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恋人に浮気されて意気消沈した俺はお隣に住むデカすぎる美人三姉妹に死ぬほど溺愛される  作者: かくろう
第3部

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第74話 黒峰の狂気

黒峰邸の奥まった一室は、酒の臭いと苛立ちで淀んでいた。


部下は震える足で部屋に入り、深く頭を下げた。

顔は青ざめ、声はかすかに震えていた。


「……報告いたします。

桃峰胡桃は……高見沢グループに保護された模様です」


その瞬間、部屋の空気が凍りついた。


蓮太郎はソファにだらしなく沈んでいた体をゆっくりと起こし、濁った目で部下を睨みつけた。


「……は?」


部下がさらに頭を下げ、声を絞り出すように続けた。


「白峰家を経由して、高見沢の息子のもとに……」


次の瞬間、蓮太郎の手が動いた。


テーブルに置いていた酒瓶が、凄まじい勢いで部下に向かって飛んだ。


「ぐあっ!」


酒瓶は部下の額に直撃し、派手に割れた。

ガラスの破片が飛び散り、額から鮮血が噴き出した。


部下はよろめきながらも、必死に立とうとしたが、膝が崩れた。


蓮太郎は立ち上がり、脂ぎった顔を歪めて怒鳴りつけた。


「高見沢だと!?

あのガキのところに胡桃を渡したってのか!?

お前ら、何をボケッとしていたんだよ!

俺のものを、勝手に高見沢なんかに持っていかれやがって!」


血まみれの部下は床に片膝をつき、声を絞り出すように答えた。


「申し訳ありません……監視を強化していたのですが、隙を突かれて……」


「隙を突かれた? ふざけるな!」


蓮太郎はさらに声を荒げ、部下の胸倉を乱暴に掴み上げた。


「こうなったら強硬手段だ。胡桃を攫ってこい。今すぐだ。高見沢のガキからも、白峰の連中からも、力ずくで取り戻せ!」


部下は血まみれの顔を上げ、恐怖と戸惑いを浮かべて言った。


「……しかし、それは流石に犯罪行為です……

警察や高見沢グループの動きも……」


蓮太郎の目が、狂気じみた光を帯びた。


「うるせえよ! 俺の言う通りに動け! 金は俺が払ってるんだ。文句があるなら、今すぐクビだ!」


部下は血を滴らせながら、掠れた声で返事をした。


「……わかり、ました……」


蓮太郎は部下を突き飛ばし、再びソファに腰を下ろした。

脂ぎった指で新しいグラスに酒を注ぎ、一気に煽る。


「胡桃は俺のものだ……

あのガキなんかに、渡してたまるか……」


部屋に、蓮太郎の荒い息遣いと、部下が床に落ちた血の滴る音だけが響いていた。


黒峰の狂気が、静かに、しかし確実に動き始めていた。


◇◇◇


高見沢グループの本社ビル、最上階の会議室は、深夜にもかかわらず照明が強く灯されていた。


父さんは大きなデスクに肘をつき、複数のモニターを睨みつけながら低く言った。


「黒峰が動きを加速させている。

胡桃ちゃんがこちら側に保護されたことを知り、かなり焦っているようだ」


俺は父さんの横に立ち、資料を食い入るように見つめた。


父さんは一つ息を吐き、続けた。


「桃峰家に対する締め付けがさらに厳しくなっている。

同時に、胡桃ちゃんを『取り戻す』ための強引な手段を検討しているという報告が入った。

拉致を再び狙う可能性が高い」


俺の指が自然と強く握られた。


父さんは俺の表情を一瞥し、静かに言った。


「高見沢グループとして、全面的に動く。

警備体制の強化はもちろん、黒峰の資金繰りの弱点も並行して突いていく。

ただ、お前は胡桃ちゃんの安全を最優先に考えて行動してくれ」


母さんが隣の席から、穏やかだが強い口調で言った。


「悠真、胡桃ちゃんは今、白峰家にいるのよね?

