはないです!それだけは本当にないです!」


 バルトは慌てて否定する。


「私はそうは思わないけどね。リリンも君だからこんな話をしたんじゃないかな」


「皆さん、俺を過大評価しすぎですって!それに今のままじゃ絶対に勝てませんし」


「別に焦る必要はないさ!君の事だ、嫌でも絶対に巻き込まれていくだろうからね。


 そもそも、私一人が困った時だって動かずにいれないのに、国民全員が困ってるのに動かずにいれるはずがない」


 ミルコの期待の眼差しを受け、バルトは一気に罪悪感に押し潰されそうになる。


 責任のレベルが違う。俺は自身の身の丈にあった問題だから解決出来ていたのだ。それを、国民を救うなんて……自身のレベルから遠く離れた問題としか正直思えなかった。


「と、とりあえず状況整理は出来たし……明日のことをまずは考えよう!」


「夕飯できましたよー!」


 バルトが話をそらそうとすると、ベストタイミングで夕飯が出来上がった。


「フランちゃん、僕たちも運ぶ位はするよー」


「あ、ありがとうございます!」


 クリス達が料理を運びにキッチンにいき、テーブルにはミルコとバルトの2人きりになった。


「こうやってフランとご飯を食べれるのは、バルト君のお陰だね。あの時は本当に助かったよ」


「頂きすぎな位、お礼は頂きましたから貸し借りなしですよ。あ!……そう言えば、ミルコさんあの時勇者に小さい声で何て言ったんですか?」


 バルトはずっと聞こうと思っていたのを思い出して、ミルコに尋ねた。


 あの時勇者かなり怒ってたよな……


「確か……貰ったスキルで調子こいてるゴミ野郎、3人にパーティー断られたらしいな?

 勇者になってもパーティー組めないやつ初めて見たよ……って言った気がするね!」


 ミルコの勇者に対する恨みの深さは予想以上だった。

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