第23話 最終決戦への序曲
Crown Coliseumの準決勝を突破した瞬間、アリーナ全体が巨大な歓声に包まれた。
Rei Phantomは、浮遊プラットフォームの中央に立ち、荒い息を繰り返していた。
銀髪が雨と汗でびしょ濡れになり、左目に浮かぶ赤い十字が激しく明滅を繰り返していた。
義眼の疼きは、今や激痛を超えた「異物感」に変わっていた。0.3秒の先読みは6秒近くまで伸び、視界が現実と仮想で激しく切り替わる。頭痛が脳を締め付け、思考が乱れ、息が浅くなり、指先が微かに震えていた。
零の胸に、激しい感情が渦巻いていた。
高揚。
達成感。
しかし、同時に強い不安と、言い知れぬ孤独感。
準決勝を突破した今、零はついに決勝戦への切符を手に入れた。
しかし、その代償は大きかった。
義眼の異変は日を追うごとに深刻になり、現実と仮想の境界はほとんど崩壊寸前だった。
アナウンスがアリーナ全体に響き渡る。
「準決勝終了!
決勝進出者、Rei Phantom!
そして、もう一人の決勝進出者は……『Eclipse Shadow』のリーダー、Eclipse!」
観客席から、大きなどよめきと熱狂的な歓声が上がった。
零はゆっくりと息を吐いた。
——Eclipse。
あの得体の知れない影のような存在が、決勝の相手だ。
零の胸に、冷たい恐怖が広がった。
Nullの影が、Eclipseを通じて零を観測し続けている。
自分の能力が、誰かに「観測」されているだけではない。
自分の義眼が、現実と仮想の境界に「穴」を開け始めている。
そして、その穴から、何か得体の知れないものが這い出てきているような感覚。
零は低く呟いた。
「……来るなら、来い」
決勝戦までの短いインターバル。
零は控室のような空間に移動した。
壁一面にホログラムが映し出され、自分のこれまでの戦績が流れている。雨の中の接近戦、Void Railgunの長距離一撃、ガルドとの死闘、雪華との再戦、準決勝での激闘……すべてが、ハイライトとして繰り返し再生されている。
零は壁に背を預け、ゆっくりと目を閉じた。
心臓の鼓動が、静かに速くなる。
現実の記憶が、再びフラッシュバックする。
事故の後、病室で一人で天井を見つめていた日々。
右目の義眼の疼き。外に出られない部屋。失われた未来。
ここでは、違う。
ここでは、撃てる。
勝てる。
生きられる。
しかし、同時に——危険な予感もあった。
義眼の異変は、日を追うごとに深刻になっている。
現実と仮想の境界が、ほとんど崩壊している。
零は小さく呟いた。
「……まだ、持てるか」
そのとき、控室のドアがノックされた。
入ってきたのは、Lilyだった。
「Phantom……決勝だね。おめでとう」
零は静かに首を振った。
「まだ、終わっていない」
Lilyは少し心配そうに零を見つめた。
「私たちも応援してるよ。チームはもうバラバラだけど……あなたが勝ってくれたら嬉しい」
零は無言で頷いた。
Lilyが去った後、零は一人になった。
義眼の疼きが、再び強くなる。
視界の端に、黒い影が一瞬だけちらついた。
【Null】
謎の影は、静かに零の成長と葛藤を観測し続けていた。
零はゆっくりと二挺のUSPを構え、鏡に映る自分の姿を見つめた。
銀髪の少女。赤い十字の義眼。冷たい表情の下に、燃えるような決意。
——私は、女王になる。
アナウンスが響く。
「決勝戦、開始まであと30分です!」
零は深く息を吸い、吐いた。
雨の記憶、ガルドの壁、雪華の照準、チームの影、Nullの影——すべてが、零をここまで導いた。
今、仮想の銃姫は、最終決戦の舞台に立とうとしていた。
アリーナの扉が開く。
零は静かに歩き出した。
銀髪が光に輝き、義眼の赤い十字が強く光る。
最終決戦への序曲。
女王の戦いが、今、頂点へと向かう。
(第23話 終わり)




