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『バレット・ファントム ~仮想銃姫の覚醒~』  作者: 蒼狐
第2部 弾道の女王

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23/30

第23話 最終決戦への序曲

 Crown Coliseumの準決勝を突破した瞬間、アリーナ全体が巨大な歓声に包まれた。


 Rei Phantomは、浮遊プラットフォームの中央に立ち、荒い息を繰り返していた。

 銀髪が雨と汗でびしょ濡れになり、左目に浮かぶ赤い十字が激しく明滅を繰り返していた。

 義眼の疼きは、今や激痛を超えた「異物感」に変わっていた。0.3秒の先読みは6秒近くまで伸び、視界が現実と仮想で激しく切り替わる。頭痛が脳を締め付け、思考が乱れ、息が浅くなり、指先が微かに震えていた。


 零の胸に、激しい感情が渦巻いていた。


 高揚。

 達成感。

 しかし、同時に強い不安と、言い知れぬ孤独感。


 準決勝を突破した今、零はついに決勝戦への切符を手に入れた。

 しかし、その代償は大きかった。

 義眼の異変は日を追うごとに深刻になり、現実と仮想の境界はほとんど崩壊寸前だった。


 アナウンスがアリーナ全体に響き渡る。


「準決勝終了!

 決勝進出者、Rei Phantom!

 そして、もう一人の決勝進出者は……『Eclipse Shadow』のリーダー、Eclipse!」


 観客席から、大きなどよめきと熱狂的な歓声が上がった。


 零はゆっくりと息を吐いた。


 ——Eclipse。


 あの得体の知れない影のような存在が、決勝の相手だ。


 零の胸に、冷たい恐怖が広がった。


 Nullの影が、Eclipseを通じて零を観測し続けている。

 自分の能力が、誰かに「観測」されているだけではない。

 自分の義眼が、現実と仮想の境界に「穴」を開け始めている。

 そして、その穴から、何か得体の知れないものが這い出てきているような感覚。


 零は低く呟いた。


 「……来るなら、来い」


 決勝戦までの短いインターバル。


 零は控室のような空間に移動した。

 壁一面にホログラムが映し出され、自分のこれまでの戦績が流れている。雨の中の接近戦、Void Railgunの長距離一撃、ガルドとの死闘、雪華との再戦、準決勝での激闘……すべてが、ハイライトとして繰り返し再生されている。


 零は壁に背を預け、ゆっくりと目を閉じた。


 心臓の鼓動が、静かに速くなる。


 現実の記憶が、再びフラッシュバックする。


 事故の後、病室で一人で天井を見つめていた日々。

 右目の義眼の疼き。外に出られない部屋。失われた未来。


 ここでは、違う。


 ここでは、撃てる。

 勝てる。

 生きられる。


 しかし、同時に——危険な予感もあった。


 義眼の異変は、日を追うごとに深刻になっている。

 現実と仮想の境界が、ほとんど崩壊している。


 零は小さく呟いた。


 「……まだ、持てるか」


 そのとき、控室のドアがノックされた。


 入ってきたのは、Lilyだった。


「Phantom……決勝だね。おめでとう」


 零は静かに首を振った。


「まだ、終わっていない」


 Lilyは少し心配そうに零を見つめた。


「私たちも応援してるよ。チームはもうバラバラだけど……あなたが勝ってくれたら嬉しい」


 零は無言で頷いた。


 Lilyが去った後、零は一人になった。


 義眼の疼きが、再び強くなる。


 視界の端に、黒い影が一瞬だけちらついた。


 【Null】


 謎の影は、静かに零の成長と葛藤を観測し続けていた。


 零はゆっくりと二挺のUSPを構え、鏡に映る自分の姿を見つめた。


 銀髪の少女。赤い十字の義眼。冷たい表情の下に、燃えるような決意。


 ——私は、女王になる。


 アナウンスが響く。


「決勝戦、開始まであと30分です!」


 零は深く息を吸い、吐いた。


 雨の記憶、ガルドの壁、雪華の照準、チームの影、Nullの影——すべてが、零をここまで導いた。


 今、仮想の銃姫は、最終決戦の舞台に立とうとしていた。


 アリーナの扉が開く。


 零は静かに歩き出した。


 銀髪が光に輝き、義眼の赤い十字が強く光る。


 最終決戦への序曲。


 女王の戦いが、今、頂点へと向かう。


(第23話 終わり)

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