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恋人に浮気されて意気消沈した俺はお隣に住むデカすぎる美人三姉妹に死ぬほど溺愛される  作者: かくろう
後日談 凪沙更生編

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第79話 泥臭く生きる凪沙と、何も変わらない瑛斗

※ここからは本編終了後の後日談として、凪沙のその後を描きます。

よってここから主人公は凪沙に交代します。



【浮島凪沙 視点】


朝の6時半、私はスーパーのバックヤードでエプロンを締めていた。


学生を続けていれば夏休みの時期だ。


都会のような便利さはここにはない。

最寄りのコンビニまで自転車で15分、夜は街灯もまばらで、足元が心細くなる。

でも、その分、知った人と顔を合わせる機会は多い。


「凪沙ちゃん、おはよう! 今日も早いね」


バックヤードに入ってきたのは、50代後半の佐藤さんだった。

彼女はいつも笑顔が柔らかく、私が一番最初に声をかけてもらった先輩だ。


「おはようございます、佐藤さん。今日もよろしくお願いします」


私は頭を下げながら、昨日届いた新商品の段ボールを切り始めた。


昼はスーパーでレジ打ち。

夜は居酒屋で接客。

空いている日は駅前のカラオケ店のバイトを入れる。

三つの仕事を掛け持ちする毎日が、もう1ヶ月半続いている。


休憩時間に、佐藤さんが私に近づいてきた。


「凪沙ちゃん、今日もお疲れ様。この間はシフト代わってくれてありがとうね。これ、旅行先のお土産」


小さな紙袋を差し出された。中には地元の銘菓が入っている。


「ありがとうございます、お疲れ様です。気にしないでください。お金稼ぎたいので助かりました」


私は素直に頭を下げた。


佐藤さんはくすくすと笑いながら言った。


「若いのに働き者で偉いわねぇ。店長も副店長も凄く助かってるって言ってたわよ。

シフトの穴もすぐに埋めてくれるし、真面目で丁寧だって」


私は少し照れくさくなって、紙袋を胸に抱えた。


「そんな……まだまだ未熟ですけど、頑張ります」


この町に来てから、私は「よそ者」扱いから少しずつ変わってきた。

毎日同じ時間に顔を合わせ、同じ仕事を繰り返しているうちに、「凪沙ちゃん」と呼ばれるようになった。


夜の居酒屋では、酔った客の対応や部屋の清掃が主な仕事だ。

皿洗いや接客を手伝いながら、お客さんの話し相手になったりもする。


セクハラ客もすっかり私を「若い新人ちゃん」から、「顔なじみの店員」という扱いに変わり、そのやり取りには人情のようなものが感じられるようになった。


この頃はセクハラされる事も少なくなった。

たまに私とのやり取りを楽しむように手を伸ばしてくる人もいるが、本当に触る人はもういない。


泥臭く仕事する日ばかりで、疲労困憊の日も少なくない。


深夜2時過ぎ、アパートのドアを開けた瞬間、今日も全身の力が抜けた。

部屋に入ると、胡桃ちゃんが使っていた小さなクッションが目に入る。

もう彼女はいないのに、なぜかまだそこに置いてある。


私はなけなしのお金で買った小さな冷蔵庫から麦茶を取り出し、一気に飲み干した。

冷たい液体が、火照った体を少しだけ落ち着かせてくれる。


鏡の前に立つと、疲れ切った自分が映っていた。

黒髪は乱れ、目元にクマができ、唇は乾いている。


「泥臭い女だな……私」


独り言が、狭い1Kの部屋に虚しく響いた。


昼はスーパー、夜は居酒屋、空いている日はカラオケ店。


完全な休みは月に1日だけ。

生活はギリギリまで切り詰め、それ以外のお金は全て悠真に返還する為の貯金に回している。


それでも、私はこの生活を選んだ。


悠真を傷つけたこと。

彼を利用して、貢がせて、捨てたこと。

あの罪を、綺麗に忘れて生きる資格なんてないと思ったから。


私は床に座り込み、膝を抱えた。


胡桃ちゃんを助けたあの日、悠真に匿名で連絡した。

彼の声がドア越しに聞こえた瞬間、胸が張り裂けそうになった。

会いたかった。

謝りたかった。

でも、顔を合わせる勇気なんて、到底出せなかった。


「私は……まだ、変われてない」


部屋の隅に置いた銀色のリングのネックレスが、街灯の光を小さく反射していた。