無理はしないで。

私たちもできる限りのことをするから」


俺は二人の顔を順番に見て、ゆっくりと頷いた。


「分かった。

胡桃ちゃんを、もう二度と危険な目に遭わせない。絶対に守り抜く」


父さんは満足げに目を細め、静かに言った。


「その覚悟があれば十分だ。

ただ、黒峰は追い詰められると最も危険になる相手だ。油断するな」


会議室を出た後、俺はすぐに三姉妹に連絡を入れた。


白峰家に向かう車の中で、俺は窓の外の夜景を見つめながら胸の内で強く思った。


胡桃ちゃんを無事取り戻せた喜びは大きい。

しかし、それ以上に、黒峰蓮太郎がまだ諦めていないという事実に、強い危機感が募っていた。


今はただ、胡桃ちゃんを二度と危険に晒さないことだけを考えよう。

黒峰の闇を暴く準備は、着実に進めればいい。


俺はスマホを握りしめ、静かに決意を新たにした。


この戦いは、まだ始まったばかりだ。


◇◇◇


【凪沙視点】


私は深夜のアパートの部屋で、一人ソファに座っていた。


胡桃ちゃんを送り出してから、数時間が経過した。

部屋は急に広く感じられ、静けさが耳に痛い。

洗濯物の良い匂いと、丁寧に拭かれた床の感触が、まだ彼女の存在を残していた。


「胡桃ちゃん……悠真」


――「あなたもどうか、お元気で」


胸に響いたあの言葉の余韻が、まだ胸の奥に、静かに疼く。


胡桃ちゃんは無事に悠真の元へ行けたはずだ。

それでいい。

それが、私にできる精一杯の償いだった。


私は立ち上がり、キッチンへ向かった。

胡桃ちゃんが使っていたコップを洗い、棚にしまう。

彼女が毎日、丁寧に片付けていた様子が目に浮かぶ。


この狭い1Kの部屋で、彼女と過ごした数日は、私にとって予想外の安らぎだった。

彼女は私の過去を詮索せず、ただ静かに家事を手伝い、温かいお茶を用意してくれた。

その優しさが、私の胸の奥に溜まった黒いものを、少しだけ溶かしてくれた気がした。


でも、今はまた一人だ。


私は窓辺に寄り、カーテンの隙間から外の暗い夜景を見た。

遠くの街灯がぼんやりと光っている。


悠真……

あなたは今、胡桃ちゃんを抱きしめているのだろうか。


私は自分の過去を思い出す。

あなたを傷つけたこと。

利用して、捨てて、後悔したこと。

あの時の自分を、少しでも贖いたいという気持ちが、日に日に強くなっていた。


胡桃ちゃんを助けることで、少しは軽くなった気がした。

でも、心の底では、まだ重いものが残っている。


アパートの出入り口に視線を向ける。


数時間前まで、あの扉の向こうに悠真がいた。

たった数㎝の金属扉を開ければ、あの顔を見ることができた。


「はぁ……浅ましいな、私」


あの時、扉を開いて顔を合わせたら、あなたはどんな顔をしたのだろう。


私は、醜い……何も変わっていなかった。


きっと、お礼にかこつけて、言葉にしてしまっただろう。


――「お礼でもいいから、もう一度チャンスをください」


我慢できずに、そんな事を言ってしまったかもしれない。


「違う! 勘違いするな! そんなものは始めから無いんだ!」


自分の浅ましい考えが胸を焦がして、苦しくなる。


そんな資格なんてあるはずない。私は散々彼に酷い事をしてきた。


期待なんてしてはいけない。彼の傷は、きっとまだ癒えてない。


もう一生関わってはいけない。


私はまだまだ変わってなんていない。

あれからまだ2ヶ月しか経っていないのだから。


私はソファに戻り、膝を抱えた。


「変わってない……私、まだ全然変われてないよ……」


この部屋は静かすぎる。

胡桃ちゃんの小さな足音や、控えめな声が、もう聞こえない。


私は目を閉じ、静かに息を吐いた。


これでよかった。

彼女は安全な場所に戻れた。

私はただ、ここで一人、静かに生きていく。


それでも、胸の奥で小さな声が響いていた。


……もう少しだけ、誰かと一緒にいたかった。


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