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竜骨マスクでいかにして蜂蜜ホットミルクを飲むのか


 スケイスの前に珈琲が置かれ、カークスの前にミルクティーが置かれた。

 店員さんは親切で、メリサンドにも猫ちゃん用のお皿とミルクを用意してくれた。

 私の前には聳え立つトリプルアイスクリームパルフェと、ブーツの形をしたジョッキに入ったミルクココア。

 そしてシオン様の前には、ほかほかと湯気を立てる蜂蜜ホットミルク。

 白いカップとシオン様、とても似合う。

 暗黒呪術師スタイルではなく、鎖骨の見える大きめの服で指先まで袖で隠れていたら最高なのに。

 でもきっと、蜂蜜ホットミルクを飲むために竜骨マスクは外してくれるはずだ。

 骨骨しいマスクが外れるだけで、あやしげなシオン様の暗黒呪術師度が三割ぐらいは緩和されると思うのよ。


「これが、蜂蜜ホットミルク……。ホットミルクというからには、ミルクなのだろうね。それに、蜂蜜が入っている。商品名から考えるとそうだけれど、もしかしたら違うかもしれない」


「シオン様、蜂蜜ホットミルクというのは、蜂蜜が入ったホットミルクです。シオン様の考察で、間違いありません」


 蜂蜜ホットミルクを前に考え込んでいるシオン様に、私は教えてあげた。

 シオン様は私をなんとはなしにキラキラした瞳で見つめる。


「アーチェは、物知りだね」


「い、いえ、蜂蜜ホットミルクは、寝る前に飲むと安眠ができる飲み物として結構有名ですので」


「そうなんだ。本や図鑑に出てくるものは大抵知っているけれど、こういうものは乗っていないから……アーチェの飲み物が、ミルクココア。珈琲と、ミルクティーは知っているけれど、ミルクココアというのは」


「チョコレートのような味のする甘い飲み物ですよ」


「飲み物なのに、チョコレートの味がするんだね」


「そうです」


「そうです、シオン様。お嬢様は今から、甘ったるいミルクココアと、甘ったるいトリプルアイスクリームパルフェを食べようとしているんですよ。シオン様の前でこの量を注文するとか、淑女としてあるまじき行為。教育が悪くて申し訳ありません」


 アロマパイプをふかしているスケイスに言われたくない。

 シオン様はスケイスを見て目を細める。

 多分微笑んだんだと思う。

 竜骨マスクのせいで表情がわかりづらいけれど、視線だけで優しげな雰囲気が伝わってくるシオン様はもしかしたら女神の化身なのかもしれない。


「甘味好きの、粗忽者の若者、という立場なのだから、私も同じものを注文した方が良いのかな」


「シオン様、お嬢様の胡乱な発言に惑わされないでください」


「アーチェ様は時々面白いですが、シオン様まで本気で付き合う必要はありません」


 スケイスとカークスが口々に失礼なことを言う。


「二人とも、私が世直しをしたいという夢を持っているおかげで、昨日超危険な巨大マンドレイクをやっつけられたんじゃないですか。牧場主さんご一家を助けられたのだから、結構役に立ってます」


「それは良いことだよね、アーチェ。アーチェの志は、立派だと思う」


「シオン様も、これからはうっかりシオンとして、私の仲間になってくださったのですよね」


「ん。よろしくね。うっかりシオン。良いね、すごく」


 シオン様は落ち着いた中にもどことなく弾んだ雰囲気のある声音で言って、店員さんが持ってきてくれたカラトリーが入った籠の中から、長いストローを取り出した。

 長いストローをホットミルクに刺して、竜骨マスクの隙間からストローを口に含んで飲むシオン様は、さながら大きなアゲハ蝶のように見える。

 そっか、取らないのね、マスク。

 綺麗なご尊顔をさらけ出して、蜂蜜ホットミルクを飲むシオン様の姿を期待していた私は、少しだけがっかりした。

 世の中の暗黒呪術師の方々も、このようにして飲み物を飲むのかしら。

 店員のお姉さんが必要以上に長いストローを準備してくださったので、多分そうなのだろう。

 暗黒呪術師の扱いに手慣れているお姉さんだ。


「美味しいですか、シオン様」


「落ち着く味がする。ホットミルクに蜂蜜を混ぜただけなのに、驚くほど美味しい」


「シオン様は普段、お城で何を飲んでいますの?」


「そうだね。白湯かな」


「そうですか……」


 一瞬、修行僧なのかな、と思った。

 王子様とは、白湯を飲むものなのかしら。

 せめて紅茶にして欲しかった。

 私だけ食べ物を頼んでしまったので、シオン様を待たせるわけにはいかない。

 私は急いでトリプルアイスクリームパルフェを食べた。

 シオン様が蜂蜜ホットミルクを飲み終わるよりも、私がパルフェを食べてミルクココアを飲み終わる方が早かったので、シオン様を待たせずに済んだ。

 スケイスとカークスとメリサンドが私を呆れたように見ていたけれど、気づかないふりをした。


「アーチェは、たくさんご飯を食べるんだね」


 シオン様が感心したように私を見ている。

 シオン様のカップの蜂蜜ホットミルクは、半分程度しかなくなっていない。

 その見た目通りに食も細いのかしら。

 尊い。ご飯がたくさん食べられないシオン様、儚い。私が守ってあげないといけない。

 もちろんご飯がたくさん食べられるシオン様も、見た目とのギャップが尊い。

 どちらでも良い。


「アーチェ様は沢山食べますね。正義の味方よりもフードファイターの資質がありそうです」


 カークスが言う。

 ちなみにカークスは、スケイスと違って嫌味を言わない。

 多分本気で私のことを、フードファイターになるべきだと思っているに違いない。


「あぁ、それは、仕方ないのです。私とアーチェは繋がっていて、私の存在を維持するために、アーチェは沢山食べないといけないんですよ」


 ミルクを舐めていたメリサンドが言った。


「そうなの?」


「アーチェ。私は何度も説明しています」


「そうなの」


 私はメリサンドのお小言を右から左に受け流すようにしているので、すっかり忘れていたようだ。

 メリサンドのせいなら仕方ない。

 これからも沢山食べてあげよう。


「大変なんだね、アーチェ」


「大変ということはありません。ご飯が美味しいというのは、良いことです」


「アーチェ、えらいね」


 シオン様が誉めてくださった。

 ご飯を沢山食べているだけなのにシオン様に褒められる。

 今日はとても良い日かもしれないわね。




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― 新着の感想 ―
[一言] 余計な一言とは判っているのですが、ホットな飲み物をストローで飲もうとすると、カップからそのまま飲める温度であっても、舌を火傷します。 体験済み。+゜(*ノ∀`)
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