あれは、悠真が私にくれたもの。

今でも、捨てられないでいる。


夏の夜風が、窓から入ってくる。

少し熱を帯びた風が、私の頰を撫でた。


私はゆっくりと立ち上がり、洗面所で顔を洗った。

冷たい水で目を冷やしながら、心の中で静かに呟いた。


明日も仕事が待っている。


泥臭く、必死に生きる。

それが、今の私にできる、唯一の生き方だ。


胡桃ちゃんが無事で、悠真が笑っていられるなら……

それで、十分だと思おう。


私は鏡の中の自分に、疲れた笑顔を浮かべた。


◇◇◇


【朝倉瑛斗 視点】


ネットカフェの個室で、俺は天井を睨みながら煙草をふかしていた。


もう1ヶ月半以上、このクソみたいな生活が続いている。


「はぁ……マジでふざけんなよ」


俺は独り言を吐き捨て、灰皿に煙草を押しつけた。


全部、あいつのせいだ。


俺はベッド代わりのソファに体を投げ出し、愚痴を零した。


最初は東京に来て、知り合いの家に転がり込めばなんとかなると思ってたんだ。


元のバンドの奴らは全員大変らしい。

それぞれがロクでもない連中だ。上手いこと逃げ仰せた俺はやはり賢いな。


足が着くので連絡するわけにもいかず、俺は逃亡生活を続けていた。


金もどんどん減ってきてるし、ネットカフェの個室代が毎日飛んでく。


「コンビニ弁当とカップ麺ばっかで、腹は減るわ、眠れねえわ……」


俺は苛立ちを抑えきれず、壁を軽く蹴った。


警察の事情聴取なんてふざけんなって話だ。


俺は何も悪くないんだよ。

全部、凪沙がちゃんと金を引っ張ってこなかったからだ。


あいつがもっと上手くやっていれば、俺は今頃普通にライブやって、女抱いて、楽しくやってたはずだ。


煙草の煙を天井に向かって吹き上げ、俺は苛立ちを募らせる。


結局あいつらのせいだろ。

毎日親父に殴られて、母親に泣きつかれて……

もう我慢の限界だったんだよ。

俺は悪くない。俺はただ、運が悪かっただけだ。


個室の薄暗い照明の下、俺はスマホで地図アプリを開いた。


「まだ少し余裕はあるが……、次の街に移動するか。

大阪か名古屋か……

どこでもいい。とにかく捕まりたくねえ」


俺はスーツケースを足元に引き寄せ、ため息をついた。


「凪沙の野郎……今頃どこで何してやがるんだ。

俺がこんな目に遭ってるってのに、のうのうと生きてやがるんだろうな。

高見沢のチビも三姉妹に囲まれて、楽しそうに夏休み満喫してやがる。

なんで俺だけこんな目に遭わなきゃいけねぇんだクソがっ!」


俺は壁に背中を預け、虚ろな目で天井を見つめた。


「俺は何も悪くない……

全部、あいつらのせいだ……」


個室のドアがノックされた。


「お客様、もう少し静かにしていただくようお願いします。他のお客様のご迷惑となりますので」


若い店員の声が、ドア越しに遠慮がちに響いた。


俺は苛立ちが一気に爆発した。


「ああ? こっちは客だぞ」


ドアを開けると、二十歳くらいの店員がびくっと肩を震わせて後ずさった。


「申し訳ありません……ですが、隣の個室のお客様から苦情が……」


「知るかボケ。俺は金払って利用してんだぞ。文句あんのか?」


店員は困った顔で目を泳がせながら、小声で続けた。


「他の個室のお客様もお休みになられているので……」


「うるせえよ。金払ってる客に文句言うんじゃねえ」


俺はドアを乱暴に閉め、舌打ちした。


また一つ、苛立ちが積み重なる。


「クソ……どこ行っても邪魔ばかりだ」


俺は再びソファに体を投げ出し、スマホを握りしめた。


金はもう目減りしている。

このネットカフェもあと何日持つか分からない。

逃げてから1ヶ月半、毎日が同じような苛立ちと後悔の繰り返しだ。


「全部……あいつらのせいだ」


俺は天井に向かって小さく吐き捨てた。


凪沙も、高見沢も、親父も、全部俺をここまで追い詰めた張本人だ。


俺だけが損をして、俺だけがこんなクソみたいな目に遭ってる。


個室の冷たい空気が、俺の苛立ちをさらに煽っていた。


「思い切って人の居ない田舎にでも行ってみるか。都会はうるせぇ奴が多すぎる」


ネットカフェの個室は冷房が効きすぎて寒い。

俺は薄い毛布を被りながら、目を閉じた。


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