ありがたい石
雰囲気だけ時代小説。。。設定ゆるふわ。最後まで薄目でごらんください。。。
!! このはなしには、残虐な場面、血の表現、そのほかいろいろよくない表現が続いてでてきますので、ご注意ください !!
(いやなはなしとしては、『西堀の 』より、いやなはなし)
流しの物売りをしているヒコイチは、今回『ありがたい石』を売ることになる。どうにかその仕事を終えたとおもったら、長屋のチョウスケがやってきてつとめるお屋敷の死んだ奥様たちが成仏したはなしをする。そこでヒコイチは、成仏せずにそばにいる黒猫の《乾物屋》のことを思い出すのだが。。。。
一、
ああ、寒いな、と思うほど、その日は冷え込んでいた。
みあげた梅雨時期の空はどこまでも重そうな雲でふさがれ、いまにもひとふりきそうな色をしているが、吸いこむ空気にはいつもの湿り気はなく、雨の匂いもしない。
よっこらせ、とつい年寄のような声をだしながら背負った荷を、欠けた古い石段の上におろした。
「あらヒコさん、今日はもうしまいかい?」
石段の下を通りかかった女に声をかけられる。
ときおりまわってみる料亭の女中頭だった。
「ああ、荷がどうにも重くってな。長いこと背負ってらんねぇんだ」
「いやだよ。漬物石でも売り歩いてんのかい?」
「まあ、似たようなもんさ。庭に敷く石ころよ」
なんだいそりゃ、と笑いながら女はまた歩きだし、うちのお店に入れられる物があったらまた寄っておくれ、と首を傾けた。
「まいど。ごひいきに」
なかなか色っぽいその後ろ姿に商売用の挨拶をかえし、荷籠を見下ろした。
「 ・・・ほんとに石ころだったら、良かったのによお」
ため息とともに荷のとなりに座り、身をひねって上のほうまで続く石段を目でたどると、寺とおもえる大きな門を認めた。
そうか。ここも寺だったか・・・。
ヒコイチがいま背負っている荷は、石は石でも、『ありがたい石』だった。
いや、『ありがたい石』と言ったのは、ヒコイチの商売の《元締め》である男なのだけれど。
ヒコイチの仕事は、《元締め》が仕入れた品物を背負って、まちなかをながして売り歩くというものだ。
《元締め》が仕入れる『モノ』は、毎度まったく違う買い手を必要とするもので、菓子から瀬戸物、布団に、お茶に、金魚、と幅広く、まったく同じものはあつかわない。
最初にこの仕事を任されたとき、なにもわからないヒコイチは、とりあえず、背負った物に興味をひかれるような『うた』をうたいながら、まちなかをながすことにした。そうして声をかけられるのを待ち、買ってくれそうな店の裏手から直接飛び込んで、物をみてくれないかと頼んでまわった。
初めはまったくどこにも相手にされなかったが、ヒコイチの『うた』にひかれたものずきな隠居が声をかけてくれ、そこから客がつきはじめると、すぐに噂がひろまって、ひいきの客がつき、二年もすると、担ぐ品の良さが評判となり、大きな店から、うちにその品を卸してくれないか、と言われるようにもなった。だが、元締めの男が大きな商いを嫌がるので、そういう話しはすべて断っている。
それなのに、得た《信用》は大きなもので、いまでは背負った籠や箱にいっぱいの品物たちは、一日の終わるころにはほとんどはける。
だから、今日のようにお天道様がてっぺんをすぎたあとにも、まだこうして荷が重いというのは珍しい。




