第42話 すべての嘘が終わる日
第42話 すべての嘘が終わる日
王太子とヴェンツェル殿下の処分が正式に発表されたのは、国王陛下の裁定から三日後だった。
宮廷の大広間で読み上げられた処分は、宮廷中に響き渡った。廊下で、食堂で、庭園で──すべての人が耳を傾けていた。宮廷の歴史の中でも、王族二人が同時に処分される事例は稀だという。
だが国王陛下は迷わなかった。真実を前にして──父であることよりも、王であることを選んだ。
ヴェンツェル殿下は王籍を維持したまま、辺境の領地への永久蟄居。王太子クリストフは王位継承権を剥奪され、同じく謹慎処分。あの穏やかな笑みの男が、広間から退出するとき──初めて背中を丸めていた。
仮面が剥がれた人間は、こんなにも小さく見えるのか。国王陛下の温情により完全な追放は免れたが──王族としての権限はすべて失った。
ベルント商会は正式に解散命令。フランツは証言への協力を理由に、投獄ではなく国外追放となった。
イルマの処分は──もっとも厳しいものだった。偽証未遂と王族への不正な働きかけの罪で、宮廷から永久追放。ハイリゲン家の管理権は剥奪され、家は宮廷の管理下に置かれた。
エーファの養育権への異議申し立ても、正式に棄却された。筆跡鑑定の結果とエーファ自身の証言が決め手となった。九歳の子の言葉が──大人たちの嘘を打ち砕いた。
「おかあさまといたい」。その一言が、どんな法律論よりも強かった。イルマに残されたものは何もない。
かつてグスタフの愛人として屋敷に入り込み、正式な伯爵夫人の座を奪い、エーファを政治の道具にしようとした女。あの完璧な微笑みは、もうどこにもなかった。長い間、わたしの上に君臨していた女。
エーファを奪おうとした女。その女が──何も持たずに宮廷を去っていく。広間を去るイルマの後ろ姿を見たとき、憎しみは感じなかった。
ただ──終わったのだという感慨だけがあった。恨みでも憎しみでもなく、長い嘘がようやく終わった安堵。九ヶ月前に屋敷を出たとき、こんな日が来るとは想像もしていなかった。
処分が発表された日の夕方、工房でいつものように作業をしていた。特別なことは何もしなかった。歯車を削り、設計図を描き、紅茶を飲んだ。
それがわたしの日常だ。嵐の後の日常は、嵐の前よりずっと穏やかに感じる。同じ紅茶を飲んでいるはずなのに、味が違う。
嘘のない場所で飲む紅茶は──温かさが胸の奥まで届く。アンナの紅茶は、九年前から変わらない味だ。
でもわたしの舌が変わった。幸せな場所で飲むと、同じ味でも違って感じるのだ。
コンラートが聞いてきた。
「スカッとしましたか?」
正直に答えた。
コンラートの問いに、わたしは少し考えてから答えた。
「スカッとは──しなかったわ。「ただ──嘘がなくなった安堵はある。もう怯えなくていい。もう隠れなくていい。堂々と歩ける。自分の名前で、自分の技術で。もう偽りの上に立つ必要がない。それだけよ」
エルザが窓の外を見ながら言った。
「わたしは──少しだけスカッとしました。もうイルマ様に怯えなくていい。それが嬉しい」
泣き笑いのエルザを見て、わたしも笑った。この人が笑えるようになったこと。もう影に隠れて生きなくていいこと。
自分の場所を見つけたこと。それが──何よりの「ざまあ」なのかもしれない。
◇
翌日、アルヴィン侯爵が技術委員会の委員長を辞任した。
会議室での辞任挨拶。白い髭、深い皺、深い皺が刻まれた顔。最初に会ったときは威圧的に見えた。
でも今は──安堵が浮かんでいた。長い戦いを終えた人の顔だ。
「わたしは長い間、しがらみに縛られてきた。権力に屈し、真実に目を閉じてきた。それを断ち切る勇気をくれたのは──一人の技師だった」
侯爵がわたしを見た。
「リュシエンヌが信じていた人だ。──わたしも、信じる」
委員たちが立ち上がり、長い拍手を送った。殿下の圧力に屈していた人々が──今、侯爵の決断を称えている。
侯爵が委員長の印章をテーブルに置いた。
その後、廊下で侯爵がわたしに言った。
「領地に戻る。もう宮廷には戻らないだろう。──あとは頼んだぞ」
大きな背中が廊下を遠ざかっていく。一度も振り返らなかった。でも──歩みは軽かった。
鎖を断ち切った人の足取り。リュシエンヌ様の遺志を、わたしに託して。
廊下の窓から、夕日が射していた。侯爵の影が長く伸びて、角を曲がって消えた。わたしは一礼した。
見えなくなった背中に向かって。ありがとうございます、侯爵。あなたが真実を選んでくれたから──わたしたちは、ここにいます。
◇
夕方、王妃様から呼び出しがあった。
「国王陛下があなたに称号を授与する意向よ。王室直属技術顧問。技術委員会の独立性を制度として守る仕組みを、あなたに設計してほしいと」
わたしの提案が制度になる。リュシエンヌ様が記録で守ったものを、制度で守る。
「光栄です。でも──わたしは現場で歯車を削る技師でいたいです」
「どちらもやればいいわ。あなたなら、できる。──リュシエンヌも、そう思っているわ」
王妃様が微笑んだ。銀の小箱に手を置いて。
工房に戻ると、五人分の杯がテーブルに並んでいた。アンナの手料理の匂いがする。エーファが走ってきた。
「おかあさま! おいわい!」
「何のお祝い?」
「わかんないけど──みんながにこにこしてるから、おいわい!」
エーファの言葉に、全員が笑った。この子は──いつも核心を突く。
難しい理由はいらない。みんなが笑っていれば、それがお祝いだ。
嘘のない食卓を、五人で囲んだ。エーファの笑い声。コンラートの冗談。
エルザの微笑み。アンナの温かい料理。ダリオの静かな温もり。
これが──わたしが手に入れたかったものだ。何年もかかった。でも──手に入れた。
自分の手で。この手で歯車を削り、この手で証拠を集め、この手でエーファを抱きしめた。すべて──この手で。
ダリオが隣に座っていた。何も言わない。
ただ、同じ食卓にいる。それだけで──言葉よりも多くのことが伝わってくる。




