三章 異世界の幼女はなぜか強い
「ほれほれ!追い付かれるぞぇ!」
幼女が楽しそうに笑いながらバルトの頭をポンポン叩く。
「笑い事じゃないって!俺、今魔法が使えないんだ!」
「そうなのか?では、少しだけ助けてやるさね」
そういうと幼女がバルトに強化魔法をかけた。
「ぶぉっい!めちゃくちゃ走るの速くなったんだけど!?」
思わず変な声が出るくらい体が軽くなり、バルトの走るスピードはぐんぐん上がっていく。
「お嬢さんこんな強い強化魔法使えたの!?」
「軽くかけただけさ。それよりそんなに逃げんでも、今の兄ちゃんなら倒せるんじゃないかい?」
「それもそうか!」
急停止し、バルトは幼女を肩から下ろすと追いかけてくる魔物の方を向いた。凄い勢いで走ってきてるはずなのだが、バルトの目にはスローモーションのように映っている。
視覚強化までされる強化魔法なんて、上級通り越して神級クラスの魔法じゃないのか?
バルトは幼女の正体が気になったが、とりあえず今は魔物を倒すことに専念することにする。
魔物はバルトに飛びかかり思い切り殴ろうとしたが、軽く避けられバルトの姿を見失った。その隙に、バルトは魔物の懐に潜り込み、軽く魔物の顎を打ち抜く。
すると魔物の首は高速で30回ほど回り、一瞬で捻り切れてしまった。
「…………さすがに強化の域越えてるよ!」
あまりの自身の攻撃力上昇にバルトはひいてしまった。
「ほう!ここまで強化されるのか!これは兄ちゃんとあたしの相性が良いのかもしれんな!
体の相性も期待できるんじゃないか?」
幼女が茶化すように笑いながら話しかけてくる。
「誤魔化すのは止めてくれ……でも、今回ばかりは助かったよ。ありがとう」
「そこはお互い様さ。でも、これでやっとゆっくり話せそうだ。
互いに聞きたい事があるみたいだからね。
こっちが先で悪いが、何故いきなり転移してきた?」
「別に問題ないよ。ただ、話がややこしくて説明が難しいんだ……お嬢さん国王側の人じゃないよね?」
強化魔法の件からも信用できるとは思うが、念のためにバルトは確認する。
「違うよ。話しにくい事は話さんでえぇからとりあえず話してみな」
バルトはある程度隠しながら、騎士団本部であったことを幼女に話した。
「ふむ……国王がねぇ……」
幼女は一通り話を聞いて、難しい顔をする。
「なんにせよ、兄ちゃん達は今日から国中で指名手配されるだろう。ギルドや目立つ所には行かない方が賢明だと思うよ」
「やっぱりそうだよなぁ……しかし、なんでこう変な方向に話が進んでいくのか……」
バルトはその場に座り込み、空を見上げた。
「でも一つだけ救いがあるじゃないか。騎士団の中に兄ちゃんを助けてる人が1人はいるってことだろ?
しかもここは騎士団から5キロは離れてる。なかなかの転移使いじゃなきゃ出来ない芸当だ」
「あぁ……確かにそうか」
色々あって忘れていたが、俺達をワープさせてくれた人がいるんだよな……大体は予想つくけど。
「そんで、お仲間はどこにいるんだい?」
「それが見当たらないんだよ。一緒に転移したはずなのに」
「それなら森の中にはいるんじゃないかね?転移の距離が長い程、目標にズレが生じるものだ」
「まぁ、魔物なんかに負ける奴らじゃないからそんなに問題じゃないか……それより、お嬢さんは何でこんな物騒な森にいたんだ?」
バルトは状況を整理するため、幼女に質問した。
「うちのボスからの依頼でね、少し魔物を調べてたんだよ。最近奇妙な噂話が多かったから心配してるんだ」
幼女はそう言うと、バルトの膝に座ってきた。
美少女とのスキンシップは心の栄養になるので、バルトはすんなり受け入れる。
「ボス?ちなみにどんな話だ」
「魔物が普段と違い、意思や知能を持ってるやつが現れたんじゃないかって噂話があってね。残念ながらあたしが見る限りはいつもの魔物しかいなかったんだけど……兄ちゃんはどう考える?」
幼女はバルトを見上げるように見つめてきた。
さすがにダンジョンで得た情報の話は、巻き込んでしまう可能性があるので言わなかったのだが……
「そうだな……俺が言えるのは噂じゃなく、それは本当の話ということだけだ。理由は話せないが、答えだけなら話せる」
幼女の目をまっすぐ見つめバルトは答えた。助けてくれた恩もあるし、ただの答えなら、変に巻き込むことはないだろう。
大抵の厄介事は結果より過程を知ることで巻き込まれる。
例えば殺人事件なんて良い例だ。
死んだ事実より、何故死んだかを知ってしまった方がトラブルに巻き込まれやすくなる。
「ははは!兄ちゃんは本当に優しいやつだ。その答えで十分だよ。代わりと言ってはなんだが、1つ兄ちゃんに役立つ情報をやろう」
幼女は立ち上がりバルトの前に立つと、鋭い目付きに変わった。
「今回の魔王は今までの脱け殻とはわけが違う。恐らく勇者ごときで倒せる代物ではない。それは兄ちゃんの話で予想から事実に変わった。このままではこの国は滅びるぞ」
「滅びるって……話が繋がらないんだけど……」
バルトは幼女の話に困惑したが、不思議と幼女が世迷い言を言ってるとは思えなかった。
「詳しくはミルコの坊主に話を聞けば良い。あたしはそろそろ行くでね、ミルコにはリリンから聞いたと言えば分かる。行くときは気を付けて行くんだよ」
そういうとリリンはバルトの額に軽くキスをする。
「これで魔法は全て使えるはずだ。助けてくれたお礼だよ。もっと激しいお礼が希望ならいつでも待ってるでねー」
「え!?いや、え!?一つも意味が分からないけど!?」
バルトの体に一気に魔力が戻ると同時に、リリンは背中から黒い羽を出し飛んでいってしまった。
「一体なんだって言うんだよ……」
バルトはリリンにキスされた額を擦りながら、大の字に寝転んだ。
とりあえず細くて脆いが、助かる道はありそうだな……
バルトが少し安堵すると、遠くからハンナ達がバルトを探す声が聞こえてきた。




