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夫の愛人の隠し子を九年育てましたが、そろそろ自分のために生きます  作者: 渚月(なづき)
第4章

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第41話 王座の前の真実

国王陛下への二度目の拝謁。


前回は技術の報告と殿下の不正を伝えた。あのときは緊張で膝が震えた。ダリオの歩幅に必死で合わせていた。


今日は──震えない。わたしの歩幅が、ダリオと自然に揃っている。積み上げたものの厚みが違う。


今回は──王太子の関与を告発する。国王にとって、二人の息子の不正を突きつけられることになる。


ダリオが隣を歩く。いつものように歩幅を合わせてくれている。歴代の王の肖像画が並ぶ長い回廊。


前回と同じ道──でもわたしの足取りは前回より確かだった。胸元にリュシエンヌ様の手帳がある。あの方の三十年分の知恵が、わたしの胸の上で温かい。


手の中には三つの証拠。背後にはアルヴィン侯爵の覚悟。


王の間は前回と同じ簡素な部屋だった。国王陛下は──前回より痩せていた。病が進んでいる。


しかし目は変わらない。曇りのない、鋭い目。


「ノエル・カペル。また来たか」


「はい、陛下。重大な報告がございます」


「聞こう」


陛下の一言が、部屋の空気を引き締めた。わたしは深呼吸をした。エーファに教えた深呼吸。


緊張したときは、息を吐いてから吸う。手元のノートを開いた。表紙が少し擦れている。


何度も開き、何度も書き足したノート。わたしの一年間がここに詰まっている。自分の目で確認し、自分の手で記録した証拠。


伝聞ではない。推測でもない。リュシエンヌ様から学んだ、事実の積み重ね方。


わたしは書類を広げた。


一つ目。フランツの証言記録。


王太子がフランツに殿下を裏切るよう指示したこと。殿下を失脚させた後、利権を引き継ぐ計画があったこと。


二つ目。リュシエンヌ様の管理簿に残されたマティアスの閲覧記録。王太子府の側近が、殿下の不正に関わる書類を三年前から閲覧していたこと。


三つ目。アルヴィン侯爵が保管していた、王太子府からの非公式な鉱山データの照会記録。侯爵自身の署名入り。


「三つの証拠が示す結論は一つです。王太子クリストフ殿下は、ヴェンツェル殿下の不正を最初から知っていました。知りながら放置し、殿下が十分に罪を重ねた時点でフランツに裏切らせ、殿下を失脚させた。目的は──殿下が握っていた利権を自分のものにすることです」


長い沈黙。


陛下の目が閉じられた。窓からの光が、白髪を銀に染めている。


十秒──二十秒。時間の感覚が消えた。


陛下が目を開けた。


「クリストフを呼べ」


王太子が王の間に現れたとき、穏やかな笑みは健在だった。しかしわたしの存在を見た瞬間、目の奥にかすかな動揺が走った。


「父上。お呼びでしょうか」


「クリストフ。ノエル・カペルの報告を聞いた。弁明の機会を与える」


わたしが証拠を一つずつ読み上げた。淡々と、事実だけを。声が広間に響いた。


自分でも驚くほど落ち着いた声だった。もう怖くない。技術委員会で殿下の前に立ったとき、国王陛下に最初の報告をしたとき──毎回怖かった。


でも回を重ねるごとに、事実に裏打ちされた言葉は強くなる。感情を挟まず、推測には「推測ですが」と付け加え、確認済みのものだけを「確認済みです」と明示した。リュシエンヌ様がそうしていたように。


王太子は最初、余裕の笑みを浮かべていた。わたしの告発を予想していなかったのだろう。あの穏やかな笑みが──少しずつ崩れていくのを、わたしは見逃さなかった。


一つ目の証拠で、笑みがわずかに硬くなった。


二つ目で、顎が引き締まった。


三つ目──侯爵の書簡を示したとき、王太子の手が震えた。


「これは──状況証拠にすぎません。わたしは宮廷の安定のために──」


「安定のために弟を利用したのか」


陛下の声が低く響いた。怒りではない。深い悲しみだ。


「マティアスの閲覧記録は三年前のものだ。三年間──お前はヴェンツェルの不正を知りながら、止めるどころか泳がせ、利用した。そうだな」


部屋の空気が凍りついた。王太子の仮面が──完全に剥がれた。穏やかさの下にあったのは、殿下と同じ権力への渇望だった。


兄弟は似ていた。手法は違えど、本質は同じだった。殿下が力で城を建て、王太子が策で城を建てた。


どちらも嘘の上に建てた城だ。嘘の城は──事実の前に崩れる。どれほど巧みに建てても、土台が嘘なら、一つの事実で全体が崩壊する。


リュシエンヌ様が三十年かけて積み上げた事実の前に。手法が違うだけで、本質は同じだった。


「父上──わたしは──」


「クリストフ。お前もまた──真実より利権を選んだ」


王太子が膝をついた。あの穏やかな笑みはもうどこにもなかった。


「ヴェンツェルの蟄居を解かず、お前も同様に謹慎を命じる。王位継承については──改めて判断する」


陛下の声は静かだったが、揺るぎがなかった。父として──息子を裁く重みが、その声に込められていた。


二人の王子が同時に謹慎。宮廷の権力構造が根底から揺らぐ判決だった。でも──揺らがなければ、正すこともできない。


壊れた魔道具を直すとき、一度分解しなければ修理できないのと同じだ。宮廷という巨大な魔道具を、わたしたちは──分解し、正しい位置に組み直した。リュシエンヌ様が守った記録が、三十年の時を超えて、宮廷を正した。


王の間を出たとき、ダリオがわたしの手を取った。一瞬ではなく──しばらくの間。温かい手だった。


いつもと同じ、いつもわたしを支えてきた手。その手が──今日は少しだけ強く握られていた。


この人も、緊張していたのだ。わたしのために。


「終わったな」


「ええ。──終わりました」


廊下の窓から光が差し込んでいた。歴代の王の肖像画が、同じ場所で同じように見下ろしている。でもわたしの目には──その絵の向こうに、新しい宮廷の姿が見えた。


嘘のない場所。技術が正しく評価される場所。


リュシエンヌ様の手帳を胸元から出した。最後のページの言葉を指でなぞった。


『あなたは、もうそれができる人です』


できました、リュシエンヌ様。──あなたの記録が、最後まで導いてくれました。


ダリオと並んで工房に戻る。隣を歩く。


歩幅が揃っている。あの日から──ずっと。


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